第3話 探知と新年(6)
タチアナとキムは、魔法道具管理局から出ると、近くにあった食堂に入った。普段はそろそろ閉店の時間だが、今日は年越しから明け方まで開いているとのことだ。
仲間たちと酒をかわしている者たち、カウンター席で一人飲んでいる者、恋人たちで会話している者たちなど、多くの人間がここで年を越しそうな様子であった。
二人は窓際の席に案内され、別々の定食を頼んだ。お酒のメニューも勧められるが、まだ仕事中であるので、やんわりと断った。
軽く話していると、すぐに給仕が定食を持ってきた。タチアナの前には魚のムニエル、キムの前にはチキンソテーが置かれた。それぞれにパンやサラダ、スープなどがついている。
早速、二人は食事に入る。お腹が空いていたため、黙々と食べ始めた。
バターで焼かれた魚は香りもよく、焼き加減も絶妙で、口に入れた瞬間、柔らかな感触が口の中に広がった。お腹が空いているかどうかは関係なく、美味しかった。
あっという間に食べ終え、タチアナは水を飲みながら、ふうっと息を吐き出した。
「御馳走様でした。美味しかった!」
「はい、美味しかったです。普段からも混んでいそうな店ですね」
お互いあまり外で食事はしない人間のため、このような店があるのは知らなかった。
キムも水を飲み終えると、タチアナに向かって軽く首を傾げた。
「タチアナさんも、休みの日に出勤するは初めてなんですか?」
「初めてではないけど、こんなに長時間働きっぱなしは初めてだったかな。休みの日に出たとしても、仕事をやり終えて、家で夕飯は食べていた」
「そうなんですか。タチアナさんくらいの探知能力の持ち主なら、出ずっぱりかと思っていました」
冗談ではなく、本気でそう思って言っているようだ。
キムにとって、タチアナはどういう風に見られていたのだろうか。過大評価しすぎではないだろうか。
タチアナは首を横に振った。
「そもそも休みの日の仕事は当番制。今までは運が良くて、どれもあまり時間がかからない仕事だったのでしょう」
「そうですか。……タチアナさん、もう一つ聞いてもいいですか?」
キムが背筋を伸ばして尋ねてきた。つられてタチアナも姿勢を正しくする。
「何? 私が答えられる範囲であれば、答える」
少し間を置いてから、キムは口を開く。
「どうして局に就職したんですか? タチアナさん、きっと色々な企業から声をかけられるでしょう?」
さっきも移動途中で、ヘインズから誘いを受けたのを思い出した。さらっと聞き流したが、それをキムが気に留めたのだろう。
タチアナは腕を組んで、「うーん」っと言いながら考える。どう返すのがいいだろうか。
「……たしかに、時々声をかけられることはある。私の探知能力を見てのことだろうね。でも、私は局でしかできない仕事がしたくて入局した。だから、すべて断っている」
「どんな仕事ですか?」
結構しつこく聞いてくるな、と思いながら、入局の面接でも言ったことを述べた。
「危険な道具を世に出したくない。出してしまったのなら、いち早く流通を阻止したい。それが総合的にできるのが、ここだったのよ」
そして、公的な立場で、困っている人を助ける人間になりたい――。
探知だけが優れていても、他人に上手く伝わらないときがある。
言葉で伝えても、数値など客観的な資料がなければ、納得できない人もいる。
今回の件も急いでいたから、探知のみで終わったが、おそらく数値に出して、問題ないと教えて欲しい人もいただろう。不安が拭えない視線を向けられたのは、気づいている。
だから、その術を得る手段として、ここに入局したのだ。
ここであれば、探知能力を生かせるだけでなく、機器を駆使して、数値を出すことができるからだ。
入局したいというきっかけではないが、考え抜いた末の入局理由の一つであった。
キムはしばし黙り込む。
何か気になる内容でもあっただろうか。よく聞く理由すぎて、さらに質問でも追撃をかけたいのだろうか。
「……タチアナさんは立派ですね」
「え?」
沈黙の先にあったのは、思いも寄らぬ言葉だった。




