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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳4ヶ月 11 ―――判決



 開け放たれた扉から、悠然とした足取りでこちらに向かってくるケイリスくん。

 五年ぶりの怨敵との対面で、彼が酷く取り乱したりはしないかと心配していたのですが……しかし私の懸念とは裏腹に、ケイリスくんは凛とした表情でミールラクスと向き合っていました。

 えっ、ハート強すぎじゃない?


 法廷を囲う傍聴席は、裁判の様子が見やすいように小高い段上になっています。ケイリスくんはそんな傍聴席の通路をまっすぐに降りてきて、やがて私の隣に寄り添うようにして並びました。

 途中、すれ違った傍聴人たちが口々に「まさか、本当に……!?」とか「あのケイリスちゃん……!?」などとざわめいているのが聞こえましたが、どうやらケイリスくんはなかなかの有名人だったようですね。これまで念のために顔を隠してきて正解だったでしょうか。


 間近でケイリスくんと相対したミールラクスは、思わずといった感じに立ち上がると……明らかに顔を引きつらせながら一歩、後ずさりをしました。


「バ、バカな……!? そんな、そんなはずはないっ!!」


 いっそ哀れなくらい青ざめるミールラクスですが、こちらの攻撃の手は緩めませんよ。

 ケイリスくんが歩いてきた傍聴席の通路を、ネルヴィアさんとレジィも降りてきました。二人が引きずるようにして連行している縛られた男たちは、私たちが昨日と今日でかき集めた“協力者”たちです。


『五年前のグラトス大統領暗殺や、それから貴方が今の地位に居座り続けるために働いた数々の悪行を、彼らが白状してくれましたよ』


 通訳をルグラスさんからバトンタッチしたケイリスくんが、私の言葉を代弁してくれました。


 ミールラクスに協力している裏社会の不届き者たちを見つけ出し、その罪を暴くという……本来であれば非常に困難を極めるであろう大仕事。

 それをたった半日で難なく実現してのけたのは主に、たった今、ネルヴィアさんたちの後ろからちょこちょこ歩いてきているルローラちゃんのお手柄です。現在、彼女の外見年齢は一歳半くらい。


 あのクローゼットに突っ込んだ男から抜き出した情報を元に、私たちはそいつと繋がりのあるミールラクスの手下に接触して捕縛。さらにそいつから情報を抜き出して……と、ミールラクスが裏社会で築いていたコネクションを芋づる式のように根こそぎ壊滅させたのです。

 一切の嘘が通じないルローラちゃんの魔眼。そこへ、ケイリスくんの土地勘とレジィの超感覚で瞬時にアジトを見つけ出し、ネルヴィアさんがアジトごと粉砕。

 敵が逃げても隠れても戦っても一方的に捻り潰し、情報を搾り取ってから次の標的へ……というようなことを一晩続けていたら、出るわ出るわ、ミールラクスの重ねてきた悪行を示す証拠の数々!


 このボコボコにされてげっそりした状態で縛られている四人の男たちは、特にミールラクスの手下の中でも中心的に悪事を働いていたリーダー格みたいです。簡単に言うと、悪の四天王的な?

 この衆人環視の法廷で証言をしてほしくて、ダンディ隊長からこいつらに司法取引じみた交渉を持ち掛けたのですが、これがなかなか骨のある奴らみたいで、素直に首を縦に振ってはくれませんでした。

 なので私とルグラスさん以外を部屋から追い出して、私がゆったりと平和的に『お願い』をしてみたところ、彼らは快く引き受けてくれたのです。ほら、北風と太陽的な? 鞭の後の飴的な?


 私は、後ろ手に縛られて膝をついている悪者(ワルモノ)たち四人に、チラリと優しい視線を向けました。

 すると彼らは途端にガタガタと震えだし、ポタポタと汗を垂らしながら、落ち着きなく目を泳がせまくります。


 ほら、何やってるんですか。

 早くしろよ(・・・・・)


 私が笑顔のまま椅子の背もたれを“ガンッ!!”と殴ると、彼らは白目を剥きながら「ひぃぃ!!」と叫び、ようやく自分の役割を果たしてくれました。


「す、す、すみません!! ミールラクス大統領に指示されて、シャルツェン大臣を暗殺しましたぁ!!」


 高らかに響いたその“自白”に、ミールラクスは泡を食って叫びました。


「なっ……!! 違う、デタラメだ! こいつらが俺っ、私に罪を被せようとしているのだ!!」

『なにを言ってるんですか、人聞きが悪いですね。そんなことしませんよ……“貴方じゃないんだから”』

「ぐっ……!? け、警備はッ!? 警備は何をやっている!? こいつらを摘み出せ!!」


 そんなミールラクスの悲痛な叫びに、しかし法廷に待機していた警備兵たちは困惑したように顔を見合わせるばかりで動く気配はありません。

 法廷の外にいたであろうミールラクスの手下たちも、邪魔になりそうだったら始末しておくようにネルヴィアさんとレジィにお願いしておきましたしね。

 そのため法廷に姿を現したのは、ダンディ隊長を含めた三人の騎士でした。彼らはまっすぐに私たちの方へやってくると、そのままダンディ隊長以外の二人がミールラクスへと駆け寄り、両側から取り押さえます。


「何をしている貴様らぁ!! 俺を誰だと思っているッ!? この国の大統領だぞ!?」


 そう喚き散らしながら暴れるミールラクスに返答したのは、もはや憐みの表情さえ浮かべているケイリスくんでした。


「お父様は常々、『大統領とは国民を家族のように愛し、誰よりも心配する仕事だ』と言っていました。……欲に溺れて何も見えていない貴方に、その肩書きは相応しくありません。このイースベルクの法に則り、犯した罪を償ってください」


 自らの手によって開かれた裁判で、かつて自らが陥れた被害者の手によって判決を言い渡されたミールラクス。

 しかし彼は目を血走らせ、涎を撒き散らしながら、往生際の悪いことにまだ叫び続けていました。

 …………。


「その首輪はッ!! “逃走防止機構”として遠隔操作で爆破することができるのだァ!! 死にたくなかったら俺を―――……」


やってみろよ(・・・・・・)


 ケイリスくんが私の言葉を通訳する前に、ミールラクスはビクリと肩を震わせて黙りました。

 ……そんなハッタリは、とっくの昔にルローラちゃんが見破っているんですよ、間抜け。


 もう、いいんです。判決は下ってるんですから。

 お前はもう喋らなくていい。


 騎士たちに引きずられるようにしながら連行されるミールラクスを、ケイリスくんはもはや目で追うことさえしません。

 それでも私は一応、『いいの? もしケイリスくんが望むなら、私が……』と言いかけますが、彼は背後のミールラクスを振り返らないまま、


「はい。これからはちゃんと、“前”を見るって決めたんです」


 そう言って、まるで憑き物が落ちたような晴れ晴れとした笑顔を見せてくれました。


 ……うん、そっか。ふふっ。


 ならば私もそれ以上は何も言わず、ダンディ隊長に目配せをします。

 彼は私の意図を汲んで、ミールラクスが連れ出されたことで水を打ったような静けさの法廷に、その渋い声を響かせました。


「大統領であったミールラクスが政務を遂行できなくなったため、規則にのっとり、ルグラス・トリルパット殿が一時的に大統領代理となります。ルグラス閣下、ご指示を」


 敬礼するダンディ隊長に、ルグラスさんは風格のある仕草で頷きます。


「直ちにセフィリア殿の魔導桎梏を解除する手続きを!!」


 ルグラスさんの命令に、ダンディ隊長は「はっ!!」と厳かに応えて駆け出しました。あらかじめ各方面には密かに話を通してあるので、手続きも時間はかからないはずです。


 そして未だに困惑している聴衆たちの前で、ルグラスさんは椅子の上に立つ私に向かって深々と頭を下げました。

 えっ、何!? いきなり何ですか!?


「セフィリア殿……どうかこの国のために、その力を貸していただきたい」


 予定にないアドリブを突然ぶっこんできたルグラスさんにちょっと面食らったものの、私はすぐに平静を取り戻して笑みを浮かべると、


『もちろん、喜んで』


 当たり前のように、頷きました。



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