番外編3:未来ーいつかー
長らくお待たせしました!
今回にて終幕となります!
長い長い夢を見た。
もう、どんな夢だったのかも覚えていないけど。
飛行機から降り、空港を抜けて大きく息を吸う。
飛行機の中は密室のようなもの。
濁った空気を何時間も吸い続けて、吐きそうになっていた身体に新鮮な空気を取り込む。
久しぶりの祖国の空気。
海外の最前線にいた俺は、今日から日本へ戻る。
戦力外通告を受けたわけじゃなくて、高校の頃世話になった監督の後を継ぐためだ。
チームのみんなも快く送り出してくれたし、日本に着いたばかりなのにもう遊びにいってもいいかなんて連絡が入っている。
気さくな彼らは、俺がもう寂しくなり始めてると思ってんのかな。
まあ実際そうなんだけど。
チームのみんなと離れるのは、ちょっと寂しい。
それぐらい、海外での活動は楽しかったんだ。
タクシーに行き先を告げ、みんなに1つ1つメッセージを返す。
そのうち、長旅の疲れが出たのか気づいたら眠りに落ちていた。
ーーーねえ、笑ってよーーーーーー。
「お客さん、着きましたよ」
という運転手さんの声で目がさめる。
外を見ると、かつては見慣れた高校の前。
夢の中で聞こえた声がまだ耳に残っている。
あれはーーー誰の声だ?
「ーーーお客さん?」
「……ああ、すみません。料金は?」
「6530円です。お客さんみたいな英雄を乗せられて光栄でしたよ」
「英雄なんて……そんなんじゃないですよ」
どうやら俺に気づいていたらしい運転手さんに要求されたサインを渡し、タクシーを降りる。
3年間、通い続けた学校。
最初は何も楽しくなくて、ただ無意味な時間が繰り返されるだけだと思っていた。
けど、ある日突然現れたかつての親友は、その日常をあっさりと変えやがった。
あの不思議な数日を過ごして、俺の生き方は180°変わった。
サッカー部に入って、適当にやっていた勉強も真剣に取り組んだ。
結果、俺は大学でサッカーを続けながら着実に実力をつけて、国内でも海外でも動ける選手になった。
親友は……コウタは、昔っからそうだった。
人の考え方も、行動も、カラッとした笑顔でなんでもないことのように変えていけるやつだった。
部活を始めたことでクラスにも馴染んで、楽しい高校生活を送った。
あの不思議な数日がなかったら、俺の高校生活もその後の人生もきっと無機質なままだったんだろうな。
ただ、同じ日々の繰り返し。
ずっと、そう思っていたことだろう。
校舎を見上げ、かつての楽しかった日々に想いを馳せる。
目を閉じれば、鮮やかに蘇る景色。
仲間達や監督の声。
だからだったのか。
「危ない!!」
なんて声にも反応が遅れて、気付けば目の前にボールが迫っていた。
「ーーーーでっ…!!」
当然、顔面にクリーンヒット。
痛い……地味に痛い…。
顔面に当たったのは、サッカーボール。
当てたのは俺の後輩でありこれから面倒みることになる教え子ってことか……。
こんなノーコンなやつもいるんだな……。
なんて思っていると、犯人らしき生徒が駆け寄ってきた。
「すみません!大丈夫ですか!?」
「……大丈夫に見えるか?」
そいつをジロリと睨みーーー息が止まるかと思った。
そこにいたのは……
「いやー、まさかそんながっつり当たるとは思わなくて……」
「お前なあ……」
あぁ……なんか、こんなこと相当昔にあった気がする。
あの時と違うのは当たった場所が顔面じゃなくて、俺は当時サッカーに興味がなかったということ。
でも、それ以外は何も変わんない。
「あー!!井照璃餡!?!?」
「叫ぶなうるさい」
俺が誰なのか気づいたそいつが叫んだことで、遠巻きに見ていた生徒たちまで騒ぎ出す。
メインは海外だったけど、日本でもちょっとは活動していたからな……。
少しでも知ってくれている生徒がいるのは驚いたし、少し嬉しいような恥ずかしいような……。
「俺、長月幸太!1年です!俺、あんたのことすげー尊敬してるんだ!あんたが卒業したこの学校に入るために勉強頑張ったんだぜ!」
お前のことはとっくに知ってるっての。
苗字は違うけど、こいつロスト……コウタだ。
とりあえず、目上の人間への接し方から学び直せよ。
後々大変になるぞ。
色々思うことはあったけど、とりあえずボールを渡す。
「俺、いつかあんたみたいなプロになって、そんであんたを超えるくらい強くなるんだ!」
「へえ……それは楽しみだな」
ーーーまた、いつかサッカーやろうーーー
ロストが消えたあの日の、届かなかった約束は…そう遠くないうちに叶いそうだ。
「早く追いついてこいよ。コウタ。」
Lost memories of the Kota THE END!!
Next story is ...?
皆様、お久しぶりです。
初回の投稿からもうこんなに時間が経っていたんですね……。
もともと二次小説を執筆していた際二次創作の制限が出てしまい、あの時はどうしようと悩みまくりでした。
今回の子達を含め、今後登場する子達も全員、これまで執筆していた小説に登場予定の子達だったからなんです。
でも、私としてはずっと温めてきた子達であり、なんとかして彼らを外に出してあげたいと思い、オリジナル小説として登場させたのが始まりでした。
かなり遠回りしてしまいましたが、少し設定変更などはあったものの、幸太や璃餡を物語にしてあげることができました。
読者の皆様、感想やコメント、評価をしてくださった皆様のおかげです。
本当にありがとうございました。
これにて幸太と璃餡の物語は終幕となります。
いずれ、また彼らにお会いすることになると思われますので、今後の作品をお待ちください。
では、また次回の作品まで。
これまで読んでいただき、誠にありがとうございました。
2017年6月17日
白星裂空