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第六話 ダンス練習

 

「ダンスは教えるよ。というか一緒に練習して慣れて行こう」


 その言葉を聞いて、嬉しくなった。


「あの、ミルト様」

「なんだい?」


 少し思っていたことがある。


「私は、昨日のネックレス類も、嬉しかったです。でも、一番うれしいのは」


 そう、


「ミルト様が、ダンスを教えてくれることです」

「そうか、なら一緒に踊ろう」

「はいっ!」


 ああ、私はこういう関係を望んでいたのかもしれない。



 そのままの流れで、ダンスの練習をするために、別の部屋へと向かった。

 そこには広い部屋だ。


「何かあるだろうなと思って、こういう部屋を作ってもらっていたんだ」

「そうですか」


 確かに、こういう部屋ならば、思う存分練習が出来そうだ。


 そして二人はダンスの練習をし始める。

 弧本的な社交的なダンスを練習する。

 しかし、中々息が合わない。


「ごめんなさい」


 私はだめだめだ。早速ミルト様の足を踏んでしまった。


「大丈夫だ」なんて彼は言ってくれるけども、罪悪感がすごい。


「ごめんなさい。次は踏まないように気を付けます」


 一応淑女の嗜みなのに、たいして練習してこなかった付けが当たった。


 でも、このまま踊れないのは嫌だ。

 とにかく、ミルト様と一緒に合わせる練習を繰り返していく。


 汗を流す。体力がどんどんと削られていく。

 でも一つ確かなことがある。


 楽しいのだ。ミルト様に合わせるように、とにかく練習を繰り返していく。

 その時間が至福だ。

 今思ったら元夫と一緒にいた際、私は人生を楽しめてなかったな、と思った。

 あの日々、私はただ家で料理と掃除等々家事以外は本を読んでいるだけで、人との関わりはなかった。それは元夫とでさえ。

 そんな日々に比べたらなんて楽しいのだろうか。


 ミルト様と触れ合い、一緒に一つのことに対して突き詰めるのは。


「はあはあ」


 だけど、やはり体力も吸い取られていくもので、床にへたり込んでしまった。


「大丈夫か」

「大丈夫じゃないです。ミルト様」

「そうか」


 そう言ってミルト様は考え込む。


「なら少し休みがてらお茶でもしようじゃないか」

「あら」


 まさかミルト様からお茶という単語が出て来るなんて。

 基本、お茶会などという物は女性の方から出る単語なのだ。


「嫌なのか?」


 ミルト様にそう言われ、私は急いで首を振る。


「やりたいです。それにやるかどうかはミルト様の自由にしていいんですよ。私は奴隷ですから」

「だからそれはやめてくれ。お前は奴隷じゃなく、俺の花嫁候補なんだよ」

「でも、私は奴隷です。ミルト様に救われなかったら、そのまま奴隷として誰かに売られていた。それが私なのです。だから、私はミルト様に仕えたいのです」


 驕ってはいけない。

 私は奴隷。ミルト様よりも下の立場なのだ。


「だからって、自分を卑下することはない。お前は、メアは俺に悦びを与えてくれている」

「そう言ってくれてありがたいです。でも、」


 私は自己肯定感はそこまで高くない。だからこそ、褒められるのは実際に嬉しいのだ。

 私自身、色々と気持ちの整理が追い付いていない。

 私は私自身、奴隷であるべきかミルト様の思い人であるべきか迷っているのだ。


「ミルト様こそ、いつも褒めてくれてありがとうございます」


 とりあえず私はお礼を言う。


「別にいいってことだよ。褒める事なんてタダだしな」

「その言い方はなんだか嫌です」

「なら、何を言えばいいんだよ」


 そう言ってミルト様が気恥ずかしそうにする。

 それがまた面白くて、私は笑ってしまった。


 そして私たちはそのままお茶をしに庭に出た。

 ミルト様の家に来て三日目だが、庭にはほとんど出たことが無い。

 こうしてみると、


「壮大だわ」


 庭と言ってもただの庭ではない。

 結構花も手入れされていて維持費だけでもかなりのお金がかかりそうだ。


「ここもミルト様が?」

「いや、俺の父親だ。俺に家督を与えないための説得材料として渡されたものだ」


 という事はやはり、ミルト様の家はかなりのお金持ちだ。


「ミルト様の家って、ハーレンダン家でしたよね」

「ああ。下の名前はもう名乗るなと言われているが」


 実質絶縁でもされたのだろうか。

 それこそ、ミルト様の目と髪の色とかが原因で。


「そうだな。父親はかなりの権力を保持しているからな。もう俺には関係のない人だが」


 そう言って自嘲的な笑みを浮かべるミルト様。

 苦労されていたんだろうなと思う。


「ミルト様は偉いです」

「急にどうしたんだ?」


 驚かれたようだ。しかし、


「ミルト様はずっと頑張ってます。これからは私が支えます」

「それはつまり、花嫁になってくれるという事か?」

「それは話が早すぎです。でも、花嫁にならなくても、使用人として支えますから」


 そう言って私はティーカップに入っているお茶を飲んだ。

 濃密な甘さで美味しい。



「そうだな。感謝するよ」


 そう言ってミルト様は頭を下げた。


「何をしているんですか」

「今までの感謝だ」

「それならば、私の方が感謝しなければなりませんよ」


 この人はどれだけ謙虚なのだろうか。

 ミルト様を謙虚にさせてしまった原因という物があるものなのだが。


「それよりも、このお茶美味しいですね」


 話題を変えようと、私はそう言った。

 このままだと、感謝合戦になってしまう気がした。


「ああ、高級茶だからな。一葉これだけの値段がする」


 そう言ってミルト様は笑う。その手の動きを見ると、1万と書いてある。


「そんなこと聞いたら、楽しんで飲めませんよ」

「ははっ、それは悪かった」


 そう言っておふざけの感じで頭を下げた。それを見て私はまた笑うのだった。

 暫く、一緒にダンスの練習をした。

 足を引っ張りまくりだったが、根気強く、ダンスの練習をした。

 すると、段々と上手く踊れている、そんな感覚を覚えることが段々と増えてきた。

 そして、いつの間にか私は踊れるようになってきた。


「これならば大丈夫だな」


 そう、ミルト様は言う。確かにこの感じなら、本番でも大丈夫そうだ。

 私が変に緊張しすぎない限りは。


「メアは真面目なんだから大丈夫だ」

「ありがとうございます」

「メアはいつもありがとうっていうな」

「別にいいじゃないですか」


 減るもんじゃないし。


「そう言えばそいうだなと、思い出しただけだ、深い意味なんてものはない」

「なら猶更ひどいです」


 そう言えば私はミルト様に遠慮しなくなってきた。いい事か悪い事かは分からない。

 でも、私は奴隷という自覚をなくして言ってる気がする。

 ミルト様とはいつも間にか、友達みたいな間柄になっている感じがするのだ。


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