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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第一章 【アルヒー村】
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0歳10ヵ月 7

//おかげさまでブックマーク登録が50件を突破しました、ありがとうございます!

//心が折れそうなときでも、これを支えに頑張ります!



 私が村の中心部に駆け付けると、そこには人だかりができていました。

 盗賊たちに襲われているはずなのに何をしているのかと不思議に思いましたが……みんなが見つめている先へ目を向けた時、その異様な状況に納得します。


 村のみんなに囲まれている中心では、二人の人間が戦っていました。


 片や三十代か四十代ほどのがっしりとした熊のような体格の男で、ニヤニヤと気味の悪い笑みを張り付けています。

 そしてもう一方は、肩で息をしながら地面に膝をついた、ネルヴィアさんでした。


 戦っているというよりも弄ばれているといった形勢に見えますが、才覚だけなら騎士修道院にも認められていたネルヴィアさんが、あそこまで追いつめられるなんて……

 私がその場に駆け寄っていくと、その途中で人だかりの中にいたメリアーヌさんが振り返って、私の存在に気が付いたみたいでした。


「セ、セフィちゃん!? なんでっ……! 危ないから帰りなさい!」

「とーぞくにおそわれて、おかーさんがけがしちゃったの……だから、だれかたすけて……!」

「えっ……!? ま、まだ他に盗賊がいたの!? それに、その血……!!」


 ……そういえば私、全身血まみれでしたね。

 メリアーヌさんの家は、村はずれにある私の家の向かいです。村の中心から離れているので、私やお母さんたちは安全だと思っていたのでしょう。

 おそらく、あの盗賊は見張り役か何かだったのだと思います。……大人しく任務に殉じていれば、痛い目を見ずに済んだものを。

 メリアーヌさんも本来なら家に籠っていた方が安全なはずですが、銅の剣を携えているところを見ると、村の一大事に居ても立ってもいられず駆けつけたといったところでしょうか。


「わ、わかったわ。さぁ、私と一緒におうちへ戻りましょ!」


 メリアーヌさんが私を抱えようと腕を伸ばしてきますが、私はそれをひらりと躱します。

 呆気にとられるメリアーヌさんが「セフィちゃん……?」と呟くのを聞きながら、私は人だかりの一部に、ボロボロな姿で横たわるバシュハル村長の姿を見つけました。

 私は驚いて、メリアーヌさんの脇を抜けて村長へと駆け寄ります。

 村長を介抱していた人たちから「セフィリアちゃん!?」という悲鳴が上がりますが、私は無視して村長に声をかけます。


「そんちょーさん、だいじょうぶ……?」


 私の姿を認めた村長は一瞬驚いたように目を見開きましたが、すぐにこちらを安心させるような柔和な表情になりました。


「ええ、大丈夫ですとも。ですからセフィリア様、どうかご自宅へお戻りください」

「……なにがあったの? ごまかさないで」


 私は真剣味を伝えるために声を低くして問うと、村長はしばらく黙ってから そっと目を伏せて、


「盗賊共が突然、襲いかかってきました。幸いにもネルヴィア殿が深夜巡回中でしたので、彼女の叫び声で皆すぐに起きることができましたが……」


 大体、思った通りの流れです。

 私の家にネルヴィアさんが見当たらなかった時点で、予想はできていました。


 見れば、人だかりの内側……戦っている熊男の他にも、見たことのない男が四人見えました。

 そいつらは下卑た笑みを浮かべながら、おそらくは盗賊団のリーダーなのであろう熊男がネルヴィアさんを甚振る様を見学しているようでした。


 そして ざっと見渡す限り、ネルヴィアさんと村長以外に怪我を負っている人は見当たりません。


「そんちょーさんの、そのきず……みんなをまもるために……?」

「……なぁに、こんなものはかすり傷です。まだまだ、これからですよ……!」


 村長はそんな強がりを言いますが、人相が変わるくらい手酷く殴られていて、手足にも酷い打撲痕が見られます。

 村長が老体であることを差し引いたとしても、かなり大変な怪我であることは間違いありません。

 これ以上傷ついたら本当に死んでしまいかねないほどの重傷だというのに……それでも村長は痛々しく腫れあがった腕で、歯を食いしばって立ち上がろうとしていました。


「……儂が殴られていれば、その間……村の者達がほんのわずかでも安全でいられるのならば……いくらでも、何度だって、喜んで殴られますッ……!!」


 いつも穏やかで優しい村長の瞳からは、今にも崩れ落ちてしまいそうなほどにボロボロな老人とは思えないほどの迫力が感じられました。

 私はその気迫に圧倒されながらも、激しく剣を打ち合う音へと視線を向けて、


「……ネルヴィアおねーちゃんは、なにをやってるの?」

「村の者達に手を出すのであれば先に自分を殺せと……彼女が一騎打ちを申し込んだのです」 


 一騎打ちを申し込むなんて、普段のネルヴィアさんの性格を思えば考えられないことですが……相手は屈強な熊男を含めた、五人の成人男性。

 そうでもしなければ、村のみんなを守り切れないと判断したのでしょう。

 そしてそれは実際のところ、最大限の効果を発揮したと言えます。


 なぜならこうして、私が間に合ったのですから。


 私は村長に背を向けると、盗賊たちの方へと足を向けました。


 背後から「セフィリア様……一体何を……?」という村長の声が聞こえたので、みんなを守るためにその身を投げ打った勇敢な彼に敬意を表して答えます。


「そんちょーさん……みんなをまもってくれて、ありがとう。……あとはぜんぶ、わたしにまかせて」


 私は、私の大切な人たちを傷つけた盗賊たちを睨み付けながら、振り返らずに言い放ちました。




「こんやは、あなたの『勇者(・・)』になります」




 私を引き留めようとするメリアーヌさんを村長が制止する声を聞きながら、私は戦いを傍観している四人の盗賊たちへと歩み寄りました。


 ……大丈夫、もう我を失ったりはしない。


 怒りは静かに燃えている。



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