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魔法の木エニシダの香り  作者: 文乃木 れい
保育園がつぶされる⁉
10/50

議員のところへ

松木建設の玄関ロビーで受付に言うと、すぐに専務室と札がかかった部屋に通された。

布張りの壁。剥製の鳥、暑苦しい油絵。まどべの花瓶に造花。

 

 高田さんと並んですわり、松木とむかいあった。

 「いやあ、今昼めし終わったとこだったもんで、たばこいいかなあ」

 私がどうぞといいかけると

 「たばこは遠慮していただけますか」と高田さんが強い調子で言った。


高田さんの顔をちらっと見てから私は言った。

「すみません、話はすぐにおわると思いますので」


松木は大きな机まで歩いて行き、

いったん箱から取り出したたばこを箱にはもどさずに机の上の灰皿に置いた。

そしてゆっくりこちらに向きなおった。


「あんたら統廃合のことで来たっちゅうけど。審議会で決定されたからねえ。もう次の議会で決定だねえ。」


「審議会で決定ってどういうことですか?」


「いやいや 決定ではないけども、」松木は口ごもる。


「審議会は統廃合について調査 討論するところではないのですか?」と高田さん。

「もちろんそうだけどよ、統廃合するのがいいのではないけ」


「それは 審議会全員の意見なのですか?メンバーは15人ですよねえ?」


「統廃合に反対という意見は全くでなかったねえ。あそこは定員割れだし、古いしねえ。」

 「そのことでしたら調べたんですけど定員割れについては役場の作為が感じられるんですよ。どう思われます?」


 「そんなことないでしょう。あんたがたがそう勝手に推測っしちゃあねえ。」

 「でも現実に他の保育所にまわされてる方がいるんですよ」

 

 「それは僕ではわからないことで役場へ言ってもらわないとねえ。」

  

 「そうじゃなくて、そういうことを調べるのが審議会なんではないのですか!」高田さんの声が鋭くなってきた。


 「松木さんは議員三期目ですね。松木さんの影響力は議員さんの間でも強いと思うので、お願いにきました。

統廃合がいたしかたない選択だとしても それを私たちが納得できるように、徹底した話し合いをしていただきたいのです。」

私はできるだけソフトに言った。


 「あんたら、保育所に行かせてっから一方的な思いがつのるんだろうけど。保育所は、全然縁のない村民にとっちゃぜいたくな施設でね。

税金の不公平でしょ?

あんな数少ない子供のための保育所じゃあ、

保育料少し位高くてもあたりまえ。赤字なんだから。」


 高田さんの顔がだいぶひきつってきた。


「税金の不公平! 税金てそういう性質のものではないですか? 

この村のこどもたちみんなに最高の教育をと、議員さんなら思われませんか?」


「あんたら、保育はね教育とは違うでしょう。母親が家にいないで働くから預けなくっちゃいけなくなる。これはどう考えても無駄だっぺよ。」 


「無駄!」


「そうでしょうよ。子供を産んだ以上 育てる責任はあるっぺよ。」


確かにおっしゃるとおりです。でも子供を育てる責任は100パーセント母親にあるのでしょうか?

 

「父親にもそりゃあるだろうな」


それだけでしょうか?こどもって そんなふうに全くプライベートな存在でしょうか?わたしたちの世の中をこれから担っていく後継者たちです。

 とすれば 社会全体で育てていくという意識はとても大切だと思うのです。

おっしゃるように 両親が責任持って育てていくのは当然のことです。

ですが経験の全くない子育てを支援する体制が充実していれば 

両親は余裕を持って大切にこどもを育てていけると思うのです。

 

「それは わがままな意見だっぺ、福祉予算は本当に困ってるとこに使うべきでしょうよ」

 

福祉とは困っている人のため、助けてあげるためという考え方を狭義に捉えすぎてはいなでしょうか。こどもを産み育てていくということは実に大変なことです。

 良い社会にしていくということは良い人材を育てていくということではないでしょうか。

ものすごく重要なことを非力な母親ひとりに押し付ける傾向を私はとても残念に思っています。


「昔っから みんなやってきたことではないのお?

そんな肩肘張らなくてもよ」


 そうですね、おっしゃりとおりです。でも大きく社会が変わってきています。議員さんはご両親とは一緒にお暮らしですか?

すると日々助けていただけることも多いのではないですか?

 でも私たちのように 親や親戚から離れて生活していると近所以外助けてくれるところがないのです。


 「それはあんたたちが選んだ生活でしょうが」


 「この村は 原子力施設を誘致し そのことによって多大な歳入を得ているのではないですか。ゆとりがあるのだから、福祉を充実させていいコミュニティを作っていこうとは思わないんですか?」


「いいコミュニティを目指してるけどよ、あんたらのそれは偏ってるんじゃないの」


「村の予算の不公平とおっしゃいますけど、それで私たち父母の会でも話し合ったんですけど、村の方たちにご意見を聞いてみようと。それでひなぎく保育園をつぶさないでくださいというお願いをするための署名活動をしようということになったんです。」

 

「あんたら 苦労して署名集めても統廃合が無くなる可能性は低いと思うよ。

 それに署名ってのはね、断りづらいものだしね。信頼性という面ではどうかねえ。」

  

 「選挙で選ばれた方がそんなふうに言ってしまっていいんですか、住民ひとりひとりを尊重しないということですか?」

高田さんのトーンが高くなってきた。

 

「さっき、ひなぎくの建物は古いとおっしゃいましたけど。」

 私が質問する。

「古いでしょうよ。今時木造で。今、そこの村立の幼稚園はコンクリのりっぱなんに建てかわるでしょ。」


 「村松幼稚園がコンクリートになる。それがいいのか悪いのか意見は別れるところだとは思いますが、それはまた別問題として

幼稚園は税金の不公平にはならないのですか?」


「そりゃああんた、幼稚園はもう義務教育みたいなもんだからねえ。」

なんかよくわからない。


 「それより松木さん、今度一度ひなぎくに視察にきていただけませんかねえ。木の広いテラスはこどもたちがいつもぞうきんがけをしてピカピカです。あそこの陽だまりでこどもたちがどんなに居心地よさそうに本を読んだり、おままごとをしているかみ見てほしいです。

 

 板張りのホールはこどもたちがリズム体操っていうのをやるのにとてもいいのですよ。木の温もりは今だからこそ贅沢ともいえます。木造だからとりこわしたほうがいいというのは、どうなのか。

つくり育てていくことは長い時間かかりますが、壊してしまうことは一瞬です。とりかえしがつきません。」


 高田さんも続けた。

「村の予算だとかそういうことはおとなの勝手で、こどもたちはひなぎく保育所で楽しく日々をすごしています。おとなたちを信頼して疑うことなく生活しているわけです。

 おとなの都合でこどもをあっちやったりこっちやったりというのはかわいそうです。

 こどもたちを犠牲にしないでください。

もう少し誠意を持って、子ども達の立場でお考えいただきたいですね。」


 「あんたらもねえ、母親の立場だけでものごと捉えないで、大極的にね。」


 「その、あんたっていうのやめていただけます」ついに高田さんがおさえられなくなった。


 「わたし、どなたからもあんたらなんて呼ばれたことありません!あんた、あんたって、失礼でしょう。」


 「いやあ、あんた、いや、なんてよんだらいいかもうこれが普通でね。おたくらよそから来て言葉がきつく感じられっかしらんけど、村じゃ普通だし。」

「村の中でしか通用しませんよ、お宅の考え方とものの言い方。」


高田さんのきつい語調に、一瞬の間があった。 が、議員は反撃することもなく 

「村の人間だっぺ、仕方あんめい」と気弱に苦笑いをした。


 「松木さん、でも東京の大学にいらしたんですよね?」私は決裂してしまうのは避けたかった。


 「学生の時はね。あんたらいや、おたくらも東京?」

 

 「東京ですれ違ってたかもしれませんね。」

「何年ですか?」

 「47年卒業」と松木。

「やっぱり。同じ世代だと思いました。建築を専攻なさったんですね。」「親父に無理やりね」

 

「そりゃこれだけりっぱな会社ですものね」私って調子いい。 

「じゃあ初当選なさった時は卒業してすぐですか?お若かったですねえ」

「おやじが体調くずしてね、急遽立候補させられたんだ」

  

「二世議員なんですね、村のことはなんでもご存じですよね。今回のことは松木さんのような方に力になっていただかないと。」

  

 「みなさんがたのためにつくすのが議員の役目だからそりゃできることはすっけども」

 

「統廃合のことはひなぎくの父母にとって、というより当のこどもたちにとって大問題です。せめて、入園している子供達を全部卒園させてからというのがまっとうなやりかたではないでしょうか」

高田さんが訴えた。


「保育所を替わらなければならないこどもたちがかわいそうだと思いませんか」

「保育所に入れてあげますよって3月には入所させておいて、次の月には来年度からはなくなりますよって、なんか詐欺みたいですよ。そうは感じませんか?」 


「そりゃあ なあ…確かになあ」 深く物事を考えるのが苦手らしい松木も少しは何かを感じてくれたのだろうか。


ノックがし、先ほど受け付けにいた女性が入ってきた。

そして、松木に名詞を渡しながら

お見えになりましたので、と告げ、出ていった。


 「すんませんなあ、約束が入ってるもんで。

またいつでも 来てくださいな。お力になれるかどうかわからんけど」


わたしたちは部屋を出てきた。

ドアが閉まる直前、松木議員がたばこをくわえ火をつけるのが見えた。



  




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