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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第五章 【魔族領】
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2歳2ヶ月 3 ――― 作戦会議



 すっかり夜の闇に浸された森の中を、パチパチと爆ぜる焚き火がぼんやりと照らしていました。

 それを囲うのは、私と一緒に馬車へ乗ってきたメンバーにアイルゥちゃんを加えた、計九人です。


 私が事件現場から持ち帰った情報を改めて整理して伝えると、それを聞いていたロヴェロさんが、ピンクゴールドの瞳を細めながら口を開きました。


「なるほど、戦った痕跡がなかったというわけですか。確かにそれは、絡め手を使ったとでも考えなければ不自然です」


 あるいは圧倒的な実力差でもあれば話は変わってくるのでしょうが、殺された彼は実力至上主義の獣人族において族長を務めるほどの戦士です。

 魔族がごく稀に覚醒する異能・開眼(シャンテラ)を持つレジィですらも、前族長が相手では引き分け以上に持ち込めなかったそうなのです。

 そんな彼を相手に、抵抗する間もなく瞬殺できる魔族なんて……そうそういるものではないでしょう。


 少し俯きがちになったアイルゥちゃんの隣で、レジィが悔しそうに唇を噛んでから説明を補足しました。


「……あの人は、岩に叩きつけられて死んでた。何度か殴られてて、砕けた岩の中に埋もれてたんだ」

「それは背中側から殴られていましたか?」

「いや、前からだったと思うぞ。少なくとも岩には背中から叩きつけられてたように見えた」


 レジィの答えを聞いたロヴェロさんは顎に手を当てて、少し考え込むような仕草をします。

 もしも正面から殴られていたのだとすれば、不意打ちという線は薄いでしょう。そもそも獣人族は五感が鋭敏で、殴られるまで接近に気が付かないなんてことはないはずです。

 しかしそうなると、どうして前族長はまんまと正面から攻撃されたのかという話になってしまいますが……相手の動きを封じる開眼(シャンテラ)を持っていた? いえ、そんなに強い魔族がいるなら、強さがステータスの魔族たちの間では有名になっているはずです。


「もしかして、人質とかなんじゃないですか?」


 ケイリスくんがポツリと漏らした言葉に、レジィは「いや」と首を横に振りました。


「あの前後で殺されたり攫われたりした仲間はいなかったぞ」

「申告してないだけかもしれないじゃないですか」

「……は?」

「自分が、あるいは自分の子供が人質になったせいで前の族長さんが亡くなったりしたら、負い目を感じて黙ってるかもしれませんよ」


 ケイリスくんの冷淡な指摘に、レジィは少し不愉快そうにしながらも黙りこんでしまいます。

 魔族は嘘のつけない直情的な性格が多いですが、だからといってみんながそうとは限りませんし、それぞれに性格も大きく違います。ケイリスくんの言うようなことを考えて、口を噤んでしまう子だっていたかもしれません。


「顔見知りの犯行……とかはないですか?」


 そこでネルヴィアさんも、おっかなびっくりといった感じに小声で意見を挟みました。

 それに対しては、不機嫌そうなレジィに変わってアイルゥちゃんが答えてくれます。


「知っているとは思うが、我々獣人族は魔族の間でも立場が悪い。種族単位ではもちろんだが、個人としても我々と付き合いを持とうという輩はいなかったな。かといって、獣人族で父上を殺せる者など一人もいない」

「そう、ですか……」

「だが父上が密かに付き合いのあった者はいたのかもしれん。今となっては確認する術もないが……」


 族長さんがどんな人達と交流があったのかは知りませんが、あるいは顔見知りの犯行であれば、確かに真正面から不意を突くことも不可能ではないかもしれません。

 ……まぁ、そうだとしても念には念を入れて、背後から襲うと思いますけど。


 とはいえ獣人族の立場が悪いというのは、前族長さんの交流を否定するには弱いのではないでしょうか。

 実際前族長さんが殺されているのですから、もしかすると最初から殺すために接触してきたのかもしれません。もしそうであれば、他種族との交流が薄いからこそ取り入りやすいとも言えるのですから。


 しかし、そんな回りくどいことを魔族がやるものでしょうか……?

 そういう頭を使った立ち回りは、それこそ力の弱い人族なんかがやるものだと思うのですが……

 あれ、違うよね? まさか人族がやったわけじゃないよね?


「あの……まさかとはおもいますけど、人族がやったとかは……ないですよね?」


 私が恐る恐る訊ねると、それを聞いたロヴェロさんが苦笑交じりに首を横に振りました。


「獣人族の誰にも気づかれずこんな場所まで辿り着けるのは、せいぜい魔導師様くらいのものでしょう。しかし魔導師様ほどの力があれば、そのようにこそこそとせず正面から獣人族の里を襲撃するはずです」

「なるほど……それもそうですね」


 言われてみれば、たしかに人族が獣人族の前族長さん“だけ”を殺すメリットはないように思えます。戦争してたんですからね。

 しかしそれを言いだしたら、魔族だって獣人族をみんな殺した方がよかったのではないでしょうか?

 それをしなかったのは、汚い手を使わなければ獣人族を相手にするのは力不足なのか、あるいは……


「じゃあ前の族長ってのに、個人的な恨みでもあったんじゃないの~?」


 現在は大学生くらいの外見のルローラちゃんが、地面に敷いたマットの上に寝そべりながら言葉を挟んできました。ちなみにマットはロヴェロさんが敷いてくれたものです。

 ルローラちゃんの言葉に、レジィとアイルゥちゃんが困惑したように眉を顰めます。


「個人的な恨み……?」

「そーそー。たとえば前の族長さんと戦って負けたことがあるとか、獲物を横取りされたとか、馬鹿にされたとか、そーゆー魔族の話は聞いてないの?」


 ルローラちゃんの問いに対して、レジィとアイルゥちゃんはしばらく考え込んでから「いや、そんなことは……」と答えかけますが……

 しかしその直後、アイルゥちゃんが「あっ!」と真っ黒な目を見開きました。

 この場の全員の注目を集めたアイルゥちゃんは、記憶を辿るような遠い目をして話し始めます。


「そういえば前に一度だけ、父上がオーガと戦って勝ったという話を聞いたことがある。オーガは力自慢の種族だからな……獣人族に負けたとあっては、さぞや屈辱だろう」


 聞けば『オーガ』という種族は、私の前世で言うところの『鬼』みたいな存在のようです。

 ほとんどが赤ら顔をした巨躯を持つ醜い怪物で、丸太のような腕で暴れまわる脳筋とのこと。

 基本的に知能は低いようなのですが、もしかすると突然変異的に知能の高い個体がいるかもしれませんし、私たちの想像もつかないような開眼(シャンテラ)を隠し持っている個体だっているかもしれません。


「……ルローラちゃん、おねがいできるかな?」

「ん~、しょーがないなぁ」


 マットに寝ころんだルローラちゃんが、心なしか嬉しそうに頷いてくれました。


 こうやっていろいろと話し合ったりはしてましたけれど、結局のところ犯人にルローラちゃんの能力を使えば……極端な話、証拠なんて全く無くても一発なわけです。

 さすがにリルルの『年齢退行』の呪いがあるので片っ端から心を暴いていくわけにもいきませんが、我々の方である程度犯人を絞ることができれば、あとは一瞬で片を付けられます。


 さてと……それじゃあまずは、そのオーガとかいう魔族のところへご挨拶に向かいましょうかね。



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