番外編1:帰還-ふたたび-
つい先程まで璃餡の優しい声が響いていたのに、今はまったく聞こえない。
ロストが目を開けると、そこは何もない白い空間であり、自分が璃餡に会う寸前までいた場所だった。
転生学園。
その名の通り、人生の幕を閉じた人々が再び地上で生きるための学園である。
今ロストがいるのはそこから少し離れたところだ。
他の学年の生徒達の授業が終わったのか、チャイムのメロディーが僅かに聞こえる。
初めてここに来たとき、自分が何者なのか、なぜここにいるの分からなかった。
名前も、ここに来る前の記憶も失っていたのだ。
途方に暮れていた自分の前に現れたのは、転生学園の教師で、事情を話すと彼はすぐに説明をしてくれた。
自分は既に命を落としていて、死後の世界であるこの【天界】に送られてきたのではないかということ。
天界に送られてきた人々のほとんどが生前の記憶をなくしていて、ふとした時に思い出すこともあるということ。
最初は信じられなかったが、今の状況を考えると信じざるを得なかった。
混乱している自分に彼は優しく笑いかけ、しばらくの間はこの何の不自由もなく過ごせる天界でのんびり過ごし、それでも生前の記憶を思い出したくなれば学園を訪れれば良いと言ってくれた。
数年の間、彼の言う通り天界で穏やかな日々を過ごしていたが、いつしか自分の記憶がないことに違和感を感じるようになった。
何か忘れてる。
そんな漠然とした違和感がロストの脳内を支配し、それは言いようのない焦燥と不安に変わり、気付けば転生学園の門の前に立ち尽くす。
そして我に返ってはまた与えられた家へと戻るという暮らしを繰り返していた。
何度目かのその行動で、偶然にもここにきたばかりの頃に何も分からない自分に声をかけてくれたあの教師と再会して、学園への入学を決断した。
入学してから、仲間ができて、後輩ができて、とても充実した日々だった。
それでも、なにかが抜け落ちている喪失感は消えなくて。
むしろ、違和感は更に強くなっていって。
ひたすら、何度も行われる試験に集中して無理矢理忘れようとしていた。
そして、自分がここにいるということは、今回の試験の終わりを意味する。
「終わったんだ……」
ポツリと、呟く。
声が空気に溶けていく。
何故かロストはそのことに虚しさを感じた。
それと同時に、何か後悔の様なものも感じる。
何か、璃餡に言わなきゃいけないことがあったような―――――――。
「どうした?」
声に驚きながらも背後を振り返ると、そこにはいつものように悪戯を思いついたような笑みを浮かべている男性がいた。
彼こそがその教師である、暁トウヤ。
見た目は自分と変わらないか少し上くらいなのに、もう何千年もここにいるというのだから、きっとこの人は人間じゃない。
それはロストにもわかる。
だが、そもそもこの天国という場所こそ特別なのだから、珍しいことではないのかもしれない。
「先生……戻ってきました」
それをいうだけで、ロストは精一杯だった。
それを察してくれたのか、暁は優しくロストに微笑み、くしゃりと頭を撫でた。
「そうみたいだな…おつかれさん。がんばったな」
自分より身長の小さい暁に撫でられるのもまた、違和感であるのだが、それをいうと彼に怒られるのでされるがままにされておく。
「……で、違和感の正体に気付けたか?」
入学してからずっと暁に相談してきたこと。
それが、天国で穏やかに過ごしていた頃から感じ、入学のきっかけとなった"違和感の正体"。
「いいえ……まだ、見つけられなくて。でも、何かこの試験でやり残したことがある気がするんです」
「そっか……見つからなかったかぁ…。まあでも、リアン君…だっけ?彼と出会ったのは、良いことだったろ?彼との日々は、かけがえのないものになるはずだよ。例えお前が転生することで彼のことを忘れてしまったとしても」
「はい。璃餡を笑顔にすることができて、良かったと思…い……」
ロストは、璃餡が笑った時の微かな振動を思い出す。
暖かくて、安心してーーーーーー。
見えなかったはずの璃餡の笑顔が脳裏に浮かんで、そこで意識が途切れた。
「ロスト……!……ト!!」
遠くで聞こえる誰かの声だけが、薄れゆく意識の中で響いていた。
しばらく更新できなくてすみませんでした(・・;)
皆様お久しぶりです!
リアルではいろんなことがあって気づけばかなりの年月がたっておりました……
今回はそのお詫びも兼ねて、いつもより長いお話にしました。
試験を終えたロストに訪れる新たな試練……
次話は4月中に更新する予定なので、またお時間がある時に読んでくださると嬉しいです(^^)
ではまた次回お会いしましょう☆




