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魔法の木エニシダの香り  作者: 文乃木 れい
慧の目にうつる世界
14/50

五十歩五十一歩 

       

「おかあさん、ほらあそこ見て!」

 

お迎えに行くと、島先生がバケツを指差す。中をのぞくといるいる。


「わー。どじょうけっこうとれてるじゃないですか」

「佐野先生がじょうずなのよ。みんなもどろだらけになって。」

「でもね、おかあさん。」と、島先生はちょっと小声になって続けた。


「けいちゃんはね最初靴もぬがないでね、見てるだけだったの。」

「また、逆戻りですか?」

去年も靴を脱いではだしになるまでが 大変だったことを思い出した。

この保育園に入る前まではもっとひどかった。

普通に道を歩いていてぬかるみにはまっただけでうえっと口を押さえる。

どうしたの?と聞くと吐きそうと言うのだ。

靴をはいている足が泥に入っただけで?


もともとそんな神経質なところが心配でここに入園させたのだった。

少しくらいの汚れは気にしない おおざっぱな男に育ってほしかった。

先生は続けた。

「それでもね えみちゃんと石をさがして遊んでいるうちに

くつを脱いで川に入ってね、そうしたらちょっとした深みがあって、

足をとられたみたいでそこでしりもちついちゃったの。

折角川で遊びだしたので残念だったわあ。

佐野先生も私もすぐに近くに行ってひっぱって立たせてね、

それで このまま濡れついででばしゃばしゃ遊んじゃう?って聞いたら、

嫌だって言ってもうそのまま川には入らなかったわ。」

            


夜、そんな話しをすると、夫は

「どじょう捕りできなくたってどうってことないやんか。」とあっさり。


「だいたいうるさいよ、虫捕りができないとか、

早寝早起きだの昼寝だの、何が正しいかなんて決まってないんだから。」

聞き流せばいいのに、つい


「基本的な生活習慣は大事なんです。それができてると意欲が沸いてすべてに力が発揮できるのよ。心身が健康だと意欲も沸くし、好奇心旺盛になるんだと思う。絶対」思わずむきになってしまう。


「決め付けるのがいやなんや。人間なんてみんな違うんやで、

生き物が苦手なんだってそいつにとっては普通なんやから。

どじょうほいほい取って喜んでるほうが変なんや、けいにしてみれば。」


そうか、そうなのかも。でも暑い日に川に行ったら、

顔を輝かせて体中に喜びをはちきらせて飛び回るっていうのが

男の子なんじゃないかというイメージが私の中にはある。

それが自然なのではないのか。それが違うっていわれてしまえば しょうがない。

でもけいがそうであってほしいという願望が私にはある。

 ごむまりのように弾んでほしいと願うのは その子に無理な個性を押し付けてることになるのだろうか。


早寝早起きを親も努力して、こどもを明るく育てていきたい。


太古の昔から人間はおてんとさまと共に生きてきたのよ。それが自然だし、そういう生活をすることによってはじめて人間本来のパワーを最大限に引き出すことができるのよ。

どうしてそういうことがわかんないのよ。と心の中で夫に叫ぶ。

私には夫が けいにどう育ってほしいかっていうことを真剣に考えていないようにみえて じれったくてしかたなかった。


 2年前、このあたりでは 2年保育の幼稚園に入れる人がおおかただったが、

半日行儀よく過ごしてくる幼稚園よりは、自然に触れる散歩、どろんこ遊びなど、

身体を最大限使って遊びきる保育をしている保育園が魅力的だった。


 フルタイムの仕事に就いてなかったので 公立の保育園への入園許可はなかなかおりなくて苦労した。

 当時、下に朝子、おなかに良子がいた。

妊娠が順調ではなく、無理ができず、

4歳になった慧を 外で充分に遊ばせてあげることができなかった。

 慧には我慢をさせることばかりだった。


  母親の身体的理由で保育が充分にできないという入園申請をようやく受けてもらって入園させることができた。


夫は そんな無理しなくてもいいのではないか、

あと1年くらい母親のそばでも、

あの子は静かに 家で本読んでることも好きなんだから。と言っていた。

  

 「友達と力いっぱい遊んだりけんかしたりしてほしいのよ。

おもいっきり自然の中で充分体を動かして。

そういう環境の中に入れて その楽しさを実感させたいの。」

 そう私が言うと


「そんなたいそうな、考えすぎやないのか。もっとしぜんでええやないか。」

 

「あの子の好きなようにさせていると、じーっとしてることが多いの。

私はそれが気になってしょうがないのよ。

私といるからそうなってしまうのかもしれない。

母親といるから成長させてあげられないことってあると思うのよ」

 

おおげさなんだからと言いながら夫は苦笑して、

好きにしたらといつもの結論。

もともと子育てに確固たる信念とかがあるわけではないから、

反対意見を固持したりはしない。


そう深く考えたり議論したりはしたくないのだ。

所詮、彼にとっては五十歩、五十一歩(と、彼はいつも言う。)の問題であってどっちでもいいのだ。


ものごとを真剣に考えない性質の夫に、いらだってしまう。

夫に限らず多くの男は家庭のことは深く考えないのか。

家事のことならそれも理解できる。

だが自分の血を分けた子供のことまで母親まかせということには全く合点がいかないことだった。

たかが幼稚園、たかが保育園 そんな大騒ぎして考える問題か?

さすがに口に出しては言わないが そう思っているにちがいない。

それでも 私は保育園に入れることにこだわった。

          

 2年たち いっぱしのいたずらっこには成長したが

水や生き物が得意ではないというのはあまり変わるものではなかった。

夫の言葉にいったんは反発したが  

「それはそうかもしれない。

けいにはどじょうとりがおもしろくないんだよね。」と

素直に口に出た。

 

そしてけいとのやりとりを夫に話した。

 「今日どじょうとりしたんだってねえと声かけたら してないって言うの。でも 川に入ってさがしたんじゃないのって それ 濡れたパンツじゃないの?」ってけいの持ってるビニール袋を指差したら、

「うん、川ん中に入ってたから」って。

「だから 川でどじょうとりしたんでしょ?ってまたしつこく聞いたのよ、そしたら」

「話しただけってそう言うの」

「えみちゃんと石で遊んでたんでしょ。」ってつい探ったら じーっと私の顔見て

「かあさん のみこんだことある_?」って聞くの

「何を?」って聞き返したら 

 「石なんだけど、でも僕よくわかんない」て言うの。びっくりして

「石飲むって、まさか?」て聞いたら

「ぼくは飲んでないよ。でもかあさんはわかる?」


 けいと話してるとおかしくなりそう。

どう答えたらこの子の知りたいことにぴたっと合うのだろうか。

皆目見当もつかない。心の中はどうなってるんだろうか?

この子にどう答えたらいいのかいつも迷ってしまう。

そんな私をどんな母親ととらえているのだろうか。


「ねえ、けいって 何考えてるんだろうね?」と夫に尋ねた。

「なんにも考えとらへんよ。6さいになったばかりだよ」と笑う。

 

「でも どきっとするようなこと言うよ。どじょうにはどじょうの生活があるっって、今日もへんなことばかり。」

「でもそれってあたりまえのことやんか。」


「あしたどじょう食べるの?て何度も先生に聞いてたって。」

「けいは優しいのさ。それにいやだよどじょう食べるのなんか」

もともと魚は嫌いな夫にはどじょうなど身震いものだ。

「でもまあいい経験させてもらってるよなあ。」


「そうよね、私といるより普通の幼稚園に行くより

貴重な体験してるよね。毎日。」ここぞとばかり強調した。


「それはそうと署名はどんな調子や?」

とさすがの夫も忘れていないのは やはり気がかりなのだろう。


わたしは スーパーでの私の署名活動の話もした。

木田さんが 何度も福祉課や、議員さんのところに行って 

統廃合をみなおしてほしいと努力されてることも話した。


「木田さんも ようがんばってくれてるんやなあ」

同じ職場だけにその忙しさがよくわかるのだろう。

「木田さん、奥さんが保母さんでしょ

、保母さんて日曜は勉強会が多いから

お留守番してお子さんたちの面倒も見てるんだって」

これには 夫は無言。


お茶をひとくちすすって、

「署名用紙 明日 職場に持っていってやるよ」

「えー、仕事場ではまずいんじゃないの?」

「かまへん、研究室でするわけじゃないから。家に持って帰ってもらうよ、何人かに」

「でもさ、いまさらだけど署名活動ってする意味あんのかなあ?」

「やらんより いいやろ」


そうか、何もしないよりはいいか。

福祉審議会の人たちや議員も多くの人が動けばちょっとは考えるかも。

本気で考えてもらうことぐらいの効力はあるだろう。

それにしても

「住民の何割かが署名したら その法案は通らなくなるとかさ、

署名法とかそんなのないの?」


私は本気でそう思った。だって、保守系の議員の数で行政が進んでいくとしたら なんかおかしい。

「そんなん あるわけないやんか。議員がいる意味なくなる」。

そう言って 夫はテレビのスイッチを入れた。




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