第61話 神話の戦い
本当にごめんなさい。
想定以上に忙しくて書く時間が取れませんでした。
明日は比較的時間が取れるので、最低でも一本は投稿できます。
(そうか、神話の戦いだ……!)
テュポーンとエキドナの子である合成獣は、ペガサスに乗った英雄ベレロフォンによって倒された。
その方法の一つとして語られているのが、合成獣が火炎を吐く際に先端に鉛を付けた槍を口へと投げ込み、火炎の熱で溶けた鉛によって喉を潰して窒息死させるというものだ。
これをどうにかして応用できないだろうか。
だが、所持品の中に鉛で出来たものは無い。
それに近いものと言えば作業用の鉄製のナイフだが、これでは恐らく喉を潰す程の質量に至らないだろう。そうであれば、他の金属製品だ。
他の金属と言って思い浮かぶのは二つ。
愛用している、特殊合金で出来た魔棍ハティか【硬化】した俺自身の体である。
しかし、前者は合金の強度が高すぎて恐らく合成獣の火炎程度では溶けることは無いし、純粋にこの作戦に使うには勿体ない性能の武器だ。
後者に関しては、鋼鉄に近い強度になるというだけなので、残念ながら体が熱で溶けて喉を塞ぐなんて芸当は出来ない。出来たとしてもホラーすぎるしな……。
(なら、どうすればいい……?)
喉を潰すことは不可能だが、あの厄介なブレスを妨害するという発想は間違いない筈だ。
そもそも片方の頭が氷のブレスを使う時点で、この作戦は使えない。
(……いや、そうか!あのブレス自体を妨害してしまえばいい!)
繰り返す思考をやめた俺は、合成獣へ真剣に向き直る。
集中を切らした訳ではないが、普通の攻撃であれば、もうある程度は見切った。
厄介なのは、これから対処するあの二つのブレスだけだ。
『……グルルルルッ!』
合成獣が忌々しいとばかりに距離を取る。
そして、氷を使う左側の頭が大きく息を吸い込んでブレスの準備を始めた。
(……今だ!)
チャンスはこの一回しかない。
これでもし失敗すれば相手が警戒してしまい、作戦自体が失敗してしまう。
『……ガオオオオオオオンッ!』
大きく息を吸い込んだ合成獣が、凍えるような吹雪をその口から放とうとする。
そのタイミングに合わせ、俺はあえて合成獣への距離を詰めた。
そして、背を低くする体勢から、俺は転がり込むようにブレスの放たれる合成獣の喉元へと近づく。
「おおおおおッッ!【鉄拳】ッッ!!!」
合成獣が対処する前に、俺は硬化した右腕でその顎を下から殴りつける。
『……ゴグガッッ!?』
俺のアッパーにより合成獣の口が無理やり閉じられ、氷の魔力がその口の中で暴発する。
そんな声を上げた合成獣の左の頭は、数秒で完全に凍り付いた。
これで、二つのブレスの中でも俺が防ぐことの出来ない氷の方が完全に攻略出来た。
(これで少しでも楽になればいいが……)
『ギャオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!』
俺のそんな考えも空しく、合成獣はこれまでよりも激しい怒りの声を上げた。
その怒りのあまりか、残った頭の口元からは時折炎が漏れ出している。・
『グギャアアアアアアアオッ!』
頭を一つ潰されたにも関わらず、合成獣の攻撃はこれまでよりも激しくなっていた。
怒りに身を任せたその攻撃は、単調ではあるが一撃が重い。
「……くっ!」
繰り出されているのはこれまでのような多彩な攻撃ではなく、シンプルな両腕の爪の連撃だけなのだが、体重を乗せて放たれるその素早い攻撃は対処するだけで精一杯だ。
反撃の隙を作る筈が、こちらが攻撃するチャンスは更に無くなった。
繰り出される連撃を、こちらも硬化させた両腕で受け止め、流し、押し払う。
止まらないその連撃に、俺は次第に追い詰められていった。
「……ヨシヒロ、【挑発】を解除しろ!」
これまで隙を伺っていたマークが飛び出し、俺にそう叫ぶ。
「でも、そうなるとマークにも攻撃が向く……!」
そう、確かに【挑発】を解除すれば俺の負担は格段に減る。
だが、階段上から姿を隠して魔法を放つクロエは兎も角、既にこの大広間に足を踏み込んでいるマークは、確実に攻撃の的になるだろう。
俺が【硬化】してギリギリ耐えられる猛攻を、一度でもマークが喰らってしまえば……。
そんな思いが俺を葛藤させた。
「絶対に躱してみせる、信じてくれ!」
そんな俺の葛藤を見抜いたのか、マークからそんな声が掛けられる。
「……わかった、でも絶対に無理はしないでくれ!」
何度となく共に死線を潜り抜けてきた相棒の言葉を信じ、俺は魔法を解除する。
すると、合成獣はすぐさまマークに向き直り、素早く飛びかかった。
『グルルルロオオオオオッ!!!』
「マーク……ッ!?」
俺の【挑発】が解除された途端、マークへ飛びかかった合成獣の鋭い爪は、躱す隙すら与えずにその身を切り裂いた。
防具を纏っていないマークの軽装を易々と引き裂いた爪が、腹部へと到達して血飛沫を上げる。
「……その程度、当たるかよッ!」
相手が普通の冒険者であれば、その結果になる筈だった。
だが、マークのずば抜けた敏捷値により、その場に残像すら残して、合成獣の一撃はいとも簡単に躱される。
「……連携行くぞ、ヨシヒロ!」
「ああ、任せてくれ!」
確実に殺したと勘違いした合成獣は、無傷でその場に立つマークに驚愕する。
そして、その隙を付いて逆側にいる俺が攻撃を仕掛けた。
「おおおおおおお……らああッ!!」
一気に距離を詰め、俺は魔棍ハティをその尻尾の毒蛇に向けて放つ。
ぐしゃり、と音がして毒蛇の頭蓋が砕けた。
『ギャオオオオオオオオンッ……!?』
頭の一つを砕かれた合成獣が、その苦痛に耐えかねたとばかりに悲鳴を上げる。
合成獣は自分に近寄らせまいと暴れ狂うが、その動きにこれまでの鋭さは微塵も感じられない。
「……【毒の牙】ッ!」
出鱈目に放たれる両腕や後ろ足の攻撃を易々と躱し、マークが暴れる合成獣に向けて猛毒の刃を振り下ろした。
『グ……ギャアアアアアアアアアアアオッ!?』
再び放たれる不意を突いた一撃に、合成獣は更に大きく叫びを上げる。
そして暫く暴れまわるが、不意に落ち着きを取り戻したかのように動きを止めた。
「……マークの毒が効いたか!?」
あまりにも急に動きを止めた合成獣に、俺はその可能性を思い浮かべる。
確かに、二度放たれた【毒の牙】の効果と考えれば違和感は無い。
「いや、違う!ブレスだ!」
『ガオオオオオオオオオンッッッ!!!』
合成獣が天に向けて遠吠えを放つ。
そう、怒りが頂点に達した合成獣は、自身の必殺の一撃であるブレスを放つつもりなのだ。
怒りにより増幅された炎は、空気と共に魔力を集めながら合成獣の体内に蓄積されていく。
ブレスの準備を終えた合成獣は、俺達二人を射程に入れるように大きく距離を取った。
「ヨシヒロ、今だッ!!」
ブレスが俺達に放たれるその瞬間、マークの指示が飛ばされる。
そして、それを聞いた俺は最後のチャンスを逃さぬよう、持てる力を全て出し切った全力の疾走で合成獣まで駆け抜けた。
「これで……止めだ……!【鉄拳】ッ!!!」
放たれるブレスの範囲から逃れ、どうしても避けきれない部分は部分的に体を【硬化】させて、合成獣の目の前まで辿り着く。
そして、俺の振り抜いた全力の拳が、合成獣の顎を確実に捉えた。
―――ドゴンッ!
ブレスと同時に口を塞がれた合成獣の頭は、その威力に耐えきれずに頭を爆散させる。
二つ獅子の頭が行動不能となった合成獣は、そのまま断末魔すら上げることも出来ずに床に倒れ伏した。
「マーク、ヨシヒロ……ッ!」
俺達の戦闘を階段上から見ていたクロエが駆け付ける。
そして、俺達の無事な様子を見て安心したように胸を撫で下ろした。
「よかった、本当に……。私、何もできなかったから……!」
「適材適所ってね。クロエにはあの時の魔法で十分助けられたよ」
戦いに参加できなかった自分を責めるようにクロエがそう告げる。
だが、参加しなかったのではなく出来なかったのだ。
もし、マークと同じように合成獣との戦闘に参加していれば、俺のような耐久もマークのような敏捷も無いクロエは危険だった可能性が高い。
気持ちを抑えて、あの階段の上で待機していたのは賢明な判断だ。
【挑発】を解除しているタイミングで魔法でも使っていれば、いくら認識阻害の迷彩を発動していたとしても合成獣は確実にクロエに向かって行っただろう。
「ああ、お前はあれで十分な働きをしたと思うぜ」
マークも俺と同じくクロエを励ますようにそう答えた。
「……そっか、でも次はもっと頑張るわ!」
クロエが俺達の言葉に元気を取り戻してそう答える。
苦戦したとはいえ、合成獣はあくまでも中ボスのような存在だ。
クロエには、最下層で待ち構えるシュタイナーとの闘いで全力を尽くしてもらわなければならない。
そう、既に消耗気味ではあるが、まだまだ中階層である筈なのだ。
これから先、何が待ち受けているか分からない。
それこそ、合成獣を超えるような危険な魔物が配置されている可能性もある。
ここからは、今まで以上に気を付けて注意深く進んでいかなければ……。
次回、本日7月5日のお昼に投稿予約済みです。




