~食材の視点~ 【番外】コンサイファンタジー 05 かごの中での邂逅
「単身赴任の食卓」の中から「EP24芋がら」を、食材視点にしたらどうなるか。
これをさらに…「なろう」でよく見るファンタジーっぽくしたらどうなるか、ということで実験的につくり出しました。もしよかったら…連作になりますが…読んでみてください。
あらすじとしては「里芋を中心とした煮物の材料をスーパーで買って帰って、煮物にしたらうまかった」から外れないんですが…食材に語らせるだけ、ではなく…食材にいろいろ冒険してもらうとどうなるか、って視点でリライトしてみました。おそらく6話構成…いや、これまだ帰宅してないから、もうちょっと長くなりそうです
「モモさま、そろそろ青果のコーナーですよ」
私はモモさまにそっと声をかけた。
「土垂さま、ばあや、多分今日は、煮物になるべく、の旅となるのでしょうね」と、モモさまはつぶやく。
私は「ええ、そうなるか、と…ただ…」この先、この男がどのような形態の野菜を選択するか、で運命はまた変わる。
モモさまも、その点は薄々感づいている。
…日持ちが悪い特価品扱い
そのようなそしりを受けているモモさまにすれば、根菜水煮袋であればいざ知らず、青果として根菜類を購われたら…料理の手間を考えて「日持ちするもの」に変えてしまうかもしれない、と考えてもおかしくはない。
青果コーナーに陣取るニンジン、レンコン、ゴボウ、は、口々に「水煮よりもこちらのほうが圧倒的にうまい!」とシュプレヒコールを上げる。
現にかごを持つ男性も、一通り青果を手に取り、見て回っている。
「土垂は青果で選んだんだ!ならば、こちらを選ぶべきだ!」と、叫ぶ青果たちの勢いは全くとどまるところがない。
―――
そのころ…根菜水煮袋の中では、レンコンがじっと様子をうかがっていた。
青果コーナーで野菜を物色している姿を見ているレンコンは、気が気ではなかった。
「おい、レンコン、どーなんだ?」と小娘がレンコンに語り掛ける。
「まぁ待て…もう一度かごの中を見てみる。話はそれからだ。」と小娘を制して、俺はロータス・アイを発動した。
視界が一瞬だけ澄み渡り、男のかごの中が「未来の断片」として浮かび上がる。
…やはり里芋、これは青果…水煮を選ばないあたりが微妙だな。
…芋がら…これは干物…事後予測にはデータが足りん。
…問題は…白いパックだ。
俺はパックに向けて精神を集中する。
その中に収まる、気品に満ちた肉の気配。
…あれは、鶏モモ姫だ!
…王家の血筋を持つ、あの「全属性適合」の御方。
…どんな料理にも寄り添い、どんな味も受け止める、あの万能の姫。
俺は思わず息をのんだ。
…これなら、勝てるが…俺らが選ばれるか、とは問題が違う。
―――
青果側の野菜たちが、まるで革命前夜のように騒ぎ立てる。
「水煮なんて邪道だ!」
「煮物は生から作るべきだ!」
「俺たちを選べ!」
レンコンのロータス・アイが見せる未来は、「どちらにも転びうる」不安定なもの。
袋の中の空気が張りつめる。
ニンジンの小娘は歯を食いしばり、初老のごぼうは静かに目を閉じ、青年のタケノコは槍を構えるように背筋を伸ばす。
中年の俺…レンコンはただ、未来を見通そうと集中する。
青果たちが騒ぎ立てる中、大きな影が現れた。
それは、このスーパーでも偉大な存在の「料理をとことん極める店員さん」だった。
すさまじいほどの喧騒が、この場の神ともいえる彼女の登場によって…一挙に静まり返る。
神とも称される彼女は…かごの主に向かって…あまりにも俗っぽいことを言い出した。
「生から作ると大変ですよ。水煮ならすぐできますし、味も安定します」
…この「俗っぽさ」が、逆に神々しい。
青果たちは一瞬で静まり返る。
水煮袋の中では、レンコンが小さく息を吐き「なんだこの俗っぽい神は! でも、それでよしだっ!」とこぶしを握り締めた。
ニンジンの小娘は「にしししし、勝ったな!ぶい、だ!」とピースサインを出す。
初老のごぼうは「この年になって、初めて神を信じる気になった…」とつぶやく。
青年のタケノコが「…店員さんは、あのかたはやはり偉大ですね」と真顔でつぶやいた。
袋が持ち上がる瞬間、レンコンは確信した。
「これなら、勝てる」
ただし、「勝てる」とは料理の勝敗ではなく「自分たちが選ばれる未来」「かごの中の鶏モモ姫と共に旅ができる未来」のこと。
この先、まだ曲折はあるはずだ。
でも、今は「選んで、手に取ってもらえたこと」を喜ぼう。
袋の中で、静かな歓声が広がる。
ニンジンの小娘は「ねーレンコンさーさっき鶏モモ姫って言ってたよねー、どっかにお姫様でもいんの? だったら、あたし見てみたいー!」とじゃれつく。
レンコンは「今にお目にかかれるさ。だが、もうちょっと行儀良くしないと、姫様に嫌われるぞ?」と、いたずらっぽく返す。
「あわわわわ、あたしやっばいじゃん!」とニンジンの小娘は騒ぐが、初老のごぼうが「いや、お前さんなら気に入ってもらえるよ」と、頭を撫でる。
「そうですよ、きっと平気です。あのお方は、全属性適合、というお力をお持ちだとか…きっと小娘ちゃんを好いてくれますよ」と、青年のタケノコが肩をたたく。
「えへへへ、でも、あたしも精いっぱいおとなしくするね!」とニンジンの小娘は胸を張った。
手に取られた根菜水煮の袋は、無造作に…粗雑に…かごに、ぽんと放り込まれた。
「わ、こいつ乱暴だよ!やっばい、ひっくりかえっちゃう!」とニンジンの小娘が絶叫する。
初老のごぼうにしても、タケノコ青年にしても、防御センスはほとんどない。
俺に至っては、受け身すらとることが難しい。
だが、こんな危機的な状況をかき消すように…かごの中から「天使のような澄んだ声」が聞こえた。
「全属性適合(オール・フレーバー・シンクロ・オブ・トリモモ)! わたくしはすべてを受け止めるっ!」
やや遅れて若い男の声で「ぬめりシールド(スリップ・ウォール)! すべてを受け流せ!」
そこに重なる形…落ち着いた年配女性と思わる声で「乾物の叡智! すべてを跳ね返す!」
そんな呪文詠唱がほぼ同時に行われ、根菜水煮の袋は静かにかごに収まった。
かごの揺れが静まると同時に、ふわりと漂う気品の気配に、俺たちは思わず息をのんだ。
その姿を、まだ目にしていないのに「存在」がわかるほど…圧倒的な存在感。
…姫が、すぐそこにいる。
ニンジンの小娘は胸を押さえ、タケノコの青年は静かに姿勢を正し、ごぼうの初老は深くうなずく。
俺は、刻まれた身の奥でそっと思った。
「…この旅路は、きっと悪くない」
かごの持ち主は、未だスーパー名の中を悠然と歩いている。
この機を逃す手もない、そう思った俺は、根菜水煮を代表し、謁見を願い出ることにした。
かごにポンポン放り込まれる野菜たち…普段気にせず放り込むわけです
たまごとかはさすがに気を使いますが、水煮系はホントどんどん放り込む悪い癖が。
…嫌われないようしないとな
なんて思っています




