20‐ スタリオン捜査官
『どうしてボクがスタリオンだと分かった? 』
通信窓に表示される顔はエドワードのままだが返答はエドワード・スタリオン特別捜査官の本体が大型バイクの方であることを認めていた。
『2つのきっかけがあったからです。俺を治療してくれたヒューマノイドは全身が医療装置で構成されていた。実際のテロ事件で人質が複数の場所に監禁されていた場合はどう対応するんだろうと疑問に思いました』
『自分が数秒を争う救命手術を受けながら、あの混乱の中で? 』
『気になった事は考えが勝手に広がる癖があるんです。思い返すと第一資源管理局の廊下ですれ違ったヒューマノイドと俺を治療してくれたヒューマノイドは別個体だと気づきました』
まさか、とスタリオンが問い返す。
アイリーの推理は当たっているが同じ原型、同じ製造ラインで作られたヒューマノイドだ。個体差は存在しない。
『俺を治療してくれたヒューマノイドはスーツに長時間シートに座っていた様な押しつけられた皺が微かに残っていました。まるで車内で長時間待機していた様な皺です。廊下ですれ違ったヒューマノイドにその皺はなかった。数分の面会でつく皺じゃない。着替えをする理由もない。緊急出動に備えて待機していた別筐体だと考えました』
『確かにカンバル室長とは今も別の筐体で打ち合わせしている最中だよ。驚くべき観察力だな。でもなぜボクが本体だと思ったんだ? 』
スタリオンの質問を受けてアイリーが通信窓に映るクラリッサを見た。
『複数の筐体を並行運用するなら指揮に専念できる筐体も現場に置き、しかも定点で状況を俯瞰できる態勢を整えていた方がいい。現場で周囲の注目を浴びずに長時間待機できる存在。可能なら武装もしているべき。火力兵器を運搬する車両は攻撃目標になりやすい。そう考えていた時に気づいたんです。クラリッサさんはヒューマノイドのエドワードや俺よりも、むしろバイク本体を護衛しているんじゃないか? 』
『誉め言葉として受け取ってね、アイリー。呆れて言葉も出ないわ』
通信窓の中でクラリッサが首を横に振って笑顔をみせた。
一方で現場に出動していたヒューマノイドとしてのクラリッサは相変わらず虎の口の中にいるが本人が救援を求める事もなく、周囲が救助に動く事もない。
『あああっ!! 』
リッカが叫び声をあげた。怒りと混乱を隠さずに表情に出している。
アイリーにはリッカが怒る理由が思い当たらない。
『どうした? リッカ? 』
『エドワード・スタリオンはバイク…… あんた達! ……えっと… 』
リッカがアイリーの顔を見る。アイリーは不審そうな表情でリッカを見ている。
『あんた… えーと… クラリッサや他の皆さんはバイクを運転するのが好き? 』
『もちろんです! アンジェラさんは砂漠地帯の長距離ツーリングを好んで、クラリッサさんとブリトニーさんはテクニカルなサーキット走行を好んでいます。私は怖がりなので自動操縦にしがみついているだけですけど、速いのは気持ちいいです。スタリオンの荷重移動と制動の自動処理能力はモータースポーツ界の世界記録をいつでも体感できます! 』
『あああっ!!! こっ…… このっ…… !!!』
『リッカ? どうした? 』
再びアイリーが尋ねたがリッカはアイリーに応えず、クラリッサを睨みつけた後に姿を消してしまった。
『えっと… 状況が読めないけれど俺のナビゲーターの取った失礼な態度をお詫びします。お礼の場で失礼をお詫びする事になるとは、恥じ入るばかりです』
クラリッサが声をたてて笑った。
『構わないよアイリー。あたし達AIにはAI同士のやり取りっていうのがあるからさ。もちろんパートナーのあんたの不利益になる様な事をするリッカじゃないから怒らないであげて』
この時にリッカが怒った理由を、アイリーはついにリッカから聞き出す事が出来なかった。
※途中から読み始めて下さった方へ※
今回リッカが慌てた理由は第三章の12話、ライアンの秘密という回に出るエピソードに由来します。御用お急ぎのない方にお楽しみ頂ければ幸いです。




