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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第三章 新たなる出会い
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第62話 狂乱との遭遇

追記:63話を7/7(日)のお昼12時に投稿予約しました。

 合成獣キマイラとの死闘を終えた俺達3人は、既に地下10階まで到達していた。

 この階層に放たれた魔物の改造種を討伐し終えた俺達は、資料室のような場所に都合よく設置されていた、椅子とテーブルを利用して休息をしている。


「はぁ、あと一息って感じかしら……?」


 机に突っ伏すような姿勢で、クロエが溜息をつく。

 合成獣との戦い程の苦戦は無かったが、あの後に戦った魔物達もかなりの強さだった。

 今のように、安全が確保できれば休憩は挟んでいたが、それでも疲労の色は隠せない。


「恐らくそうだろうな。下に進むにつれて、魔物の強さも罠の頻度も上がってきてる。次の階層辺りが最下層だろうと思うが……」


 マークがこれまでマッピングしてきた地図を眺めながらそう呟いた。

 今いるのが地下10階なので、既に前回の研究支部に潜入した際の倍近い深さだ。

 流石に、そろそろ終わりが見えると思いたい。


「そうだね。節約してきたとは言え、そろそろポーション類の残りも少ないし……」


 改造された魔物達はどれも強力だ。

 油断をしていては勝てないし、本気で掛かって行ってもこちらが受ける被害を完全に防ぐことは出来なかったのだ。

 そのため、最初は潤沢にあった回復ポーションも残数が心もとない。


「それにしても、ここまで大変だったわよねー……」


 頬杖をついた姿勢でクロエが思い返すようにそう呟く。

 確かにここまでの道のりは大変なものだった。

 それは単純に魔物の強さだけでなく、侵入者を阻む多彩な罠のせいだ。


「まぁね……。本棚を決まった順番で押さないと開かない隠し扉だったり、星の位置をモチーフにした謎解きだったり……」


「ああ、この中の誰か一人でも欠けていればここまでこれなかっただろうな……」


 マークの言う通りだ。

 中にはどこかのゲームで見たような仕掛けもあったが、この世界の常識に詳しくない俺では解けないような謎解きや、魔術に精通したクロエでないと解けない仕掛けも多かった。

 俺だからこそ解けた仕掛けもあったし、マークやクロエでなければ解けない仕掛けもあったのだ。


「まぁ、長かった潜入もそろそろ終わる。休憩はここまでにして下に進もう」


 マークが話を締めるようにそう言って席を立った。

 俺とクロエもそれに倣って席を立つと、先を行くマークを追う。


「よし、行こうか……!」


 下へ続く階段はもう目の前だ。

 長かった潜入の終わりは、恐らく近い。



                       ◆◆◆



 地下11階。

 そこが最下層であることは、その階層に入った途端に理解できた。


「なんだこれ……?」


 目の前に広がる異様な光景に、俺は思わず息を飲む。

 所狭しと並べられたガラス製のカプセルは気味の悪い色をした培養液で満たされており、その中では異形の魔物というのも憚られる程の、気味の悪い肉塊が蠢いていた。


 何かが腐ったような異臭と薬品の匂いが入り混じるその空間を俺は進んでいく。

 肉塊に埋もれる不気味な瞳だけが、奥へと進む俺達を監視する様に動いていた。


「恐らく、この先だろうな……」


 部屋の最奥部には、何重もの鎖と鍵で封鎖された大きな扉があった。

 マークの言うように、この扉の向こうに狂乱のシュタイナーがいるのと見てまず間違いないだろう。


「魔術による封印が掛かってるわね……」


 扉に手を当てて観察していたクロエがそう呟く。

 確かに、扉は時折何かが脈動するように光を放っていた。

 それが魔術を使った封印ということだろう。


「クロエなら封印が解ける?」


「もちろんよ。それよりも、この物理的な施錠ロックの方が問題じゃない?」


 何を当然のことを、とでも言うようにクロエは扉に魔力を込めると、あっという間にその封印を解除した。

 扉を覆っていた、怪しく蠢くような魔力の脈動はもう見られない。


「そっちは大丈夫だ。な、ヨシヒロ?」


 心配するなとばかりにそう答えたマークが、俺に話を振る。

 そう言われても、方法はアレ(・・)しか思い浮かばないが……。


「まさかとは思うけど、いつものアレをやるの……?」


「それ以外に何がある?ぶち抜け、ヨシヒロ」


「ああ、やっぱりそうなるんだね……」


 恐る恐る尋ねた俺に、マークが当たり前のようにそう答えた。


「ねえ、アレって何よ?」


 クロエが首を傾げてそう尋ねてくる。

 確かに、クロエはあの時にいなかったから分からないか。


「ああ、アレって言うのは……」


「ヨシヒロが【鉄拳】で扉をぶち破る作戦だ」


 俺の言葉に続くように、マークが端的にそう答える。

 それを聞いたクロエは、大きく溜息をついた。


「アンタ達って、たまに猛烈に頭が悪くなるわよね……」


 クロエが呆れたように頭を抱える。

 今まで割と力づくで解決してきた面があるので、否定は出来ないな……。

 そんな事を思いながら、俺は硬化させた右腕に力を込めた。


「……お邪魔しまーっす!」


【硬化】の魔法により鋼鉄と化した俺の右腕が、分厚い金属製の扉を無理やりこじ開ける。

 ドアが威力に負けて倒れると辺りに大きく音が響き、その先の視界が開けた。


「ふむ、ウィルベルの生き残りがここまで来ましたか……」


 俺達の侵入に気づいた白衣の男は、ただ淡々とそう呟いた。

 そして、優雅さすら感じさせる所作で湯気の立つ紅茶を飲み干す。


「そうですね……。まずはここまで辿り着いた事を、純粋に称賛しましょうか」


 その男は感情を感じさせない平坦な声でそう言うと、俺達に向けて拍手をした。

 場違いなその対応は、ただ男の不気味さだけを演出している。


「ふ、ふざけないで……ッ!」


 唖然とする俺達の中で最初に口火を切ったのはクロエだった。

 クロエは、男へ怒りをぶつけるように更に続ける。


「アンタが……アンタがパパやママを……!いえ、一族の皆を殺した……ッ!」


「ええ、そうです。私があなた達ウィルベルの一族を研究素材にしました」


 白衣の男は、当然とばかりにそう答えた。

 その答えに、クロエは更に怒りを込めて男を詰問する。


「答えてッ!私達が何をしたの!?みんなが何をしたって言うの……!」


「いえ、何も。あえて言うのであれば、あなた達一族の持つあの魔法が研究したかったと言っておきましょうか。ですが、とんだ期待外れでした……」


「ふざ……けるなッ!私はアンタを絶対に許さない……ッ!」


 クロエが怒りを噛みしめるようにそう言い放つ。

 だが、その言葉を聞いた白衣の男の様子が豹変した。


「ふざけるな……ふざけるなだと……ッ!?お前が、お前がふざけるなアアアアアッ!!!!!!」


 目を見開いた男がそんな叫び声を上げる。

 先程までとは打って変わった様子の男は、更に早口で話しを続けた。


「どいつもこいつも、ふざけやがってェェェェッ!特にお前の父親と母親だッ!お前を逃がした挙句、自害しやがった……!これで残ったのは出来損ないのお前だけだッ!どうしてくれるんだアアアァァァァッ!?」


 きっちりと整えていた髪を掻き乱し、地団太を踏みながら男は喚き散らす。

 その姿を見た俺は、思わずあの言葉を連想した。


「これが……狂乱か……!」


 そう、白衣の男の名前はシュタイナー。

 狂乱の二つ名を与えられた、獄王の刃の研究を一手に任せられる幹部の一人だ。


「……取り乱しましたね。何にしても、あの魔法すら扱えないような出来損ないの貴方が来たところで、私には勝てませんよ」


 途端に冷静さを取り戻した男は、クロエにそう言い放った。

 あの魔法と言うのは、クロエの言っていた一族秘伝の特別な魔法というやつだろう。

 だが、クロエはその魔法を使えない……どういう事だ……?


「そうね、確かに私は出来損ないの落ちこぼれよ。ただ、アンタだけは絶対に許さない……ッ!」


「ああ、その通りだ。お前の相手はクロエだけじゃない!」


「……魔物さえ捌けば、お前自体の戦闘力は大したことないんだってな?」


 クロエの言葉を皮切りに、俺達も前へ進み出る。


「ふむ、そうですね……。確かに、私自身はただの研究員。戦闘力なんて毛程もありません。ですが、これを見てもまだ私に勝てると思えるでしょうか……?」


 シュタイナーが指を鳴らすと、暗闇から次々と魔物が現れる。

 魔物の数はおよそ100体。その全てが、俺達を囲むように待機し始めた。


「二人とも、気を抜くな。恐らくあの魔物全てを奴は操っている……!」


「まさか、あれだけの数を……!?」


「流石幹部ね、相手にとって不足はないわ……!」


 マークの言葉に、俺達は揃って息を飲む。

 俺達を取り囲んだ魔物は、ただじっと主からの指示を待っていた。


「ご名答。では、この魔物の波を超えられたらまた会いましょうか……」


 そう答えたシュタイナーが再び指を鳴らすと同時に、魔物が俺達へ一斉に襲い掛かる。

 そして、俺達3人VS魔物100体の、一方的な戦いが開始されたのだった……。


ようやく幹部との戦闘開始です。


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