~食材の視点~ 電撃納豆
かっちんかっちんに凍った納豆は、基本「冷蔵庫で前日から解凍」が基本なのだそうです。
いつものオッサンは、そこらちゃんとするんですが…食文化として「しらない」人は、どうしてもこういった点が弱いようです
冷凍庫の奥で、俺は静かに眠っていた。
数日前にに補充されたばかりで、まだ誰にも触れられていない。
冷気は心地よく、仲間のパックたちと寄り添いながら「明日の朝は誰に食べられるんだろうな」なんて、ぼんやり考えていた。
…まさか、あんな目に遭うとは思わなかった。
冷凍庫の扉が開く。
東南アジア女性スタッフの明るい声が響く。
「ナトー、アッタ!」…いや、あった、じゃない。
俺はまだ凍ってる。
キラッキラしてる。
この状態で出されたら、誰も幸せにならない。
同梱されている「タレ」や「からし」もうっすらと凍っている。
俺は腹に力を込めて「や、やめろぉぉぉ!」と叫んだ。
だが、俺の抗議は届かない。
パックごと、無造作にトレイへ置かれる。
…ちょっと待て。
俺はまだ「食材」じゃなくて「氷」だ。
そこへ、いつも贔屓にしてくれているセンセがやってきた。
俺を見て、眉をひそめながら「いや、納豆さ、これカチカチだよね?」
…そうだよ!
…強く言ってくれ、センセ!
…俺はまだ「朝食」じゃない、「冷食」なんだ!
しかし、運命は…とても残酷だった…「レンジ、ツカウネ!」
…おい、やめろ、ほかに手はいくらでもあるだろう!
俺は…まったく心の準備ができていない。
みると業務用電子レンジ1500W…コンビニあたりに普通に置いてある、やたらとケーブルが太い、あれだ。
無造作に放り込まれ、ぱたん、と、扉が閉まる。
「AUTO」の表記につられた女性スタッフが、考えなしにそのボタンを押す。
…あ、これ死ぬやつだ。
中で、俺は一瞬で灼熱地獄に放り込まれた。
パックの中で、からしとタレが悲鳴を上げる。
1500W出力の陽電子砲に、俺もからしもタレも焼かれ続ける。
ぱんっ。
…ああ、やっぱり破裂した。
それでも砲撃は止まらない。
俺はいったいどうなるのだ。
…電子レンジの1500W出力の陽電子砲の効果によって、俺の体全体が微振動する。
俺にもはや抗うすべなどない。
「…身を…捨てて、こそ…浮かぶ背も……あれっ!」
赤っぽい人型決戦兵器に乗った「眼鏡の娘さん」のようなセリフを吐きながら、俺はどんどんと暴走する。
加熱による暴走が収まらない。
匂いのリミッターがどんどん外れ、形状が変化しだす。
電子レンジの庫内は、俺の形状変化によってぶちまけられるにおいによって、どんどん汚染されていく。
だが、それすらいとわずに無慈悲に加熱が続く。
「ハイー、ナトー、デキタヨー!」
いや、できてない。
俺は「納豆」ではなくなっていた。
「納豆獣化第2形態」へとすでに変貌を遂げ、すべてのリミッターが外れた状態になっていた。
すべてを察したセンセは…顔を少ししかめながら、そっと言う。
「納豆、今日はないよ、と言っておきな?」
…そうだよな。
…俺も今日は休みたい。
東南アジア人女性スタッフは…「なんでこんなにくさいのか!」と電子レンジをのぞき込んだり鼻をつまんだりと忙しい
…いや、知らないとはいえさ…
…センセ、止めてくれたじゃんか
俺は廃棄を覚悟したが…センセは顔をしかめながらトレイに乗せて、俺を席まで運んでくれた。
そんなセンセの前に座り込んだ俺の蓋が取り去られた瞬間、俺の中の「納豆臭」が学食食堂全体に、全力で解き放たれる。
センセは「納豆獣化第2形態」と化した俺を見捨てずに…青唐辛子なめたけをこれでもかとぶちまけ、醤油をこれでもかとかけて、なんとか俺を「食べ物」に戻そうとしてくれる。
…すまんセンセ。
今日の俺は、どう頑張っても「うまい」にはならない。
研修生が集まり始める。
俺の匂いに顔をしかめる。
…ごめん。
俺は悪くないんだ。
1500Wが悪いんだ。
センセは食べ終え、席を立つ。
俺は最後に思った。
「オッサン…早く戻ってきてくれ…」
これは「単身赴任の食卓~学食編~」EP32からです
ほぼほぼ凍ってることはないんですが…解凍が追い付いていない、はたまにあります。
箸が通らないほど、は本当に半期に一度くらいかな
…実は、先週…はぁ…
オッサン、あんたホント食堂の良心だよ、っていつも思っています
ありがとう




