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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第二章 【帝都ベオラント】
56/284

1歳1ヶ月 5



 この辺りの地域で獣人が暴れているという噂は、サルフェ村にも既に届いているみたいでした。

 ……思うんですけど、こういう噂って誰がどんな風に仕入れてくるのでしょうね?

 うちの村でも、魔導師様が帝都に来るだとか、この辺りに盗賊がいるらしいだとか、騎士修道会の騎士様が村に来るだとか、出所不明の噂はいくつもありましたし。

 もしかしたら、村長や村の有力者たちが地方領主に年貢を納めに行った時とかに、ちょろっと話題になるのでしょうか?

 ……だったら、どうして私の噂だけは尾ひれや鮮血が付いて伝わるのですかねぇ……。


 まぁ、それはさておき。

 わざわざ帝都の魔術師が自ら、しかも単独で調査に動いているという事実は、サルフェ村の皆さんの不安を少し煽ってしまったようでした。

 けれども……どこかの間抜けのように、平和ボケしてみすみす盗賊の襲撃を許すようなことになるくらいなら、不安がって対策や警戒をしてくれた方がずっとマシだと思います。


 そういうわけで私は、サルフェ村の村長を含めた年長者を中心として、獣人の脅威と対策をみっちりレクチャーしました。

 対策とはすなわち、“戦わずに食糧を明け渡せ”というものです。


 聞けば、(くだん)の獣人たちが襲撃してくるのはもっぱら食糧目当てであり、攻撃を仕掛けるのは反抗してきた村人のみ。しかも必要以上に痛めつけるようなことはしないらしいではありませんか。

 ならば、最初から食糧は諦めてもらうというのが手っ取り早い対策です。

 もちろんそれは緊急回避の手段であって、そんなことにならないように私が動いている、ということが前提ではありますが。


 食糧の蓄えが奪われる辛さは、貧乏村の出身である私もよく知っているつもりです。

 しかし獣人は強くて、反抗しても勝ち目がないというのなら、無駄に怪我をする必要はありません。

 村人を取って喰らうとかそういったわけではないのですから、食べ物なんてくれてやったらいいのです。

 小さな村の食糧庫くらいなら、あとで帝都にお願いして補填してもらうようにしますから、それまでは我慢してください。


 私がネルヴィアさんに抱かれて村長宅を後にすると、どうやら扉のすぐ近くで聞き耳を立てていたらしいさっきの少年と鉢合わせになりました。

 ネルヴィアさんは露骨にギョッとして後ずさり、あたふたし始めちゃいます。


 少年は、帽子の奥の瞳を興味深げに輝かせながら、私の顔をまじまじと見つめて話しかけてきました。


「お前、魔術師なんだって? しかも、超強いんだろ?」

「えっと、べつに、つよくはないよ?」

「でも、この村のみんなが怯えてるぞ? どんな魔法でも使えて、逆らったら殺されるし、しかも絶対に逃げきれない魔術師だって」


 皆さん、私を何だと思ってるんですか?

 大魔王?


「おおげさだよ。わたしなんて、まどうしさまたちには、とおくおよばないし」


 私がそう言った刹那、少年の瞳が一瞬、ギラリとした眼光を湛えたような気がしました。

 えっ、と思って注意深く少年に視線を注ぎましたが、その時にはすでに、そういった気配は微塵も感じられなくなっていました。

 気のせい……かな?


「お前、すげーな。こんなちっちぇーのに」


 そう言いながら、少年はショートパンツに突っ込んでいた手を無造作に私の頭へと伸ばして……




 直後―――こちらへ伸ばされた少年の手を、ネルヴィアさんが激しく払いのけました。




 ええっ!? ネルヴィアさん!?


 ネルヴィアさんの突然の凶行に驚き、私は彼女の顔を振り返ります。

 私は一瞬、ネルヴィアさんが人見知りを拗らせるあまりに、そんな行動に走ってしまったのかと思ったのです。


 しかし……彼女の表情は、真剣そのものでした。

 全身から闘気と警戒心を滾らせて、私の身体を支えているのと反対側の手で剣の柄を握りしめて腰を落とし、一分の隙もないような臨戦態勢となっていたのです。


「セフィ様に触れるな……!!」


 初めて聞いたネルヴィアさんの低い声に驚きながらも、私の意識は一瞬で戦闘状態に切り替わりました。

 ネルヴィアさんがここまで敵意を露わにするだなんて、ただ事ではありません。

 私はあらゆる状況に対応できるよう、頭の中で複数の呪文を平行して構築します。


 一方で、突然手を払われて目を丸くしていた少年は、弾かれた手をさすりながら目を細めて、「……へぇ」と楽しげに口元を歪めました。


 小さな村の中心で、突如として一触即発の空気が張りつめます。


 先に沈黙を破ったのは、少年の方でした。


「……場所を変えようぜ。オレ様のためにも、アンタらのためにもな」


 少年はそう言って引き裂くように笑うと……鋭くて長い犬歯を、ちろりと舐めました。



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