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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第三部: 第一章 イクサゴンとの対面
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02‐ 強将

 合衆国東部の沿岸にあるミニ山脈とも喩えられる巨大な建造物、ハッシュバベル本部。第一資源管理局・災害対策課・事故原因調査室のフロアに集まった面々を見たアイリーは改めて人数の多さを実感した。



 自分の護衛につく侵蝕部隊の3人。アンジェラ、クラリッサ、ドロシア。ブリトニーは姿を見せていない。東フィリピン海洋自治国宰相であり水界のエレメンタリストでもあるミサキ。



 アイリーにとっては寝食を共にする仲とも言える4人だ。



 光沢のある濃い灰色のシングルスーツを着ている長身の男はネイルソン・ロイシャーシャ。先日アフリカ中央部でアイリー達と死闘を繰り広げた結晶のエレメンタリスト。



 制服の様な厚手の濃紺のスーツを身に纏っているのはカイマナイナ・ラム。



「……待ってくれ。カイマナイナが何故、俺の側に付いて局長との対面に臨むんだ? 貴女は治安介入部、局長側近の立場だろう?」



 アイリーの困惑した問いかけにカイマナイナはネイルソンの腕に自らの腕を絡める仕草で応えた。



「局長に呼ばれなかったからよ。エイミーも今日の対面には呼ばれていない。でも貴方の行く末は見届けたいじゃない? だから貴方の側に立って参加するのよ」



 そんな乱暴な、と言いかけたアイリーより先にクラリッサがカイマナイナの言葉に応えた。



「いい返事だ、カイマナイナ。局長にアイリーを殺せと指示されたら近くに座っていた方が殺り易いもんな。局長の隣に座っていたらアイリー暗殺が最初から予定されていた事だとバレちまうしな。ははは、だな」



「あら? 随分頼りない事を言う護衛ね。アイリー? この子たちを連れて歩く価値があるの?」



 アイリーの表情に変化はない。答える声も平坦なものだった。



「俺が生きてこの場にいるという事自体が彼女達の優秀さの証だ。ここまでの道のり、決して生きるに容易いものではなかった。今日俺に随行するつもりならば彼女達に非礼を詫びろ、カイマナイナ」



「構わないわ、ベイビー。私達とカイマナイナは互いに許しを与え合う仲じゃない。ベイビーの身を守るという目的の為ならば協力しあうし敵対するなら排除する。どんな感情を抱いているかを互いに確かめる必要はないわ」



 アンジェラがアイリーに寄り添いながらそう言った。細い指先をアイリーの両肩に置きながら上体を預ける姿勢でアイリーに顔を寄せる。優しい笑いが美しい顔に浮かんでいる。



 同席しているネイルソンの背に冷たい汗が浮かび上がった。アイリーは何も感じていないのか? 今のアンジェラはまるで……



 人と同じ大きさを持つ多頭蛇ヒュドラ。毒に頼らずとも牙と吻合力だけで周囲の一切に死と破壊をまき散らす装甲の鱗を鎧った破壊獣そのものに見える。今の会話に無関係なネイルソンにまで幻視を与える程の殺気をアンジェラは隠さずに放っている。



 剥き出しの殺気を向けられたカイマナイナは涼しい表情のままだ。アイリーはどうだろうか。



「……大人数になった気がする。椅子の準備とか、大丈夫なのかな?」



「事前に伝えてあるから大丈夫ですよ、アイリーさん。重要人物同士の会談にも当たり前に護衛と通訳が立ち合います。決して大人数ではありません」



 ドロシアが慎ましやかにそう告げた。アイリーと目が合った事に気づくともう一度“大丈夫です”と保証する様な笑顔を浮かべる。アイリーが頷くのを確かめて一瞬だけカイマナイナとネイルソンへも視線を向ける。ネイルソンの体に重ねて緊張が走る。



 亜麻色の髪をストレートに降ろし、ハイネックのニットの上にノーカラーのスーツジャケットという柔らかなコーディネートを装うドロシアだがその笑顔はネイルソンに恐怖の記憶を呼び起こした。



 かつてドロシアはネイルソンの戦意を挫く為に鋼の爪を装備した手を彼に突き入れて胃を穿ち肺と気道を引き裂き心臓を握り潰し内臓の悉くを掻き割いてのけた。その時にも同じ笑顔を浮かべていた。日常の呼吸にも血塗られた嗜虐を必要とするほどに狂ったサディストの笑顔だ。



 アイリーが不審そうな表情を浮かべる。



「イクサゴンはやはりフランス語を使うのかな? 英語が話せないとは思えないが」



 自分がどんな化物に囲まれているのかを察知できないのか? ネイルソンが疑いの目をアイリーに向けた。すぐに自分の認識の方が間違っていると気付く。アイリーはカイマナイナを見つめている。



“無駄な挑発をするな。今必要な事を優先させろ”



 そう目でカイマナイナを制している。侵蝕部隊への軽侮を繰り返すなと目で言っている。ドロシア達が放つ殺気は好戦的興奮から発したものではない。アイリーへの敵対を許さないという意思表示でありアイリーが彼女達に殺気の発露を許しているのだ。先のハリストス戦で前線を支えたネイルソンが恐怖するほどの殺気を間近に浴びながらアイリーは臆した様子も見せない。



“強将、あるいは強王とは彼の様な者を指して言うものか”



 心臓に痛みを覚えるほどの恐怖に耐えながらネイルソンはアイリーを注視し続けた。ドロシアが視線をアイリーに戻す。微笑みは変わらない。



「重要人物同士の会話には別個性の通訳を同伴させ互いの母国語で会話を進行させます。踏み込んだ発言が行き交う中で発言を修正する必要に迫られたときに通訳の解釈違いを理由に謝罪なく修正する事ができるからです、アイリーさん」



「意見の行き違いをドロシアのせいにするのは嫌だなあ」



 対面の場での通訳を買って出ていたドロシアがアイリーの素直な感想に笑い声を立てる。



「外交上の緩衝手段の一つです。気にしないでください、アイリーさん。そろそろ時間です。第三資源管理局に出向きましょう」



書くと決めたのでちゃっちゃと続かせたいです。

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