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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第二章 【帝都ベオラント】
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0歳11ヶ月 1 ―――ベオラント城の謁見



 大陸最大の国家、ヴェリシオン帝国。

 その中でも頭一つ抜けた規模を誇る、人口 十二万人を擁する帝都ベオラント。


 現在 私がいるのは、そんな帝都の中心に位置するベオラント城―――謁見の間。




 ……つまり、皇帝陛下の眼前でした。




「頭を上げよ。さしもの余とて、赤子に跪かせる趣味は無い」

「は、はいっ……」


 私はねっとりとした汗をかきながら、恐る恐るゆっくりと頭を上げました。

 私の正面、赤い絨毯の続く先には、前世のアニメでしか見たことのないような絢爛豪華な玉座が。

 そしてそこに腰掛けてこちらを睥睨しているのは、さながら狼のように逆立つ黒い長髪と、闇夜も照らせてしまいそうな輝きを放つ黄金の瞳を持つ青年でした。


 そう、青年……!

 せいぜい二十代といった風貌の彼こそが、六代目皇帝・ヴェルハザード・バルド・ベオラント。

 この帝国で、最も偉い男なのです。


「しかし、驚いた」


 ベオラント陛下は黄金の瞳をスゥっと細めて、その場のすべてを支配するような落ち着いた声を発しました。


「あの『夜獣(よじゅう)盗賊団』を壊滅させたのが赤子だと聞いたときには、余の耳がおかしくなったのか、それともセルラードがついにボケたのか、じつに悩んだものだった」


 ベオラント陛下の言葉に、陛下の隣に控えている白髪の老人が引きつった表情を浮かべました。

 彼が陛下の言うセルラードという人物なのでしょう。立ち位置的に、宰相(さいしょう)とかそういった立場の方だと思われます。


 ……っていうかあの雑魚ども、皇帝が知っているくらい有名な奴らだったんですね。

 誰一人名前を名乗らなかったから、モブ盗賊A~Fくらいの認識でしたよ。


「その上……おい、セルラード。盗賊どもの損傷はリスト化したか?」

「はい、読み上げます。……まず団長のベリアーは、視覚障害、右腕、右足の裂傷、頭部打撲。副官のジラーイは顔面を中心に上半身全体に重度の打撲や挫創、頸椎捻挫。スクレィルは全身火傷、視覚障害、鼻腔・口腔・咽喉部・気管支の熱傷。ホスタは両膝部の激しい凍傷による壊疽、及び深刻な裂創。モンテックは脊椎骨折、全身打撲。そして……最も酷いのがラバリットで、彼奴は全身打撲と両手足への刺創及び骨折、また鼻骨の粉砕骨折に加え、特に精神的なダメージが深刻で、「赤色」や「白金色」を見るか、あるいは「セフィ」という単語を聞く度に発狂を繰り返しております」


 ……ええっと……うん。


 ちょ、ちょっと待ってください。左右にずらっと並んで控えてる近衛兵さんたち! ざわざわしないで!

 あっ、そこのお兄さん吐きかけてるし! そっちの人も私と目が合った瞬間に慌てて逸らした! ひどい!!


「……余は盗賊共の惨状を見た時、村人たちが報復に処刑を行ったのかと疑ったものだった」


 わぁ、皇帝陛下までドン引きしてるぅ……

 た、たしかにちょっとやり過ぎちゃったかもしれませんけど……


「まぁ、盗賊は殺しても罪には問われない。まして、襲撃を受けた上での正当なる反撃だ。貴様に罪を問うつもりは毛頭ないので安心せよ」


 じゃあなんでわざわざ傷害リストを読み上げさせたの!? そのせいで私を見る皆さんの目が痛いのですが!

 あ、さっきのお兄さん退室するの? トイレで吐いてくるの? そ、そっか、お大事にね?


「盗賊共の傷跡を見て、たしかにその残忍さと情け容赦のなさには感嘆するものがある。しかし真に驚くべきは、その多彩な属性を完全に操り実戦で使いこなす、魔術的なセンスだ」


 その前半のセリフは本当に必要でしたか? 後半だけで良かったとは思いませんか陛下?


「貴様、その魔法はどのようにして会得した?」


 皇帝陛下は黄金の瞳でギラリと私を射抜きます。

 私はその視線に身を固くさせながらも、どのように答えるのが最善であるかを必死で模索しました。


 まず、魔法なんて使えませんよぉ、とかしらばっくれるのは完全にNG。なぜならうちの村の皆さんが私の武勇伝を、帝国の兵士さんたちにぺらぺらと話してしまったから。……口止めはしたはずなんだけどなぁ……


 ええ~、つい最近ですよぉ、なんて言うのもどうなんでしょうか。最近覚えたての魔法で盗賊団を壊滅させたなんて言ったら、妙な期待を持たれて軍事的に活用されてしまうのでは?

 かといって、かなり早めに習得したと言えば、それはそれで勇者信仰に拍車をかけてしまいかねませんし……


「……2~3かげつくらいまえに、おうちにあった“まどーしょ”をよんで……」


 結局私は、正直に事実を告白することにしました。


「魔導書だと? なぜ小さな村に、そんなものがあるのだ?」

「……おとーさんのおともだちの、いひん(・・・)らしいです」

「貴様、文字の読み書きができるのか?」

「いえ、まったく……」

「では魔導書も読めないではないか」

「じゅもんのページだけみて、たぶん こんなかんじかなってためしてみたら、はつどうしちゃいました……」


 再び謁見の間にざわめきが広がりました。

 皇帝陛下も鋭い眼光の下で、やや戸惑っている様子が窺えます。

 宰相のセルラードさんなんか、あからさまに口をぽかんと開けて驚愕していますし。


 いやぁ、でも単語の意味さえ分かっていれば簡単に発動できるんですから、魔法を使うのってそこまで大した技術じゃないように思うのですが……

 まぁ、試しにお兄ちゃんとお母さんに教えてみたところ、全然使えませんでしたけど。


 しばし目を伏せてこめかみを揉んでいた皇帝陛下は、やがて長い息を吐いてから口を開きました。


「貴様たちの意見も聞いてみたい。入れ」


 “貴様たち”……?

 にわかに私が混乱していると、私の背後で重厚な扉が開かれる音が響きました。

 振り返ると、そこには……


「もしかすると、貴様たちに続く『四人目』となるやもしれん。この者に関して率直な感想を聞かせよ」


 陛下の発言に、私はびっくりして「えっ!」と声を上げてしまいます。

 開かれた扉の先には、三人の人間が立っていました。


 陛下の『四人目』という言葉。

 魔法に関する話をしていたこのタイミングでの登場。

 三人という数字。


 ま、まさか……



 そこには、かつて私が会いたいと熱望した、帝国にたった三人しかいないとされる魔導師様(・・・・)たちが並んでいたのです。




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