第十九話 アイリスの料理
第十九話 輝とアイリスの料理
輝は黒いもじゃもじゃをフォークの先で突き刺し、口に入れた。すると、口の中でとけ、口中にへばりついた。酸っぱいようで、ほんのり甘く、そして、辛いような気持ちにもなる不思議な味であった。
「なんだこれ?」
「ブークだよ、知らない?」
「(うまくないんだけど)」
「でどう?」
「まぁまぁかな?」
「ほんと? 元気が出る食べ物らしんだけどね。ホロクも食べて!」
そして、輝は先ほどよりも慎重に白いものを口に入れた、すると、モチモチの食感の中から、肉汁が出て来た。
「(おぉ! シュウマイのモチモチバージョン的な! ちょーうまい)うまい!」
「ありがと」
「アイリスは食べないの?」
「気にしないで、食べて」
輝は全てを食べきった。流石にブークだけを残すことはできないため、急いで口の中に詰め込んだ。
「そんなに、ブーク好きなの」
「(いや、一番嫌いなんだけど……)」
アイリスは皿を片付け、洗い終わった。
「また待たせたね」
「アイリス、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「いいけど……」
アイリスは席に着いた。
「あのさ、ローブって一体なんなんだ?」
「あぁー、そういうことね。えっと、ちょうど百日前、ハイルランド島王ドルモナ様が亡くなったの。この島では伝統的に、百日間つまりあの鐘がなるまでは、ローブを羽織るきまりっていうか風習があるの」
「なるほど、あの鐘にそんな意味が……」
「それだけ?」
「うん」
「じゃあ、私からいい?」
「いいけど……」
「なんで全身赤なの?」
「赤が好きだからかな」
「そうなのね、意外と単純ね」
「そうだけど、そろそろ寝ていいかな?」
「わかった、やっぱりまだやることあるから、先行ってて」
アイリスは輝に鍵を渡した。
「場所は一番最初にあったとこの家ね」
「わかった(覚えてるか?)」
[おそらく]
輝は宿を出、大通り沿いに外側に歩いて行った。
「(俺情報屋に行くのやめたわ)」
[それはなんで?]
「(人から聞いた方がRPG感がでて楽しいじゃん)」
[そうかもしれませんね]
「(そろそろか?)」
[ここです]
実際、この大通りの建物はどれも似たような構造で、違いがわからない。そのため、看板はとても便利だが、家ともなると、日本のように表札もないので、完全にトク頼りであった。
輝は家の扉を開け、中に入って行った。入ると、階段があり、そのまま上がって行った。二階には一日目に寝た寝室があった。ちなみに、靴を脱ぐ場所はなく、基本土足のままらしい。
そして、見覚えのある寝室に着くと、輝はそのまま寝転んで、すぐに寝始めてしまった。
五十八日目
輝は昼過ぎになってようやく目覚めた。
「(かなり寝ちゃったな)」
[疲れてましたからね]
「(体が痛いな)」
[起きましょ]
輝は寝返りを打った。
「えぇ!」
隣には、アイリスが寝ていたのだ。
「(おい、トク! どういうことだ? 誘ってんのか?)」
[そうだったら、服を着ていないのがセオリーですよ]
残念ながら、アイリスは昨日と同じ服を着ていた。
「(ったく、てか)寝顔まじでかわいいな」
「テル? 起きたの」
アイリスは目を開いた。
「あら、私こんなところで……昨日かなり遅かったからね……」
「アイリスも疲れていたのか?」
「うん、あの後、客が何人か来てね」
「チェックアウトは?」
「全員長居するみたいだから必要はないわ」
「そうか……」
二人は寝転んだまま、話し始めた。
「あのさ、今何歳なの?」
「何よ、急に。レディーに聞くときは先にいうものよ」
「俺は、十七歳だけど」
「年下だったの!」
「アイリスは? 十八歳?」
アイリスは小声で囁いた。
「十九歳」
「そんな離れてないじゃん」
「二歳もだよ!」
「たった二歳だよ」
そして、沈黙が続いた。
「あのさ、なんで宿やってんの?」
「また何? この家と宿は私のお父様のものなの」
「二人は……」
「お母様は私を産んだ際に亡くなったそうで、お父様は私が二歳の時に突然いなくなったと聞いているわ」
「それからは?」
「それからはお父様とお母さまのお母さまとお父様、つまり私のおじいさま、おばあさまたちが育ててくれたんだよね。でも、次々になくなって、私が十八歳の時、わたしは一人になったの」
「なるほどね、そういえばさ、日にちの数え方ってあるのか?」
「子供じゃないんだから! 一日は、日が出て、隠れるまでのことで、七日で一週間、三十日が一ヶ月、三百六十五日が一年として数えられているの」
「だから二百八十日目は九ヶ月、一週間と三日になるわ」
「難しいな」
「慣れれば簡単よ」
二人は上半身を起こして、話の続きをした。
「テルのお父様とお母様は?」
「俺も昔お父さんは突然いなくなったって聞いているんだ」
「テルも!」
「だから母ちゃんにはすごい迷惑かけてさ」
「今はどうしてるの?」
「わからないんだ、でもあっちの世界ではもう死んでいると人しいされてるかもな…」
「もう、この話はやめましょ」
「なんでまた?」
「悲しくなってくるわ、はい、早く起きて! 水でも浴びて!」
輝はアイリスに叩き起こされ、仕方なく起き上がった。寝室の横の部屋に入ると、トイレの便器とシャワーがある部屋であった。輝は今まで、訓練中は隠れて道で用を足し、コロシアムで何回か立ち便器を使用したことはあるが、それ以外では初めて便器というものを使用した。その後、シャワーと同じ仕組みで水の出る蛇口をひねり体を洗った。しかし、日本のように暖かいお湯は出なかった。
体を洗い終え、ローブで体を拭き、またあのジャージに着替えた。そして、一階に降りていった。すると、ある部屋から、美味しそうな香りが漂って来た。
「(あぁー、うまそうな香り)」
そして階段に近い部屋に入ってゆくと、ダイニングテーブルがあり、料理が準備されていた。
「これは?」
「ブランチよ、朝食兼昼食!」
「美味しそうだな」
「そう? 早く食べましょ」
「いただきます」
「え? 何?」
「食べのもの命をいただくから、俺の世界ではこういうんだ」
「わかったわ、いただきます」
向かい合って座り、テーブルを見渡した。狐色の丸いボールのようなものと、黒いモジャモジャ、そして緑色の液体がコップに入っていた。
「(ブークかよ……嫌いものから食べるか)」
輝は口にほおばるようにして、ブークを平らげた。
「(まじで無理!)」
すると、アイリスは席を立ち、輝の皿にブークを盛ってきた。
「えぇ!」
「そんなに好きだからって、子供みたい」
「いや、いらないよ」
「遠慮しなくていいのよ」
「(いじめか、おい)」
[頑張ってください]
「(トクは味感じないのか?)」
[感じることもできますが、する必要がないので、基本は資格と聴覚のみです]
「(いいとこ取りめ)」
輝はまた耐えながら、ブークを口に穂おり入れた。
「アイリス、もういいから」
「遠慮しなくていいのに、まぁいいわ」
輝は口直しにボールのようなものを食べてみた。
「(まさにパンじゃん!しかも美味しい)」
最後に、緑色の液体を口に流し入れた。すると、意外にも、甘いフルーツジュースのような味であった。
「意外といけるね」
「でしょ」
「これはなっていうの?」
「さっき食べたのが、パンで、これはラースっていう果実のジュースよ」
「(パンは一緒なんだ)ごちそうさまでした」
「何? 昨日は何も言ってなかったのに」
「言い忘れただけだよ、これも習慣だ」
「ごちそうさまでした」




