第36話 世界の外へ
その招待は、
拒否不能だった。
《管理外通信:
優先度・最上位》
画面が、
勝手に切り替わる。
「……来たか」
俺は、
立ち上がる。
リーネが、
息を呑む。
「これ、
前より深い層です……」
「勇者は残れ」
俺は、
即断した。
「今回は、
戦場じゃない」
勇者は、
一瞬迷い――
頷いた。
「必ず、
戻れよ」
世界が、
剥がれた。
空も、
大地もない。
概念だけが浮かぶ場所。
「ようこそ、
管理者」
悪魔が、
そこにいた。
いや――
最初から、
ここにいた。
「ここは?」
「世界の外縁」
悪魔は、
あっさり言う。
「君の言葉で言えば、
“バックアップ領域”だ」
「……目的を言え」
「せっかちだな」
だが、
笑いながらも
視線は鋭い。
「君は、
不思議に思わなかったか?」
悪魔が、
問いかける。
「なぜ、
神殿が壊れても
世界は持ちこたえた?」
「なぜ、
人が分断されても
即座に崩壊しない?」
俺は、
答えない。
だが、
理解はしていた。
「……緩衝材か」
「正解」
悪魔は、
指を鳴らす。
世界の映像が、
浮かぶ。
「我々は、
破壊者ではない」
「逃がし弁だ」
「人の欲望、
怒り、
矛盾」
「それらが
世界に直撃すれば、
即死する」
「だから、
我々が吸う」
悪魔は、
淡々と続ける。
「神殿も、
貴族も、
民衆も」
「皆、
我々を使ってきた」
「……代償は?」
俺が問う。
「世界そのものだ」
即答。
悪魔は、
一歩近づく。
「管理者」
「君は、
優秀すぎる」
「世界を
壊れない方向に
最適化しすぎている」
「このままでは、
人は学ばない」
俺は、
目を細める。
「……だから?」
「だから、
提案だ」
空間が、
割れる。
無数の世界。
崩れたもの。
放棄されたもの。
停止したもの。
「君は、
ここに来るべきだ」
「管理者として」
「世界の外から、
世界を管理する側へ」
悪魔は、
静かに告げる。
「今の世界は、
いずれ壊れる」
「その時、
君は捨てられる」
「なら、
捨てられる前に
こちらへ来い」
「……それが、
本当の目的か」
「そうだ」
悪魔は、
初めて
本音の声で言った。
「君を、
こちら側に
引きずり出す」
沈黙。
俺は、
世界を見る。
分断。
善意。
怒り。
壊れかけている。
だが。
「断る」
俺は、
即答した。
悪魔が、
目を見開く。
「なぜだ」
「まだ、
壊れていない」
「俺が、
引いた線は
残っている」
「そして――」
俺は、
一歩前に出る。
「保守は、
最後まで
現場でやる仕事だ」
悪魔は、
しばらく黙り――
やがて、
心底楽しそうに
笑った。
「……いい」
「なら、
最終局面だ」
「世界が、
君を選ぶか」
「それとも――
捨てるか」
世界が、
戻る。
保守局。
勇者が、
振り返る。
「……顔、
やばいぞ」
「知ってる」
俺は、
息を吐いた。
「時間がない」




