第一話 フィリップの友達
フィリップ君に友達が出来ました。
友達の語尾は全て上がっています。
俺が、ルキリア学術学院の中等部2年になってから2日目の事だ。
帰宅し、秘密の計画書を作成していた時、リディスがやってきた。
俺は書類を速やかに本棚にしまい、リディスを出迎える。
するとそこには、フィリップと見知らぬ少年が一人居た。
「いらっしゃい、リディス、フィリップ。そちらのデモニックは?」
「申し遅れましたぁ! 自分はゴードン・ルーイングと申しますぅ!」
緑髪の短髪、赤の瞳、細目、体表は紫、額の魔結晶は赤のデモニックの少年がそう名乗った。
何故か俺に、ビシッとした姿勢で挨拶している。なんで語尾が上がるの?
フィリップよ、俺を何と紹介したのか…。
「ゴードン君、そんなに固くならなくても良いよ。こちらはダインさん、僕達の友達だよ。先輩だけどね」
フィリップがそう言って俺を紹介してくれた。
俺は握手を求めてみる。
「ダイン・リヴォースだ。宜しくな、ゴードン」
「はいぃ! こちらこそぉ!」
やたらと緊張しながら握手に応じてくれた。
なんでこんなに緊張しているのやら…。
「立ち話もなんだし、取り敢えず居間に行こう。お茶も出すから、先ずはゆっくりしててくれ」
俺は3人を居間に通し、お茶の準備を始める。
準備をしていると、マルナが話し掛けてきた。
「ダインも人気者ね、随分沢山友達が出来たんじゃないの?」
「そうだね、去年は色々有ったからね」
「そうね」
マルナはクスっと笑いながら家事に戻った。
確かに、俺は友人を沢山持っている。
年下に年上、実に様々だ。
よし、お茶の準備が出来たな。
俺はエナジーハンドでお茶を運ぶ。
居間に入ると、ゴードンが目を丸くしている。
「そぉ! それはぁ!?」
俺のエナジーハンドを指差しながら驚愕の表情だ。
始めて見た者は大概この反応だな。面白いから良いけど。
「これは俺の特技だ。その内仕掛けを教えるよ」
俺はエナジーハンドで、お茶セットをテーブルに並べる。
ん? 今日はミーナはアイシャ宅にお出掛けかな?
そう、最近ミーナは、アイシャ宅に良くお邪魔しているようだ。エドガーも一緒らしい。
あの時から比べると、随分仲が良くなったもんだ。
「ねぇダイン君。ミーナちゃん、今日はお出掛け?」
俺が淹れたお茶を一口飲み、リディスがそんな事を聞いてきた。
俺も空いた席に座りながら、リディスの問いに答える。
「うん、そうみたいだね」
「そうですか…。組み手をしたかったのですが…」
「フィリップ。今週の休みでも良いんじゃないか?」
「そうですね!」
フィリップとミーナの組み手はかなりレベルが高い。
まだ俺達と同じ動きは出来ないにしても、そのスピードは、俺が7歳だった頃より上だ。
「で、今日はゴードンを俺に紹介する為に来たんだろう?」
「そうです、彼は最近、僕と友達になったのです」
「その通りですぅ!」
フィリップは負けず嫌いで、非常に生真面目だ。
クラスの取り纏め役を買って出てるらしい。
これまで、友人を連れてこなかったのは何故だろうか?
「フィリップ、今まで友人は居なかったのか?」
「僕が認める程の実力者が居なかったんです。しかし、ゴードンは別格です。一度手合わせしてみては? 驚きますよ!」
なるほど、フィリップは自らが認めた者じゃないと友人にしない性格か…。今まで気が付かなかったな。
「ほぉ、フィリップが認めるなら、受けて立とう。中庭の訓練施設に移動しよう」
俺達はお茶を飲み終え、中庭の地下の、紋記号魔法で作られた訓練施設に潜る。
最近では、俺が訓練施設を勝手に使っても、マークが怒ることが無くなった。
それは良いのだが、何か不気味だ…。成長したと思えば良いのだろうか?
さて、訓練施設に入る前に木の武器を持ち出す。
今では、色々な木製武器が有る。ライアスの日曜大工に感謝だな。
ゴードンは木斧を持ち出したようだ。
なるほど、力技なのか…。重いのを受けないように気を付けねば。
因みに魔法は無しにしてある。理由はお察し…。
木製武器でも当たると洒落にならんので、俺の対物理障壁をお互いに掛けておくのは忘れない。
「んじゃ、俺とゴードンで一本勝負で良いのか?」
「はい!」
「宜しく御願いしますぅ!」
「ダイン君! 頑張ってね! ゴードン君は強いよ!」
俺はOKサインを出して構える。
ゴードンも斧を片手に持ち構える。
「始め!」
リディスの号令で、俺とゴードンは間合いを詰める。
む! 思ったよりも早いな。流石はデモニック!
ゴードンは左手に持った斧を横薙ぎに、俺の右横腹を狙って攻撃する。
俺も槍の柄を使ってその攻撃を弾こうとするが…。
くそ! なかなかに重い…。
俺はガードの姿勢のままバックスップし、難を逃れる。
俺を逃すまいと迫るゴードン。足まで速いのかよ!
一気に俺に迫るゴードンは、左手に持った斧を上段から振り下ろす。
俺はそれを右に回避し、槍を使って脚払いを試みる。
「失礼しますぅ! 見えてますぅ!」
やっぱり語尾が上がっている…。これはデフォルトなのか?
いや、そうじゃない! 追撃せねば!
ゴードンは俺の足払いをジャンプで回避、なんという跳躍力か!
3メートルは跳んだ。凄いな…。
跳躍したゴードンは、今度は斧を両手持ちし、上段から俺に襲い掛かる。
俺だって高速戦闘の訓練をしている。伊達に反応速度を鍛えているわけでない。
俺に迫るゴードンの斧を、俺はバックスップで回避し、槍でチャージを仕掛ける。
相手の着地際を狙うのも戦法の一つだ。
ゴードンは着地際を狙われ、俺のチャージをまともに受ける。
障壁があって良かったな、ゴードンよ。
「それまで! 勝者、ダイン君!」
リディスの号令で、俺とゴードンはお互いに一礼をする。
武道の礼儀だな、忘れちゃいけない。
「しかし、とんでもないなゴードンは。危なくやられるところだったぞ」
「いえいえぇ! まだまだですぅ! 精進いたしますぅ!」
「どうでした、ゴードンは?」
「うむ、かなり良いと思うぞ。今年の中等部の抜粋組みは、フィリップとゴードンだろう」
「うん! 楽しみだねぇ。今年は何が起こるのかなぁ?」
「ま、大抵の事ならなんとかなるだろう」
俺達はこの後も組み合わせを変えて戦闘訓練を行った。
意外な事に、ゴードンは魔法もなかなかいけるようだ。流石はデモニック、色々と恵まれている。
こうして、今日新たに、語尾が上がる面白いデモニックの少年を仲間に迎えたのである。
ついでなので、エナジーフロートも見せてみると。ゴードンは立ったまま気絶していた。実に器用だ。
フィリップのチョップにて、ゴードンを再起動させ、俺達4人は訓練施設を出る。
外は既に夕刻前だったので、皆を見送る。
今後も、俺の家に来ると約束した。
マークとシンシアに会わせるのが楽しみだな。
この週の休日がやってきた。
今日は新たにゴードンを交えての訓練となる。
なんと今日はダストンも居るのだ! 今年の野外演習も近いからな、ディクトルさんも気を利かせたのだろう。
さて、先ずは彼の紹介だな。
「こちらが新たに俺達の仲間に加わったゴードンだ。皆仲良くしてくれよ」
俺がゴードンを紹介すると、皆口々に挨拶を始める。
「俺はマークだ! 同じデモニック同士、仲良くしようや!」
「わたしはシンシアだよ、よろしくね~」
「僕はダストン」
「わたしはミルフィーナ、ダイン兄さんの妹です! ミーナって呼んでください!」
「私はアイシャと申します、以後お見知りおきを」
「俺はエドガーっす! ダインさんの弟子っす!」
「はいぃ! 皆さん宜しくお願いしますぅ!」
やっぱり語尾が上がるのか…。面白いから良いけどね。
エドガーよ、お前を弟子にした覚えは無いぞ?
さて、事項紹介も終わったところで、早速訓練開始と行くか。
「んじゃ、今日はゴードンの実力を知ってもらうから、まだ組み手をしてない人から順にやっていこう」
そしてゴードンとの組み手が始まった。
俺はそれを遠巻きに見ていたが…。
いや~、ゴードン凄いね!
俺達と一緒に訓練した事無いとは言え、皆の動きに付いて行っている。
マーク、シンシア、ダストンの3人は危なく一撃貰う所だった。
がしかし、ここでの訓練経験の差が出るな。
細かい技術や読み合いがまだ出来ていないようだった。
ミーナ、アイシャ、エドガーの3人は、武器の素振りを行っている。
アイシャは杖術を、エドガーは剣術をやっている。
ミーナは…。今日は斧を使って素振りしているようだ。我が妹ながら、本当に天才だと思う。
因みに、この世界の杖は魔法の増幅装置では無く、一つの打撃武器として用いられる。カディウスさんも杖術だ。
一度だけ、カディウスさんの杖術を見せてもらった事がある。
ハッキリ言おう…。メチャクチャ格好良かった! そして早かった!
彼の友人である、母のマルナは知っていたようで…。
「カディウスの杖捌きはね、ランク10の冒険者並みなのよ」
と言っていた。
あの時はもうビックリだったね。
お、今度はフィリップとやるみたいだな。
どれどれ…。
「フィリップ君! 行くよぉ!」
「何時でも良いよ! ゴードン君!」
二人はお互いに間合いを離し、一礼をし、一気に接近する。
先ずはフィリップの高速抜刀だ!
ハッキリ言って、俺はあの抜刀の剣筋が見えない。
俺は何時も、フィリップと組み手をする時はガード主体でやっている。
さて、組み手の続きだ。
フィリップの抜刀を、斧の柄でガードし弾いている。
すげー! あれが見えているのか!?
ん? 今度はゴードンの番だな。
ゴードンが弾く際に振り上げた斧を、そのまま振り下ろしている。もの凄い速度だ。
それをフリップは、サイドステップにて回避し、続けて下段から上段に切り上げる。
ゴードンは、その切り上げをサイドステップで避け、フィリップに足払いを仕掛ける。
フィリップはその足払いを、軽くジャンプして避け、ゴードンの背後を取り一本となる。
見てて思ったが、やっぱりフィリップの剣術は凄い…。反応速度も俺達の中では間違いなくトップだろう。
そして、それに付いて来れているゴードンも凄いな…。一体どうなってんだ? 俺の友人周りの連中は…。
俺がそんな事を考えていると、フィリップとゴードンが会話を始めたようだ。
「やっぱりフィリップ君は凄いぃ! 自分じゃとても一本取れないぃ!」
「いや、これからもっと訓練すれば、僕から一本とるのもそう遠くないと思うけどね」
うむ、フィリップも認めているようだ。これからの成長が非常に楽しみである。
俺達はその後も組み合わせを変えながら戦闘訓練を続けた。
今日は昼からの集まりだったので、一回ティータイムを挟み、その後は夕刻前まで訓練を続けた。
最後にアイシャの杖術を見てみたが、とても最近始めたとは思えない程見事な素振りだった。
エドガーも頑張っている、将来的には野外演習の抜粋入りを果たすだろう。
そして、あの日の訓練から一ヶ月が経つ頃、毎年恒例の野外演習が始まる。とは言っても2回目だがね…。
今年の抜粋メンバーを紹介しよう。
中等部2年からは、俺、リディス、マーク、シンシア、ダストンの5人だ。
他にも行けそうな面子が居たが、去年のコブラヒドラの件を話したら皆辞退してしまった。まぁ、気持ちが分からんではないがね。
続いて、中等部1年からは、フィリップ、ゴードンの2名が抜粋されたようだ。
中等部3年からは、5名が抜粋されたらしい。
やはり、去年のコブラヒドラの件が大きく響いていたらしく、辞退者が大勢出たらしい。
高等部は全クラス参加だ、6クラス分有る。
俺達7人は、今年は少し早めに準備をし、今現在学院の校庭に集まっている。
時間が来るまで皆で雑談などを楽しむ。
その間にも、参加者が続々と集まり、時間が来ると、教官の演説が始まる。教官の演説は毎年同じ内容のようだ。
演説が終わり、俺達は豪華寝台付き馬車に移動する。
今年は7名いるので、3人と4人で2台に分けて移動する事になった。
リディスとシンシアの希望で、俺が彼女達と一緒の馬車に乗る事になった。
マーク、ダストン、フィリップ、ゴードンの4人が同じ馬車となる。
個人的には、ダストンと秘密の計画書について会議をしたかったんだがね…。
さてさて、今年のエピタルの森では何が起こるのだろうか?
かなり特殊なキャラですが、色々と活躍するので乞うご期待!




