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015:爆撃並みの舌打ち

 初めて参加したお勤めから、一週間が経過した。


 あれから俺の体になんらかの、著しい変化があるのではないかと疑っていたのだが、案外そんなものは現れなかった。異変の気配すらない。


 帰還した俺を見た祖母はとても褒めてくれた。里子は泣いて喜んでいた。


 鹿波はといえば仏頂面をしていたが、大間に接近され、なにかを囁かれると紅潮し、釘バットを振り上げて襲い掛かった。


 宙を泳ぐ大間は釘バットの猛攻をヒラリヒラリと避けながら「まだ若いな小娘め」とからかうも、呆れた祖母が「いい加減にしな」と一喝。尾を踏んで黙らせた。


 お勤めの晩に出された料理はとても豪勢で、高級料亭に並ぶ逸品にも見劣りしないものばかり。肉と魚をこれでもかと使ったご馳走だ。東京に住んでいた頃は、母が作るものはいつも余り物か冷凍食品ばかりだったので、箸を付けることすら躊躇ってしまうほどだ。鹿波はお茶漬けのように豪快に食べていたけど。


 そして時間が過ぎるのは早いもので。一週間が過ぎていたというわけだ。


 俺は変わらず龍ヶ棲町で学生をさせてもらっている。


 役所にはすでに養子縁組届けを提出し、渡良瀬家の姓を名乗った。これにはすでに違和感も抵抗感もない。


 高校では友達も増えた。どこから話が漏れたのか、俺がお勤めに出たことはすでに周知されていて、俺はそんなつもりはなかったのだが英雄視するような視線を向けられていたと思う。あとは鹿波のガンを平然と受け止められる勇者とか。まったく嬉しくないし、教室では話しかけようとするだけで睨まれるし。


「渡良瀬 今日さぁ、昭建寄って帰ろうぜ!」


 放課後になれば友達の西野が笑いながら俺を誘ってくれる。


 昭建とはこの町にひとつしかない駄菓子屋で、子供たちがいつも利用する憩いの場だ。


 龍ヶ棲町には独自の規則が設けられているものの、東京の学校のように学校帰りの買い食いは厳しく取り締られておらず、黙認されていた。暗黙の了解というやつだ。ただし夕飯前の軽食となるため、食事量には気を付けなければならない。


「いいよ。行こうか」


「よっしゃ、他には誰誘う?」


 西野はこのクラスのみならず、学校全域にコミュニティを持っている。上級生や下級生まで。全員顔見知りなのだから当然なのだが、珍しく全員が友達という現代においては稀有な人望を築いていた。


 そうなると買い食いにおいては小さなパーティーと化す。昭建の隣の空き家を解放しているため、部活が無い日はいつもそこで談笑していた。


「ちょっと康太(こうた)。買い食いするなんて見過ごせないわよ」


「うわ、出たよ自称風紀委員長」


 西野がパーティーメンバーをセレクトするべく周囲を見渡すと、左から右へと流れる視線の途中で女子が割り込んだ。


 彼女の名前は森崎(もりさき)千夏(ちなつ)。始業式の日に、最初に俺に声をかけた女の子だ。彼女は龍族でも人龍でもない。俺と同じ人間だ。そして西野の幼馴染である。


 野球が趣味で、能力を全振りしている西野を昔から制御する役割を率先する堅物委員長。まるで漫画のような設定。俺もこんな世話焼きな幼馴染が欲しかった。


「なんで私を最初に誘うって思わないわけ?」


「え、そこ?」


 森崎が目を尖らせて買い食いの阻止をするものだと考えていたのだが、風紀委員長という西野の評価とは裏腹な論点で憤っていたものだから、つい声に出してしまう。


 驚いて声にしてしまうと、西野と森崎は「どうした?」という目を向けて首を傾げる。


「あ、いや………森崎も買い食い肯定派だったんだなって。風紀委員長って呼ばれてるし、真面目にやってるものだと思ってたから意外でさ」


「そうかな? 別に買い食いだなんて普通だと思うけど。ね?」


「だな。みんなで小遣い出し合ってもんじゃ食うのって定番だろ」


 なんていうか「さすがは秘境」という評価だ。


 買い食いは定番。自分の親の代から続いてきたというので、子供たちにも風習が受け継がれて、当然るいは常識の域に達している。ガチガチに固めたセメントのような校則を掲げる進学校ではないのだから、こうなるのも頷ける。


 それに、小遣いを出し合ってもんじゃ焼きを食べて帰る───のもこの令和の時代からすれば稀有なことだ。


 駄菓子屋でもんじゃを焼いて食べるのは昭和なら当たり前にあった光景だろうが、今はそんな営業は絶滅している。都心ならまずありえない。


 もんじゃ焼きの起源は「文字焼き」であり、駄菓子屋の鉄板で文字を描いて勉強したという時代なら知識としてなら入っているが、実際にそんな風習がまだ残っていたことが驚きだ。


「ねぇ、私もたまには行きたいな。連れて行ってよ」


「お、珠乃じゃん。いいぜ。行こうぜ!」


 森崎の横からひょこりと現れた珠乃も加わって、これで四人。鉄板は四人掛けなのでこれで埋まる。いや、長椅子だし詰めればあとふたりは座れるのだが。


「ねぇ。鹿波ちゃんも行こうよ!」


 珠乃が手を振って誘う相手は、あろうことか鹿波だった。途端に心臓が縮みあがる。


 ところが鹿波は「今日はパス」と告げて席を立つ。鞄を提げて教室から出てしまった。俺と擦れ違う際に「チッ!!」と爆撃並みの音量の舌打ちまでして。


「………へぇ。渡良瀬って本当に鹿波に舌打ちされても動じないんだなぁ。すげぇよ。俺だったら気絶してるぜ。怖ぇし」


「俺だって気絶しそうだったよ」


 怖いものは怖い。ただ最近、どれだけ音量が上がっても動悸が激しくなるだけで、顔に出ないだけだ。


 先週のお勤め以降、鹿波は俺と極力会話をしなくなった。


 事務的な会話ならともかく、朝食で会って挨拶をしても「ああ」とか「ん」とかしか言わなくなった。


 祖母に理由を尋ねても、ある程度の原因は把握しているようだが「いずれ話す」の一点張りだ。


 なにか事情があるにしても、総無視をされるのは気分がいいものではない。が、そんな態度であってもリアクションがあるだけまだマシだ。東京にある実家だった場所にいた頃に比べれば───


「渡良瀬くん?」


「………」


「渡良瀬くんってば。大丈夫?」


「………あ、ごめん。考え事してた。大丈夫」


 珠乃が俺の顔を下から覗き込んでくるので、つい顔を反らす。案外距離感が近い子で、色々な意味で驚いた。


「行こう? ふたりとも先に昇降口に向かっちゃったよ」


「え、あ、本当だ。悪い」


「いいって。ほら早く」


「ああ」


 珠乃は俺の手を引いて走る。廊下にはすでに誰もおらず、ふたりだけの貸し切り状態となっていた。


 ちなみに校則には廊下は走るなとあるので、これは見つかったら怒られる。緩い規則であっても必要最低限のものはあった。


 こうして珠乃に手を引かれると、十年前のことを思い出す。


 母だった女に連れられて訪れた龍ヶ棲町で、俺と友達になってくれた少女。


 思い出せるヒントは少ない。顔も覚えていない。が、珠乃には多くの共通点があった。笑うと可愛いとか、率先して案内してくれるところとか、陽気なところとか。


 一緒に行動するだけで、停滞していた心がまたわずかに動き出す。


 そう。喪失していた感情。これは喜びというものだ。

まーたしても鹿波が嫌な性格になっているような。これじゃヘイト集めちゃう………


珠乃の好感度が上がりっ放しになっていると思い………ます?


珠乃も確かにヒロインのひとりです。サブキャラにするつもりはありません。


ですが鹿波もヒロインなんだから、どうにかしないといけないですねぇ………


次の更新はお昼頃になります!

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