第4話 雪と故障(1)
朝起きたとき、いつもよりも冷え込みが激しかった。タチアナは上着を羽織って、カーテンを開ける。
外は一面銀世界。雪が町を白く染めていた。
「天気予報では雪になるか雨になるかは、気温次第と言っていた。結果として雪になったのね」
幼い頃なら寒い中でも喜んで外に出て、珍しい雪に触れながら友達と楽しんだことだろう。
しかし、大人となった今では歩くだけでも億劫になるため、うんざりとした気分になっていた。
幸い積もっていない。長靴を履き、傘をさせば、足下に気をつけなければならないが、局に行くことはできるだろう。
「雪は嫌い。寒いし、色々なことを思い出す……」
上着をぎゅっと握りしめた。息を大きく吐き出すと、窓から離れて支度を始めた。
魔法道具管理局の道具検査課に行くと、タチアナの席の傍で、上司のハーマンと後輩のキムが話をしていた。
先にキムがタチアナに気づくと、ハーマンにも伝えたのか、二人で顔を向けてきた。
これはタチアナを待っていたような様子だ。思わず後ずさりしそうになったが、理性がそれを制止した。仕方なく二人に近づく。
「おはようございます。始業前にお二人で揃って、どうされましたか?」
口を開いたのはハーマンだった。
「おはよう、タチアナ。待っていたよ。実は折り入ってお願いがあるんだ」
やはり待ち構えていたのか。
内心、嘆息を吐きながら、会話を続ける。
「何でしょうか?」
「実は出張の案件が入った。私とキム君、そしてタチアナの三人で行きたいと考えている。泊まりの案件になるが、仕事や家の方は大丈夫か?」
それを聞いたタチアナは目を瞬かせた。
「出張なんて珍しいですね。仕事はどうにかやりくりしますし、独り暮らしですので、確認する相手もいません。同行するのは構いませんよ。何かあったのですか?」
鞄を机の上に置いて、ハーマンに顔を向ける。彼は軽く腕を組む。
「実は局の出先機関に置いてある、検査機器が故障したとの連絡が入った。よくある故障原因を確認したが、そのどれもが原因ではなかったと言っていた。
そのため機器分析に詳しい私たちの方で故障状況の把握と、直せるようなら直すようお願いがあった」
「その出先機関にいる、検査に携わる方からのお願いですか?」
「ああ。彼は説明書を見ながら、どうにか検査をしていたが、今回は説明書外のことが起きたため、困っているそうだ」
件数をこなしている局の人間であれば、何かわかるかもしれないと思い、助けを求めてきたのだろう。
「あの、私も付いていく理由は何ですか?」
出張するのは構わないとは言ったが、それ相応の理由がないと、行っても無駄足になるだけである。
「タチアナが過去にその機器の責任者をしていたから。今はキム君だが、タチアナの方が何かに気づくこともあると思った。――全属性判定できる機器だ」
ああっと声を漏らした。
なかなか癖のある機器で、タチアナも使いこなすのに時間がかかったものだ。
キムは責任者を引き継いで数ヶ月しか経っていないが、飲み込みが早かったのか、おおよそ機器は使いこなしていた。
「なるほど。急ぎの案件なので、今の責任者と前任を連れて行こうと思ったわけですね。――それで場所はどこですか? 泊まりの案件と言っていましたが、少し離れたところですか?」
「場所は――」
ハーマンは少し言葉を切ってから、言い切った。
「北にある、雪に囲まれた出先機関だ」
雪と聞いて、タチアナの眉間にしわが寄った。




