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魔法の木エニシダの香り  作者: 文乃木 れい
慧の目にうつる世界
34/50

運動会もすぎて、、、

明日が運動会という日 慧を迎えにいくと3人も入園も申し込みがあったという、嬉しいニュースを聞いた。みんな短期ということで、許可がおりたとのこと。家の立替の間だけ近くに引っ越してきた方と、流産しそうで母親が入院した方だとか。 他の保育園でも、入園児童が増えているということで、村全体の保育児童は定員の84%にまでなっていた。このままいけばひなぎくをつぶす理由が無くなる。


 運動会のために飾り付けられた国旗や折り紙の花などで、ひなぎくは園全体が活気づいていた。

「おかあさん、けいくんね、いなごとり慣れてきたよ。年の数だけはとろうっていうことで、ちゃんと六匹とったから。」でもね、と島先生の目は笑っている。

「今日後ろ足と羽根をとったけど、カラカラになってても触るのが気味悪いみたいで ようやく2匹やってやめちゃったわ。」

「それどうするんですか?」「佃煮にするのよ。けいくんも食べてたよ。おかあさん、食べたことないの?」(食べたくない)

「いなごとりはね、運動にもなって、敏捷性もやしなって、おまけにカルシュウムたっぷりで美味しい。いいことづくめ!」と佐野先生。 

こんな時私は慧を保育園に入れてつくづく良かったと思う。

絶対に私では体験させてあげられないことをしているものね。

「けい、帰るよ、もうすぐおじいちゃんとおばちゃんが来るからね。」

運動会に両親が来てくれる。



「だって、だれも助けてあげないんだもの、かわいそうでしょ。」

母が口を尖らせた。運動会の障害物競走で、案じてた通り、慧は棒のぼりで往生した。平均台もあみくぐりもじょうずで、足も速く、それまでトップだったのに、棒のぼりの途中で止まってしまったのだ。

慧が登れなくなって、歯を食いしばっている時に、見ていられなくなった母は飛んでいって、おしりを押してしまったのだ。

助けちゃだめだったのよ、自力でやれるところまでやらせるというのが、保母さんの姿勢なんだから。と私は母に文句を言った。

 夜、子供たちは、運動会の疲れで早くに寝てしまったので、母とゆっくりとお茶をしているときだった。

 母は少しむきになった。

「小さい子に、そんな、いいのよ、今にできるようになるんだから、何もみんなが見てるのにいつまでもやらせておくのはかわいそうよ。ほんのちょっとしか押してないし。慧が自分で登ったのとおんなじよ。要領がつかめてないだけなんだから。」

「そうだよね。案外あんなきっかけでできるようになるんだよね。

慧はねばりつよいよ。さかあがりもね、百回練習したらできるようになるって保母さんに言われて、よく練習してたの、そこの公園でも。とうとうできるようになったのよ。」

母には素直に慧を自慢している自分が、私は内心可笑しかった。


「ねえ、茅のお箸って知ってる?」母に尋ねる。「ひなぎくでね、お月見会でおはぎを、茅のお箸で食べたんだって。」

「あー、稲が大風でも倒れないっていう豊作を祈っての行事よ。折れないっていう。こどもも健康になれるっていうことじゃない。」

「でもそういうのって忘れちゃうよねえ?大きくなったら。」

「そりゃあ。親が続けなければ忘れちゃうんじゃないの、きっと。」あっさりと母は言った。


 秋の長雨で家の中ばかりで遊んでいると、こどもたちにけんかが多くなる。綾さんが美穂ちゃんを連れて遊びにきてくれてて、なんとか退屈はしないでいる。早く晴れないかなあ。綾さんはアイロンがけをしてしまうって帰っていった。

 新聞をゆっくり読んでいると、電話がなった。木田さんだった。

明日、県への陳情に行くメンバーの確認のことだった。

 

 翌日は一転して晴れ。いつのまにか真っ青な空がはるかに高くなっている。

 あさこだけ綾さんのところに預け、良子はつれていくことにした。

 高田さんが車を出してくれる。お肉屋さんの中山さん、八木さんがやはりたえちゃんを抱いてきて一緒に乗った。たえちゃんはもう3ヶ月も過ぎて、よく笑ってかわいらしい。


 県庁のロビーで待ち合わせた。

 木田さん、小寺さん、県会議員の方と、町田議員、あと、なんと、池田さんのご主人がきていた。

美和さんがちょうど、国立病院の診察の日だったそうだ。美和さんは病院にいるけど、美和がやいやい言うので、ちょっと来てみました。と、恥ずかしそうに話された。頭は真っ白になっているが、以前の決め付けるような冷たい口調ではなかった。

「おとうさんがひとりでも多いと心強いです。助かります。」と木田さんが言ったもんだから、すぐに高田さんに怒られていた。

「あーらおかあさんたちの威力をご存じないのね。」 

今まであまり笑い顔を見せたことがなかった池田さんが、めがねの奥でとても優しそうな笑顔をちらりと見せた。


 結果は思った通りというか、もっとひどいものだった。

威圧的でつっけんどんな県の福祉部長の態度に、帰りはみんな意気消沈してしまった。

県会議員が、

「村当局は将来人口は増えないと、保育園の廃止を強行する考えですが、県には人口増加を理由に予算を要求してるではないですか! 上下水道の整備計画などで。しかもひなぎく保育園はその整備計画の中心地に位置してるんですよ。」と矛盾を追及してくれたが

 福祉部長は、苦笑いするだけで、

「あー、そうですか。」と、一言言ったきりだった。


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