第六話 紋記号魔法講義と始めての成果?
それでは爆弾を投下します、やっぱり説明回となりました。
カディウスさんの自宅の居間に移動し、俺は紋記号魔法について聞く事になった。
今テーブルの上には、カディウスさんが淹れてくれた紅茶がある。
一口煤ってみたが、結構好みだった。
そして、カディウスさんも椅子に座り、紋記号魔法について語ってくれた。
「まずは、私が翻訳した古代文献を見ながら説明しよう」
そう言って、凶器になりそうなほど分厚い本をテーブルの上に置き、最初のページを開いた。
そのページには、一つの謎の記号が記されていた。
カディウスさんは、その謎の記号を指しながら説明を始めた。
「この紋記号は最も基本的な紋記号で、これから紋記号魔法を開始するという意味が含まれている。そして、この紋記号を基軸に、様々な効果のある紋記号を一定の法則で、決められた手順で円状に描いていくのだ」
カディウスさんはそう言うと、次のページを開いた。
そこには、先ほどとは違う形の紋記号? が記されている。
そして、その紋記号を指さしながら更に説明を続ける。
「次に、この紋記号は、魔粒子を収束するという意味を持っている。この紋記号は、先ほどの紋記号の次に書き込む事で、効果を発揮するのだ」
更に次のページを開く。すると、先ほどの2つの紋記号とは違った紋記号が記されていて、その紋記号には、多くの注釈が書き込まれていた。
カディウスさんは、その紋記号を指さしながら説明を続ける。
「そして、この紋記号は、魔粒子の流れを決める大事なものだ。
先ほどの2種類の紋記号の次に、これを書き込まなくては、紋記号魔法は暴走してしまう」
カディウスさんは更にページをめくり、説明を続けてくれた。
要約すると、魔粒子をプログラム的な命令文で制御し、体内魔力を流すか、自動で大気中から魔粒子を取り込むことで、通常の魔法では不可能な現象を発現させるというものだった。
そして、説明されること2時間。
俺は、ふむふむと相槌を打ちながら、黙って聞いていた。
「――――という事になっているのが、紋記号魔法だ」
俺は大きく頷きながら、そうか! そうなのか!! と、いかにもな顔をする。
だがしかし、本当に興味深い、是非とも全て知りたいものだ。
「なるほど、大凡は理解できました、つまり一定の法則に基づいて紋記号を描き。体内魔力、もしくは魔粒子を意図的に操作している、ということですね」
カディウスさんは驚きの顔をしている。
無理もなかろう、何せ俺は3歳児だ、普通のなら、オジサンそれな~に? とかなっても不思議じゃない。
「ほお! そうか、やはり君は素晴らしいな。とても3歳の子供とは思えない理解力だ」
あぁ…。やっぱり思ってたんだ。
普通そうだよね~、3歳だもんね~。
「いえいえ、それほどでも、毎日勉強してますので」
「そうか、ならば、その本は持って帰っても良いぞ」
え!? ちょ!? これあなたが翻訳した本でしょ? そんな大事なものを貰って良いのかよ!?
と一瞬思ったが、新たな遊び道具が増える喜びが勝ったので、ありがたく頂戴する事にする。
しかし、ここは一度お伺いを立てるべきだろうか。
「あの…。これは、頂いても良い物なんでしょうか?」
俺は申し訳無さそうにそう述べる。
カディウスさんは、フっと笑うよに、口の端を上に向ける。
「構わんよ、それと同じ写本ならば、もう一冊予備で持っている。これは私の勘だが、君にその本を渡すことで。紋記号魔法は、更なる進化を見るような気がするのだよ」
うおぉ!! そこまで期待されているのか!? これは…。その期待に応えなければならないだろう。
先ほどまでの長~い、長~い、説明のお陰で、およその原理は理解できたし、後は実践あるのみだろう。
「ありがとうございます!! 大切に使って、ご期待にも応えられるよう頑張ります!」
俺は、ここ一番の誠意の籠ったお礼を言った。
すると、カディウスさんは徐に立ち上がり。
一枚の平たい、大人の掌サイズの、円盤状の鉄板を懐から取り出して、俺に手渡してくれた。
そう、それは以前見せてくれた、魔道具〔マジックセンサー〕だった。
「これを君に譲ろう、私の分は幾つか予備があるから、構わず貰ってくれたまえ」
おいおい、いくら予備が有るとは言え、二つも貰って良いのか?
いや、良いか、良いとしておこう!
俺は、恭しく魔道具〔マジックセンサー〕を両手で受け取り、これまた元気にご挨拶!
「ありがとうございます!」
「いや構わん、ん?」
コンコンと、玄関をノックする音が聞こえ、マルナの声が聞こえてくる。
「カディウス~、ダインを迎えに来たわよ~」
どうやらそろそろ時間のようだ、有意義な紋記号魔法談義は終わり、俺はカディウスさんと一緒に玄関に向かう。
その途中、カディウスさんが語りかけてきた。
「ダイン君、今後私の家での訓練の際には、紋記号魔法の研究を手伝ってくれないか?」
それは面白そうだ、是非とも手伝いたい。
だがしかし、俺に期待しすぎじゃないのか?
「はい、それはこちらとしても有り難い事ですが、僕なんかで良いのでしょうか?」
「ああ 君だからこそお願いしている、先ほども言ったが私の勘がそう告げているのだ」
カディウスさんは移動しながらだったが、きちんと答えてくれた。
俺も移動しながら、カディウスさんの顔を見て答える。
「分かりました、次にお邪魔する時までに、勉強しておきます」
「うむ、よろしく頼む」
カディウスさんは、突然右手を突き出して握手を求めてきた、これは友好の証なのだろう、俺もカディウスさんに向き直り、右手を出して握手をする。
この世界でも、友好の証は握手からのようだ、俺とカディウスさんは、アツイ握手を交わし玄関に向かった。
俺はこの時、カディウスさんとは仲良くなれる気がした。
玄関の戸を開けると、マルナが腰に片手を当てて待っていた。
「あ、カディウス。家のダインはどうだった? どこかぶっ壊れたところとか無い?」
ふははは! 今回はそんな事にはなってないんだぜ? 強めに威力を設定しても、揺れもしなければ、壊れもしなかったのだからな!
「うむ、心配は無用だ。専用の訓練施設を、紋記号魔法で作ったからな」
今のマルナの頭の中はクエスチョンマークで一杯だろう、そう言う顔をしている。
だが事実だ、俺は何も壊しちゃいない。
「ん? ま…、良く分からないけど、何事も無いなら良いわ」
…何か腑に落ちないが、良いなら良いよね?
「それにしても、ダイン君は素晴らしい才能を持っているようだ。今後、私の研究も手伝ってくれると、先ほど約束したのだ」
「あら、そんなに優秀だったの?」
「ああ とても3歳の子供とは思えないな」
カディウスさんは苦笑しながらそう言った。
次の訪問日は何時にしたら良いのか? それも伺うとしよう。
「あ! そうだ、カディウスさん。次は何時来たら良いでしょうか?」
カディウスさんは顎に手を当てた、考える人ポーズ。
その顔つきと、井出達が非常に様になっています。
「そうだな…、紋記号魔法の事も勉強したいだろうし、また来週に私が迎えに行こう」
本格的に気に入られたようだ、迎えにまで来てくれるとは。
俺は、精一杯の誠意を込めて、お礼を言った。
「お手数おかけします!」
カディウスさんは、フっと笑い、口の端を上げた。
「いや 構わん、私も楽しみにしている。二人ともすまないな、足止めしてしまったようだ」
「良いのよ、気にしないで」
「うむ、ではな、二人とも」
そう言って、カディウスさんは玄関を閉め、家の中に入って行った。
現在の俺の腕力では、重たい翻訳された紋記号魔法の辞典と、魔道具〔マジックセンサー〕をマルナに持って貰った。
その道すがら、マルナに手を引かれながら親子の会話が始まる。
「ダインも本当に勉強家ね、こんな分厚い本を読むなんて」
マルナは一度、紋記号魔法の辞典に目をやり、俺に問いかけた。
「うん、なんだか面白そうだよ」
「そう? でもこの魔道具、そう言えば4年前にも見たわね」
ほう、4年前にはもうあったのか?
「そうなの?」
「そうよ、軍団ランク7のモンスター達と戦った時だったわね。あの時は正直、この魔道具に救われたわよ」
へぇ~、初めて聞いたが、どんな風に使ったのかが非常に気になる所だが、今は気にしないでおこう、他に考える事もあるしな。
「へぇ~ そうなんだ」
「ま、流石は青の大魔導士って、呼ばれてるだけの事はあるのかもね」
カディウスさんの事だろうか? ご大層な二つ名だな。
「それって、カディウスさんの事?」
「そうよ、彼は、見かけによらず有名人だから」
すげーなカディウスさん、もういっその事、師匠と呼んだ方が良いのかもしれない。
「凄い人なんだね」
「そうね~、カディウスが居たから、あの戦いで生き残れたって言っても、良いかもしれないわね」
なんだか、とんでもない戦いだったんだろうな。
そんな事を思い、会話をしながら自宅に到着し、俺は自室で紋記号魔法の辞典を開き、読書モードに突入する。
マルナは、夕食の支度を始める。
夕食までの時間、俺はまだ説明されていなかった部分の、紋記号のページをめくり、書き込まれている説明と、注釈に目を通して行く。
その中でも、興味を引かれたのが、接合紋記号と命名された紋記号だった。
その紋記号は、幾つかの完成した紋記号円を繋ぎ合わせる事が出来、より複雑な動作をする紋記号魔法が、出来るようになるというものだった。
つまり、複数のプログラム同士を繋ぐような働きがあるようだ。
そこでふと思ったのが、これを使えば、現代地球にあるような家電製品を、紋記号魔法的に再現できるのでは? とそう思いついた。
ふむ、これは明日からの紋記号魔法研究が、捗りそうな予感がする。
そんな事を考えていると、ライアスが帰宅したので、今日の出来事を一通り話して聞かせる。
ライアスは大層驚いていたが。
「お前なら、なんでも出来そうな気がするよ」
と嬉しそうにそう言った。
そして本日の夕食となり、夕食の最中も、俺の今日の出来事談で盛り上がった。
食事も終わり、風呂に入り、俺は寝る前に、もう少しだけ紋記号魔法の勉強をしていたら、寝る時間になったので、この日は就寝したのだった。
次の日。
何時もの様に起床し、朝食を食べ、ライアスを見送り、朝の体内魔力の鍛錬を行う。
今日から、体内魔力の鍛錬は、俺が魔力球を生成出来る限界距離で行う事にした。
現在の限界距離は半径10メートル程だ、限界距離で生成すると、近くで生成するよりも、体内魔力を大きく消費する。
要するに時間短縮術だ、時間は有限なので、有意義に使わなくてならない。
生成するだけではなく、その魔力球を操作し、さらに体内魔力に負荷をかける事30分。
ようやく、体内魔力全体の10分の1まで減り、本日の鍛錬を終了する、その後は紋記号魔法の研究をするのだ。
俺は足早に自室に戻り、ペンとインク壺を取り出し、羊皮紙に初めての紋記号魔法の紋記号を記入していく。
ふむ~、まずは冷蔵庫とかが欲しいな…。
そう、冷蔵庫は欲しい、これがあれば肉類などの生物はもちろん、野菜など、他の食品も長持ちする事だろう。
まずは、小さめの冷蔵庫を、試作として作りたいが、容れ物となる容器を作る必要がある。
これは、何かしらの木箱でも良いだろうから、後で物置を漁るとしよう。
その前に、紋記号を記述し、何時でも発動できるようにしなくてはならないので、まずは紋記号の記述から始める。
その日から2日掛けて、翻訳された紋記号魔法辞典を読みながら、紋記号円を描き終えたが、まさか羊皮紙を3枚も使う事になろうとは思わなかった。
もしこれで、制御方法が間違っていたら、貴重な羊皮紙が3枚も無駄になってしまう。
いあいあ、それ以前に紋記号が暴走しないとも限らない。
なので更に時間を掛け、記述に間違いがないか再度チェックしてみる。
更に1日後、記述には間違いが無い事が分かったので一安心である。
そうそう、紋記号を描き終えたのに、何故まだ発動しないのか? というと、発動紋記号という紋記号魔法を発動させる為の紋記号を、まだ書き込んでいないからである。
この発動紋記号は、2種類存在している。
一つは、大気中から自動的に、記載された分量の魔粒子を収束し、発動するもの。
もう一つは、体内魔力を流した時だけ発動するものだ。
冷蔵庫なので、自動的に魔粒子を収束する物を記述する。
ちなみに、この発動紋記号は紋記号円の中央に記述する。
ここでマルナから、昼食の声がかかったので、居間に移動し昼食とする。
その後、マルナにお願いして、中庭に蓋のついた木箱を1つ出してもらう。
マルナは、なにやら不安そうな顔をしていたが、お構い無しに実験を開始する。
一応保険の為、マルナに実験を見てもらう事にした。
俺はマルナに、木箱の内側に紋記号円の描かれた羊皮紙を、紐で括りつけて貰った。
後は接合紋記号で、それぞれの紋記号円の描かれた羊皮紙を繋ぎ、最後に発動紋記号を紋記号円の中央に記述する。
すると、大気中からゆっくりと魔粒子を収束し始め、紋記号魔法が発動し、箱の内側に、薄い膜のようなものが出来上がる。
この膜は、所謂クーラーカーテンの役割を担っている。
その膜の内側を、魔粒子を変換された冷気を満たす、と言う仕組みになっている。
失敗していなければ、紋記号円の書かれた羊皮紙を剥がすか、接合紋記号を途中で消すかしない限り、半永久的に持続する。
さて、膜が張ったまでは俺の記述通りだが、失敗しないように祈る。
ちなみに、箱の大きさはそれ程大きいものでは無く、縦横20センチ程の小さなものだ。
5分程二人で沈黙し、俺は恐る恐る、その木箱に手を入れてみた。
するとヒンヤリと冷たいのが良く分かる、温度帯的に丁度チルドだろう、どうやら成功したようだ。
俺は嬉しくなり、マルナに木箱に手を入れてみるように言った。
「母さんも、ここに手を入れてみてよ!」
「どうしたのよ、そんなに嬉しそうに」
マルナは恐る恐る手を入れて、驚愕の顔をした。
「これは! 凄いわね!」
俺は自慢げに腰に手を当て、こう言ってやった。
「どう? 俺が考えた新しい食料の保存方法だよ!」
ドヤ顔である、これでもかと自慢げな顔をしてやった。
「確かにこれなら、日差しの強い季節でも食料が長持ちするわね!」
その後、二人で木箱に手を入れたり出したりしながら、はしゃいでいたら、マルナから疑問が投げかけられる。
「ところでダイン、この魔道具?は、ずっとこのままなの?」
「うん! ずっとこのままヒンヤリしたままだよ、多分ね…」
それを言われると自信が無いな…。
「そう、なら早速これを台所に持って行って、残りのお肉を入れておきましょう」
そう言うと、マルナは大事そうに、なんちゃってチルド冷蔵庫と化した木箱を抱え、台所に向かっていった。
流石は主婦だ、もう利用方法を思いついたらしい、元冒険者とは思えない主婦力である。
あれ? ところで、この成果って、どうやってカディウスさんに見せたら良いんだろうか?
そんな疑問が浮かんだが、また来週、彼が訪れた時に見せれば良いのだろうと、自分を納得さる。
この日も何時もの様に、日が暮れていくのだった。