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第十一話 何故か先生になりました!

 一万字オーバーです、長いかも知れません。

 さて、俺は今日から、この世界の理から普通に生まれた、精神も見た目も普通の幼児5人に、魔法を教えなくてはならない。

 その労力は、想像を絶するだろう事は、想像に難くない。

 考えても見てほしい、現代日本においても、普通の子供に…。しかも、5歳児に数学を教えるようなモノなのだ。

 魔法とは、理論と知識の集合体である事からも、容易に想像していただけるだろう。

 俺は、今日の朝食を無言で食べる、我ながら覇気がないのが良く解る。

 その様子を見たマルナが、ミーナに授乳しがら…。


「どこか体調でも悪いの?」


 と聞いてくる程だ。

 それ程までに、俺の表情は暗かったのだろう。

 しかし、俺は笑顔で。


「大丈夫だよ、少し考え事をしてただけだから」


 と安心させておく。

 その後、玄関にエナジーハンドを掛け、押し開き、今日何度目かのタメ息をつきながら、外出の言葉を口にする。

 そして、広場に向かう途中でリディスの家の前に来たので、ついでとばかりに声を掛ける事にした。

 俺は、リディス宅の玄関をノックし。


「リ~ディ~ス~! 居ますか~?」


 と、少し大きめの声で問いかける。

 すると、俺の声に反応したのか、三つの足音が聞こえてきた。

 多分、リディスと、その弟君と母親のものだろう。

 父親は、ライアスと同じ隊に居るそうなので、すでに仕事に向かったのだろう。

 なので、その三人だと推測した。

 ガチャリ、と玄関が開く音がし、中から出てきたのは予想通り…。

 リディスとその弟君、そしてリディスをそのまま大人にしたような、幼い顔立ちの母親と思しき人物だった。


「あら? もしかして、昨日リディスが話していた…。ダイン君?」


 可愛らしい美声が耳に入る、語り掛けて来たのは、その母親と思しき人物だった。

 姉が居るとは聞いていないから、母親で間違いないだろう。

 リディスと同じく、薄い桃色の、腰の辺りまであるストレートロングの美女が居た。

 リディスも将来こうなるのだろか? もしそうだとしたら、今の内からしっかりと手綱を引っ張らなくてならない。

 この美しさなら、男がごまんと寄って来そうだ。

 それはともかく…。


「はい、リディスさんから紹介のあった、ダイン・リヴォースです。近くを通ったので、リディスさんを迎えにきました」


 ニコニコしながら、俺をマジマジと見ている。

 チョット照れくさいな…。


「あらあら、まだ5歳なのに良く出来ているわね。家の旦那の、ジョージの上司さんが、良く自慢しているだけの事はあるわね」


 ウフフ、と左手で口を軽く押さえながらそう言っていた。

 俺が成人していたら、間違いなくナンパしていただろう…。

 失礼…。私情が入った。


「いえいえ 恐縮です」


 と答えると、口をあんぐり空けながら、目を丸くしている。

 なんだかマルナを見ているようだが…。

 取り敢えず、色々聞いとくか…。


「もしかして、リディスさんのお母様ですか?」


 そう尋ねると、固まっていたその人物は再起動を果たす。


「え!? ええ…。そうよ、リディスの母で、リーム・グルーノって言うのよ」


 やはりそうか、俺の推測は正しかったと言う訳だな。

 ついでに、その母親の後ろに居る、弟と思しき子供の事も聞いておこう。


「そうだったんですね、ではお母様。そちらの子は、リディスさんの弟さんですか?」


 母親のリームさんは、俺の問いを聞くと、その男の子をスイっと前に押しやる。

 恥ずかしがらないで出ておいでよ、グヘヘヘ。

 失礼…。


「そうよ、この子はフィリップ。来年から広場デビューだから、その時は仲良くしてあげてね」


 笑顔で言われたので、俺も笑顔を返しておく。

 こう言った社交辞令も、世の中を上手く渡るコツだ。異世界でも通用すると思いたい。

 すると、フィリップ君から声を掛けられた。


「お姉ちゃんに、魔法を教えるの?」


 うお、ストレートだな。


「うん、そうだよ。だから君にも教えてあげるよ」


 フィリップ君は、突然満面の笑みを浮かべて小躍りしだす。

 子供ってゲンキンだね~。

 ハッ! イカン! 俺も子供だった…。


「ありがとう! ダイン兄ちゃん! また後でね!」


 ブンブンと手振り、なやらガッツポーズをとりながら、家の奥に走っていった。小躍りしながら…。

 謎の行動だったが、体全身から、その喜びを顕わにしているのだろう、微笑ましいものを見た気がした。

 因みにフィリップは、赤めの金髪に、赤い瞳だ、髪はショートボブにしている。


「じゃ、お母さん。ダイン君と一緒に広場に行って良い?」


 リディスがそう言うと、母であるリームさんは、笑顔で頷き返す。


「それじゃ、ダイン君。娘を宜しくね」


 笑顔でそう言われたので、俺は男らしく、胸を張って答えるとしよう。


「はい、お任せください!」


 リディスが、俺の右横に駆け寄って来る。


「ダイン君! 行こう!」


 リディスが、俺の手をグイグイと引っ張る。

 これこれ、待ちなさい、まだ挨拶が終わってないでしょ?

 と思ったが、リディスに手を引っ張られたまま、俺は頭だけでお辞儀をする。

 リームさんも優しいのだろう、ウフフ、と口を押さえながら手を振っている。


「おいおい、リディス。そんなに引っ張らなくても良いよ?」


 俺は尚もグイグイ手を引っ張られている。

 そんなに急がなくても良いんだよ?


「だって…。昨日からずっと楽しみにしてたんだもん、早くいこ?」


 それは嬉しいが…。コレで良いのか?


「まったく、仕方ないな」


 俺は、リディスと手を繋いだまま広場に向かった。

 するとそこには、昨日の3人が入り口で待っていてくれていた。

 俺達5人は、お互いに手を振りながら、軽く挨拶などをする。


「よう、二人とも。今日は何して遊ぶ?」


 そう言って来たのはマークだった。

 その影に隠れるようにダストンが居て、マークの右隣には、入り口の壁に背中を預けて、手を頭の後ろで組んで、こちらを見るシンシアが居る。

 そこで、俺は昨日と同じ遊びを提案してみる。

 すると、4人共それを了承してくれた。

 その時に、今日は少し早めに遊びを切り上げて、秘密の特訓をしないか? と切り出す。

 秘密の特訓と聞き、リディスはもちろん、マーク、シンシア、ダストンも、目の色と変えて俺の話を聞く。

 俺の話を聞き終えると、皆待ちきれない表情と、言葉をそれぞれに口にする。


「おいおい! なんだか面白そうじゃねーか!」

「ホントね~! 一体何なのかすっごく楽しみ!」

「ボ、ボクも…。楽しみ」


 皆、やたらとはしゃいでいる。

 俺は慌てて皆を止め、そのついでに広場の様子を見てみると…。

 子供達は、自分達の遊びに夢中のようで、俺達の会話を聞くものは、誰一人として居なかった。

 見張り小屋は? と思い、そちらにも目を配るが、中の兵士さんは、朝のポカポカ日差しに当てられながら、すやすやと机に頬杖をつきながら眠っていた。

 俺はホッと胸を撫で下ろし、取り敢えず、昨日の遊びを始める。

 今日は、全員が1回鬼になったら終了である。

 その後は、さっき話している内で決めた、リディスの家に向かう事になっている。

 やはりリディスの家が、この広場から最も近かったのもあるが、リディスのたってのお願いでもあったのだ。

 俺を含め、4人は納得し、取り敢えず昨日と同じ場所に移動して、鬼ごっこを始める。

 やはりと言うか何というか…。ダストンが鬼の時は、マークが見かねて鬼を交代してくれていた。

 やはり、マークはリーダー的資質があるのかも知れない。

 そうこうしていると、鬼が一巡する。

 その後、5人で一旦広場の入り口に集まり、昼食の為一旦帰る事となる。

 昼食後、もう一度この広場の入り口に集まり、全員で一緒にリディス宅へとお邪魔する手筈になっているのだ。

 俺とリディスは、二人で同じ方向に、少し小走りで帰っていく。

 マーク、シンシア、ダストンも同様に、小走りで自宅に向かっているようだ。

 俺は、帰り道の道中にリディス宅があるので、彼女を一旦見送る。

 その後、俺は急ぎ自宅へと帰る。

 帰り着くと、マルナが昼食の準備を終えて、待っていてくれた。

 俺はマルナの主婦力に感謝しつつ、昼食にがっつく。

 俺の様子を見たマルナが、目を丸くしているが、そんな事は気にせずに、一心不乱に食べる!

 食べ終わった食器は、エナジーハンドを用いて流し台に置き、壷に蓄えられた水で軽く濯ぐ。

 俺はエナジーハンドを維持したまま、マルナに外出の言葉を告げ、玄関を閉めたと同時に、エナジーハンドを魔粒子に還元する。

 終始マルナは目を丸くし、少し呆れた表情をしていたが、見送りの時には、何故か笑顔になっていた。

 俺は玄関を出ると、そのまま走って広場に向かった。

 食事の直後だったので、少し体が重いが。

 そこは身体強化の魔法で、足腰を少しだけ強化し、そのまま広場の入り口に向かう。

 俺の、5歳児とは思えない程の走る速度に、何名かの人は驚いた顔をしていたが、気にせず駆け抜ける。

 そして広場の入り口到着すると、そこには早くもリディスの姿があった。

 やはり自宅が近いのが良いのか、一番乗りだったようだ。


「リディス、早いね、もうお昼は食べ終わった?」

「うん! 今日は、少し急いで食べちゃったの」


 ニシシ、と笑いながらそんな事を言っている。

 魔法を習うのが、楽しみなんだろうな、と言う事が伝わる。

 そして二人で少し会話していると、後の3人も一緒に現れた。

 相変わらず、3人の先頭を走るマーク。

 手を頭の後ろで組んで、ニコニコしながら走るシンシア。

 二人に遅れまいと、必死の形相で走るダストン。

 恐らく、何時も光景なんだろう。

 今後、何度も見るのであろうその光景は、なんというか…。一つの形を成していたが、実に微笑ましい光景である。

 それはともかく、無事に5人全員が昼食を済まし。

 今また、こうして広場の入り口に集合している。

 リディスはこの後、直ぐに帰宅する事になるのだが…。

 取り敢えず、もう一度全員に、これからリディス宅に行く事を伝える。

 そして、意思も統一出来た所で、皆一緒に歩きながら移動する。

 歩きながら移動するのは、ダストンを気遣っての事だ。

 彼の足では、恐らく置いてけぼり食らう事になるだろうと、全員の配慮だ。

 友情は大切にしなければならないが、こう言う小さな事から積み上げて行くものなのだ。

 その道すがら、マークが問おうてきた。


「なぁ~、ダイン。これから何の秘密の特訓をやるんだ?」


 俺は、右の人差し指を立てながら答える。


「それは、リディスの家に着いてからの楽しみだよ」


 マークは何やら訝しげな表情をしているが、気にしてはならない。

 その様子を見ていたリディスが、ニコニコした顔で、俺の手を握りながら口を開く。


「そうだよ! あたしのお家に来てからのお楽しみ!」


 シンシアも興味深げだ。


「秘密の特訓って、なんだかワクワクしちゃうね!」


 ダストンは、少し引き気味だったが。


「ボクあんまり体を動かすのはイヤだな…」


 大丈夫だダストン! これからやるのは、座学のようなモノだ。

 多分、ヘトヘトになるだろうけどね…。


 まぁ、そんな感じで会話をしながら、リディス宅に到着する。

 俺達子供の足でも、歩いて約5分程である。

 到着早々、リディスが玄関をノックし、帰宅の言葉を告げ、玄関を開ける。

 すると、二人の人物が奥から出てくる。

 一人は、リディスをそのまま、大人の体型したような女性。

 もう一人は、ショートボブの幼児の男の子だ。


「お母さん、皆あたしの友達なの。お家に入れても良い?」


 小首を傾げながら懇願するその姿は、保護欲を刺激される危険な可愛さがある。

 将来マジで彼女にしたいと、この時心に誓った。

 それは良いとして…。

 リディスの問いに、リームさんが答える。


「あら、そうなの。そしたら皆、こっちにいらっしゃい」


 その後俺達4人は、リディスとリームさんに案内されながら、お邪魔する事になった。

 中央の廊下を移動する時、キッチンらしき場所を通り過ぎたが。

 その場所に、俺が考案した、冷蔵庫の魔道具が在ったのが目に入った。

 やはり、この街は今でも魔道具ブームのようだ。

 リビングと思われる部屋には、ドライヤーの魔道具も目に入った。

 こうして、一般家庭でも使われているの解ると実感する、こうやって物が回っているんだなと。

 そんな事を考えていると、いつの間にか居間に通されていた。

 俺達は、子供二人で一つの椅子に座る。

 そして、リームさんが入れてくれた紅茶を一口飲む。

 なかなか良い茶葉を使ってらっしゃるようだ、非常に薫り高い味わいでした。

 お茶の最中に、俺はこれから、何の特訓をするのかを説明した。


「えっと、これから皆さんに、魔法の初歩の初歩。魔力球生成を教えます」


 これに最初に反応したのはマークだった。

 俺を指差しながら、驚いた顔をしている。


「お前、もう魔法が使えるのか!?」

「え? あぁ…。うん、使えるよ」

「くそ~、悔しいな、早く教えてくれ!」


 唇を噛み締めるようなその表情は、なんとも言えなかった。

 焦らずとも大丈夫だ! マークよ!


「そんなに焦るなよ、ちゃんと順番ってのがあるだ。先ずは大人しく話を聞けよ」

「お、おぅ…。 すまねぇ…」


 ちょっとシュンとしたマーク、良い過ぎじゃないよね? そうだよね?

 俺は周りを見渡す。

 皆、俺の言葉を待っているようなので、説明を続ける。


「先ず、魔法って言うのは。俺達が、息をしている時に吸っている空気の中にある…。この魔粒子を使って行います」


 俺はそう言うと同時に、魔力球を生成前で止めて、魔粒子を実際に見せてみた。

 すると意外な事に、ダストンが声をあげる。


「す、凄いな~、ダイン君~。その黒いツブツブが魔粒子~?」


 初めて、ダストンの間延びした声を聞いた気がする。

 彼の普段の喋りは、こんな感じに間延びしているのだろう。

 驚きながらも、語尾は伸びている。

 実に、ホンワカするキャラだなと思った

 そして、俺は説明を続ける。


「この黒い色は、俺の魔結晶の色と同じ色をしています。魔結晶とは、マルーノ、エルフ、ドワーフはお腹の中央辺りに。デモニックは額に魔結晶があります、リディスが言うキラキラです」


 そう説明すると、4人共、自分の魔結晶を確認し始めた。

 まずマルーノであるリディス、エルフであるシンシア、ドワーフであるダストンは、それぞれに服をめくり、自分の臍にある魔結晶を確認する。

 俺もこの中では、マーク以外の魔結晶は始めて見る。

 しかし、幼児のお腹は見ても興奮出来んなぁ…。

 まぁ、俺の精神が正常で有る事の証拠だよしとしよう。

 まず、皆の魔結晶の色だが…。

 リディスが青、おぉ~! 妹のミルフィーナと同じ色だ! 何か不思議な運命を感じる。

 次にシンシア、彼女は見た目によらず緑だった。

 元気っ子なので、赤かと勝手に想像していたが…。失礼しました!!

 ダストンは、これまた似合わず紫だった。

 あれ? 紫って確か、身体強化の魔法に、特化しているんじゃなかったっけか? 彼の性格に合ってない気がするが…。

 まぁ、とにかく、本領が発揮される事を祈ろう! もしかしたら、大化けするかもしらないしな。

 そして、確認するまでも無いが、マークは赤だ、コイツの魔結晶が一番性格に合ってる気がする。

 何故か、リディスの弟フィリップも、自らの魔結晶を確認している。彼の色は赤だった。

 ふむ、どんな性格なのか解らないが、取り敢えず赤のようだ。

 これまた、何故だか良く解らないが、リームさんまで自分の魔結晶を確認している。その括れたウエストがたまりません!!

 おっといけない、リームさんの魔結晶は紫だった、雰囲気と全然違うのだが…。

 この不思議に関しては、気にしたら負けな気がする…。

 俺は、この場全員の魔結晶の色を確認すると、更に説明を続ける。


「確認したところで、皆さんに最初に目指してもらうのが…。この魔力球生成です」


 と言いながら、俺は魔粒子を一気に収束させ、魔力球を生成する。

 一応、皆がコツを掴み易いように、片手を使って実践する。

 今、俺の右掌の1センチ程上に、黒い丸い魔力球が浮いている。

 皆がそれを一様に、興味深そうに見ている中、シンシアが問おうてきた。


「ね~ね~、この魔力球だっけ? もしかしてさ、昨日広場の空に浮いてたやつじゃない?」


 うお! シンシアさんご名答ですよ、確かに浮いていた。


「そう! 昨日広場の空に浮いていたのは、この魔力球です」


 と俺は言い、その魔力球を、天井の付近まで上昇させる。

 その動きを見ていたリディスは、なぜか嬉しそうな顔をしていた。

 俺は、何故そんな顔をしているのか良く解らなかった。


「では、リディス。皆を、練習出来るお庭に案内してください」

「うん! こっちだよ」


 リディスは嬉しそうに皆を先導して、この家の中庭に案内する。

 そこには、我が家と同じような物置小屋があり、我が家とは違った場所に、同じような丸太人形が地面に突き刺さっている。

 中庭の広さは、我が家と同じ位だ。

 俺は、この辺りの家の作りはどこも似ているのだろうなぁ、と思うに至った。

 とは言っても、まだ二軒しか知らないんだけどね! 

 多分間違っていないはず、正確には三軒だが。

 カディウスさん宅は、色々と作りが特殊なので、数に入れない方が良いだろう。

 俺は皆の方を向き、口を開く…。が、何故か付いて来たリームさん、何故あなたがいるのでしょうか?

 取り敢えず、気にしないでおこう。


「では、まず皆さん。初めてなので、手を出してください」


 皆がそれぞれに手を出す、マークは魔王のポーズ然りな形を右手で作っている、この世界の魔法はイメージが大切だ。

 マークがとっているポーズも、イメージの為だ! …と思いたい。

 リディアは、左手を胸の高さに上げている。

 シンシアは、両手を使って元気のポーズ!

 ダストンは、一体何に懇願しようと言うのか…? そんなポーズだ。

 一緒に付いて来たフィリップは、右手を前方に突き出し、エネルー弾のポーズだ。

 何故だか知らないが、実に様になっている。

 そして、何故か一緒についてきたリームさんは、左の人差し指を顔の横で立てている。

 何故あなたまで? と思うが…。

 取り敢えず、気にせずに説明を続ける。


「では先ず、頭の中で、魔粒子よ集まれ~! と念じます。魔粒子が解らなかったら、キラキラしたもの集まれ~! でも大丈夫です。では始め!」


 俺の号令と共に、それぞれが力み始める。

 まぁ、出来ると解っていた一名を除くが…。

 すると、最初に魔粒子を集める事に成功したのは、以外にもダストンだった。

 俺は心の中で、頑張れ! ダストン! と応援する。

 次に魔粒子を集める事が出来たのはリディスだった、この子はなんとなく出来るだろうと思っていたので良しとしよう。

 次はこれも意外にフィリップだった、どんなイメージをしているのか解らないが、魔粒子を集める事に成功している。

 マークとシンシアは最後だったが、二人ともほぼ同時魔粒子を集め始めた。

 皆最初から、ちゃんと魔粒子を集めているようだ。

 俺は、その様子を少し見てから、最後の言葉を告げる。


「その感覚のまま、魔粒子よ丸く成れ! もしくは、キラキラしたものよ丸く成れ! と強く念じます。もしくは思います」


 此処では、全員ほぼ同時に魔力球の形を成した。

 俺の台詞が良かったのか、皆才能が有ったのか解らないが、全員がちゃんと成功したようだ。

 個人的に、ダストンとフィリップが成功したのは以外だった。

 最後に忘れてはならない、体内魔力の減少についてだ。

 減り過ぎると気絶してしまい、最悪命に関わる。

 俺は、早めに魔力球を、魔粒子に還元してもらうように伝える。


「疲れたと思ったらそこまで! それ以上は絶対にやっちゃいけない!」


 俺のタイミングが良かったのか、皆フラフラになりながらも、始めての魔法体験を無事に終了させる事が出来たようだ。

 フィリップは、リームさんに手を貸してもらい、どうにか立っているが、それでも、既に限界のようで、立ったまま眠ってしまった。

 他の5歳組みは、一様に息を切らしながらも、どうにか気絶せずに座り込んでいる。

 この様子を見るに、俺が魔法の訓練を始めた2歳と数ヶ月は、かなり体内魔力が低かったであろう事が良く解る。

 魔法教本に書いてあった通り、体内魔力は年齢と共に上昇するようだが、その上昇量がどの位かは解らない。

 今後、色々なケースを見ていかなければ、明確な答えは出せないだろう。

 だがまぁ、全員成功して何よりだ。

 そんな事を考えていると、リームさんから声を掛けられた。


「凄いわね~、聞いていた通り。とても5歳とは思えないし、何より解りやすい説明だったわよ」


 おぉ~! 何故か褒められたので、嬉しがるとしよう。

 俺は、右手で後頭部をポリポリしながら、少し照れた様子で答えた。



「いえいえ、恐縮です」

「そんな事ないわよ。もしかして、もう計算とかも出来るのかしら?」

「え? はい、ある程度ならですけど」


 まさか、そんな訳はない。

 これでも、計算は得意な方なのだ。

 既に、この世界の四則演算の記号は覚えている。

 実際に、カディウスさんと魔道具の利益分配を考える時も、この世界の四則演算の記号を用いて計算している。

 あの時のカディウスさんの驚き様は、今でもはっきり覚えている。

 しかし、何故リームさんはそんな事を聞くのか?


「あら~、それは凄いわね。まだ学校にも行ってないのに」

「えぇ…。まぁ~、色々とありまして」


 俺は、少し伐の悪そうな顔をする。

 転生者ですから! とか言えないしな。


「ダイン君も来年から学校に行くのでしょう?」

「ええ、そうなってるみたいですね」

「もう文字もある程度読み書きできるのよね?」


 何故に文字? ん? 待てよ…。

 何だか嫌な予感がしてきたぞ…。


「ええ…、まぁ…。そこそこに…」

「そう! だったら、やっぱり教育は早い方が良いわ。ここに居る子たち全員に、文字と計算を教えてくれないかしら?リディスの友達なんだから、分け隔てせずに、皆にね」


 やっぱりそう来たか…。

 リームさんが力強い目線で、俺を見つめてくる。

 俺は今しがた、体内魔力を限界近くまで使った5人を見渡す。

 すると、皆息を切らせながらも、俺を力強い目線で見つめてくる。

 その目線は、決意の表れなのだろう。

 俺は、リームさんに向き直る。

 そして、俺も決意を固める! この子達に、文字と計算も教えると!

 覚悟が決まれば、後は言葉にするだけだ。


「分かりました、出来る限りの事はしましょう!」


 するとリームさんは、俺の両肩に両手を乗せて。


「是非お願いね!」


 と言うと、何やら小躍りしながら、中庭から家の中に入っていった。

 何かブツブツ… 「これであたしの子も天才よ~」とか何とか聞こえてきたが、聞こえないふりをして、目線を明後日の方角に向ける。

 しかしだ、この5人に魔法と文字、計算まで教えなくてはならないとは…。

 今後も更に、忙しくなるのだろうと思うのだった。


 そして次の日から、俺の怒涛の日々が幕をあける。

 朝は、広場で色々な遊びをする。

 と言っても、走ったり跳ねたりだが、割と良い運動になるのだ。

 その後は、一旦各人自宅へと帰宅し、昼食をする。

 午後からはリ、ディス宅へ行き、魔法と文字と計算の勉強会となる。

 文字と計算は、一日おきに交互に行う。

 先ず始めに、リディス宅で行う勉強は、座学からである。

 教師役は俺で、皆最初の頃はやりたい放題だったが、リームさんの渇が入った次の日からは、皆大人しく聞いてくれた。

 意外な事に、一番ダメそうだったダストンが、座学では一番優秀だった。

 一番ダメだったのは、言わずもがな…。マークである。

 彼も頑張ってはいるのだが、それでも、たまに理解が追い付かないようだ。

 俺はその度に、色々とアドバイスをする。

 リディスとシンシアは、同じ位の理解力だった。

 フィリップは頑張っているが、計算が苦手のようだった。

 文字の読み書きは得意なようで、半年もたつ頃には、勇者の英雄譚が書かれた絵本を、自力でスラスラ読めるようになっていた。

 フィリップすげーな! 正直侮ってました、ごめんね?

 魔法の実践練習の時は、成績順が入れ替わる。

 一番魔法の才能を持っていたのは、何とマークだった。

 3ヶ月も経った頃、俺程の体内魔力量ではないものの、5歳児の平均を、大きく上回る程までに成長した。

 魔力球の操作に関しても、半径1メートル圏内であれば、自由に動かせるまでになっていた。

 魔法に関しては、フィリップが一番出遅れている。

 まだ、4歳だったと言う事もあるだろう。

 以外にも、ダストンは頑張っていた。

 今では、魔力球の出し入れはお手の物だが、操作に関しては、マークの方が上手だった。

 リディスとシンシアは、魔法に関しても同じ位の成績だった。

 この事もあって、俺はカディウスさんに事の説明をして、属性魔法の訓練の一時中止と。

 週に一度の、紋記号魔法談義の中止を伝えなければならなかった。

 恐る恐る、その事を伝えると、以外にもあっさりと許可が出た。

 ただ、紋記号魔法談義が出来なる事が、少し心残りだったみたいだ。


「いや、それは構わんのだが。せめて夕方に、1時間でも良いから時間は取れないのか?」


 とか聞いてくる程だ。

 仕方ないので、週に2回、夕方に時間を取れるようにした。

 その相談は勿論、両親であるライアスとマルナにした。

 二人とも快く了承してくれ、俺はほっと胸を撫で下ろしたものだ。


 それから最近、俺は壮大な計画を企てている。

 内容は言えないが、紋記号魔法を使った何か、とだけ記しておこう。

 正直、何年掛かるかも分からない計画だからな。

 詳細は追って報告しよう。


 そんなこんなで、月日はあっという間に過ぎ去り、俺は6歳となった。


 と言う訳で、今回で幼年期終了です。

 次回から、第二章に突入させようと思っていますが…。

 もしかしたら、閑話を挟むかもしれません。

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