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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第五章 虐殺のエレメンタリスト
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06‐ アイリーへの襲撃

 仕事に取り掛かる。昼食時間まであとわずかだ。

 休憩開始のチャイムが鳴る。



 アイリーは軽くなった心持ちで廊下へと出た。現金な事にリッカも上機嫌でアイリーの横に並んで歩いている。



『麺類麺類、炭水化物~』

『リッカも炭水化物補給で嬉しい事があるの?』



『アイリーが幸せ感じたらわたしも幸せになるんだよ』

 感覚を同調させているから、という意味でしかない事は分かった上でアイリーが少し顔を赤らめる。



 その様子を見てリッカも俯いて顔を頬を赤くしたが、こちらは甘酸っぱい感情が湧いたのではなく、単にアイリーをからかっているだけだ。



 平和なことを考えながら本部ビル48階にある商業エリアへと降りる。

 観光拠点でもあるので平日でもレストランフロアは盛況だった。



「あの、アイリーさん」

 聞き覚えのない声に呼び止められてアイリーは振り返った。



 レストランフロアなので店舗ごとのデザインは別して天井と床と壁は白色が基調となっている。天井からの照明も事務フロアに比べて明るい。



 だからこそ、アイリーを呼び止めた女性が着ているボルドー色のワンピーススーツは光の中でよく映えて白い肌と明るいブロンドの髪よりもボディラインの方へと視線が誘導されてしまう。



 大きな胸だ。しかもロータスフラワータイプの胸だ。

 意識する間もなくアイリーの背筋が伸びる。何故、こういうタイミングで背筋が伸びてしまうのかは自分でも分からない。



 胸に目を奪われたのはほんの一瞬、女性を相手にその視線がどれだけ非礼かを思い出してアイリーは視線を上にあげた。



 瞼に並行に整えた眉が優し気な雰囲気を出す瞳の美しい女性だった。

 アイリーさん、と名指しで呼ばれたがアイリーの知り合いではない。ただ微かに見覚えがある様な気がした。アイリーがリッカに相貌検索を依頼する。



『第一資源管理局食料農業課のジューリア・エルミーニ。毎朝アイリーの姿を無断撮影してネットに上げてるアイリーマニアックスの1人だよ。26歳で食料農業課ではノータイトルのスタッフ、ヒラね』



 自分が無断で撮影され、公開されている事に慣れてしまっているアイリーにはリッカがマニアックスと呼ぶコアなファン層に嫌悪感はない。ただ、笑顔が可愛いなあ、あと



『おっきなおっぱいが』

『それは思ってない』



 だが相手の素性が分かっても用件には思い当たるものがなかった。



「俺に何か?」

「初めまして!食料農業課所属のジューリア・エルミーニと言います。あの、突然でごめんなさい。自分でも理由分からないんですが、今日、なぜか急に、絶対にアイリーさんに声をかけなきゃいけない気がして」



「なるほど。えっと、それで用件は?」

「なっ・・・なんでしょう?自己紹介したくなった……?」



 言いながら、ジューリアは戸惑った様をみせた。

 どうやら差し迫った用件もなく、急に声を掛けたくなったらしい。占いでも見たのだろうか。



「俺は…今から昼飯を食べるつもりなんだけど」

 えっ? と声をあげてジューリアが顔を赤らめた。



 いや、誘ってない。誘ってないよ?

 そもそもレストランフロアを急ぎ足で歩いている人間の予定なんて一つでしょう? 店が込み合うまで、もう秒を争う場面なんですが?



 ジューリアが顔をあげてアイリーを正面から見つめた。

 その顔の上げ方にアイリーは違和感を感じた。



 恥じらうでもなく、決意を固めたというのでもなく、なんというか雑な顔の上げ方だった。

 がさつな人間が人形の姿勢を正すような。



「確かめさせてもらいますね、ハリストス」

 ジューリアが口にした言葉をアイリーは一度で理解できなかった。



「聞き取れなかった。ごめん」

 ジューリアが笑顔の形に口を開いた。幼いころに丁寧な歯科矯正を受けて今もホワイトニングを欠かさない歯列は日頃の生活の裕福さが窺える。



 ジューリアの大きく開かれた口の中に形の良い舌が見えた。

 アイリーの注意が彼女の舌へと引き寄せられる。



 縁の部分に色の濃いグラデーションのかかる健康そうなピンク色の舌の表面が一瞬にして淡い光を放つ緑色の膜に覆われた。



 驚くアイリーに向けてジューリアの口内から飛沫が飛んでアイリーの顔に当たる。



 唾を吐かれた? とも思ったが口をすぼめた様子も肺活量を使って口内の液体を吐き出した様子もない。



 掌で拭ってみると舌の色のと同じ緑色の液体であることが分かった。



「え? 私何をしたんですか? ちがう、私じゃないです、意味分からない」

 一瞬で顔色をなくしたジューリアが取り乱す。


 自分で意識せず、いや自分の意識を押しのけられて、思いもしなかった行動をとらされた様な混乱ぶりを見せる。



 ジューリアがアイリーへと向けた表情は焦りや混乱から恐怖へと変わっている。だがその眼は冷静そのもの、視点を微動だにせずアイリーの顔を見つめていた。



「感染されない? あは、あはは!! 待ち焦がれていたのよ、ハリストス!」



 混乱した表情はそのまま、歓喜に震える声でジューリアがそういった。



 そして外見にも変化が現れる。若く美しい顔に数十の微細な点が浮かび上がった。

 点はすぐに面積をひろげ緑色の発光を始める。



 ジューリアの声は音程調節機能を失った様に甲高いものとなっていた。



「初めましてハリストス! 私は何をしたらいいのですか? どれだけ人を殺しましょうか? 誰から殺しましょうか? あなたの大切な人ですか? 家族ですか? 友人ですか? 上司はどうですか?」






割愛した描写



 アイリーが目指したお店は、ラ・ミェン・ジラウド。

 イタリア人のランフランコ・ジラウドが日本の有名店から着想を得たという山盛りのトッピングが有名なミェン店だ。

 いつか、本場モノを食べ比べてみたい。とアイリーは思った。


 下らな過ぎるので割愛しました。

 アイリーはロッドがどうとかよりもお店の人がほれ込む程美味しそうに食べる派です。







※途中から読み始めて下さった方へ※



このお話は序章と関連しています。

主要登場人物が出そろうのに84話もかかりました。

サクサクと話が進む作品を書ける構成力が欲しいです。

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