第23話 人間である事
23話を公開させてもらいました。
勉強をし続ける与人であったが、ある日異変が。
「さて、あれから数日経った訳だが。率直にどう思う?」
「回答。……現状の継続はあまり好ましくないと思われます」
リントの言葉に対するセラの回答に皆が一堂に頷く。
現状急遽取った隣部屋には与人とユニ、そして新たに加わった戦略書以外のメンバーが揃っている。
と、言うのもあの日以来、与人は鬼教官と化した戦略書による付きっきりの勉強を課されているからでありユニは本日のストッパー役である。
「主くんも止めなくていいって言うから止めなかったけど……流石にこれ以上はやり過ぎだね」
「……ご主人。顔色悪そうだった」
ティアの言葉を肯定するようにリルが見た限りの与人の体調を言うとアイナが鬱憤を晴らすが如く大声で戦略書に対する怒りを発する。
「全くあの戦略書! 主様の体調も気にせず缶詰にして! そのせいで碌に主様とお話が……い、いえ。と、とにかく! このままでは旅にも影響が出ます!」
「アイナさんあまり隠せていませんよ」
怒りのあまり本音が出るアイナにカナデが突っ込むが否定をしないので彼女も現状をあまり良くは思っていないのであろう。
「考察。結局のところ勉強の成果は出てるのでしょうか?」
セラの言葉に皆が一堂に考え始める。
今現在は勉強をしているのみなので実践はしていないがこれで成果が出なければ時間のみを浪費した……という事にもなりかねない。
「結局のところ全てを握っているのは新人くん……って事になるね」
「……だから問題なんだ」
ティアの言葉に頭を抱えるリント。
情報を共有しようにも向こうが関わりを拒否するような立ち振る舞いをするため今後の事を話合えずにいる。
「大体どういうつもりなんですかあの新人は! このまま主殿の隣をキープしようとしている様にしか見えません!」
「否定。その考察にはアイナ氏の願望が多大に含まれていると思われます」
「聖剣の見え見えな野望はともかく、私は寧ろ逆のような気がするがな」
「……どういう意味?」
リルの問いかけにリントはため息を吐きつつ今現在も勉強しているであろう二人の方向を見る。
「むしろ本のやっている事は、死に急いでいるように見えるがな」
リントの考察に皆が疑問の顔を浮かべている。
しばらく静まり返るが誰かが何かを言おうとした時に突如カナデが皆を静止する。
「皆さんお静かに。旦那様のいる部屋が少し騒がしいです」
「! 敵襲ですか!?」
「いえ、剣戟は聞こえません。ですが慌てふためいているような声です。……少しの間だけ静かにしててください」
皆が首を縦に振るのを確認してカナデは耳を澄ます。
一分後、状況が分かったのかカナデは皆に報告する。
「……皆さん、落ち着いて聞いて下さい。旦那様が倒れました」
「「「「「!?」」」」」
「……ん? ん~」
与人が目覚めるとそこはベットの上であった。
薄暗く一瞬状況が分からず混乱する与人であったが勉強の途中で意識を失った事を思い出す。
「お目覚めになられましたか。軽い過労だそうです」
聞こえた声の方に意識を向けるとそこには椅子に座ってこちらを見ている戦略書の姿があった。
「どのくらい寝てた?」
「数時間ほど。……日は跨いでしまいましたが」
与人が窓を見てみればカーテンが閉められており光が差し込んでくる様子は無かった。
「そっか。皆にも迷惑かけちゃったかな?」
「ええ。……アイナ殿は自分に切りかからん勢いで詰め寄られました」
「はは。状況が目に浮かぶよ」
そう明るく与人は答えるが彼女から明るい声は聞こえてこない。
「あのさ」
「すみません与人様。先に自分からいいでしょうか?」
与人の言葉を遮るように言葉を重ねる戦略書に与人は多少戸惑いながらも首を縦に振る。
「ありがとうございます。」
そう言うと彼女は頭を深々と下げる。
「この度は申し訳ございませんでした」
そう謝罪の言葉を口にすると彼女は思いの丈を語る。
「自分は与人様の『スキル』によって人間となりました。……ですが本質は本のままなのです。そして自分のような本は知識を身につけたら本棚にしまわれるか、別の人間に受け継がれるか。良くてそのくらいなのです」
「……」
彼女の言葉を与人は黙って聞いていた。
戦略書は下げていた目線を天井へと向けると自虐するように自らを語る。
「ですから懸命に与人様に教えられる事を教えようとしました。それが本である自分に唯一出来る事だと信じて。それが終えれば捨てられるのも覚悟しましたが……。結果だけ見れば過労で倒させてしまう始末。結局自分は本としてもそして人としても間違いを犯してしまいました」
そう言うと戦略書は椅子から立ち上がり部屋を出て行こうとする。
「どこ行く気?」
「役に立たない本がそばにあっても邪魔なだけでしょう。……本を集めながら静かにこの生を過ごしたいと思います」
「……ちょっとこっち来てくれ」
「? 何でしょうか」
ベットに腰かけ手招きする与人に導かれるまま彼女が顔を近づけると。
「ていっ!」
その額に向かって与人はデコピンを一発お見舞いする。
「な、何を?」
突然の出来事に驚きを隠せない彼女に与人は笑みを浮かべる。
「これは勝手に出て行こうとした罰だよストラ」
「す、ストラ?」
「そうストラ。ずっと勉強漬けで名前も付けてあげられなかったから」
戸惑いを隠せないでいる戦略書ことストラに与人は笑みを浮かべつつ語る。
「少しぐらい間違いを犯したからって逃げるな。そもそも俺は倒れた事を後悔してない」
「な、何故?」
「勉強しようと思って受け入れていたのは俺だ。まあ少し大変だったけどそれでも止めなかったんだから寧ろ自業自得ってやつだろ?」
「で、ですが」
「ですがも何も無い。……けど勉強して分かったのは俺に魔法は向いていないって事だろうな。だから少しでも使えるストラに残ってて欲しい」
「それは……」
与人の言葉にストラは言葉を詰まらせる。
その様子を見て与人は頭を下げる。
「与人様……!」
「頼む。何の取り柄も無い俺だけど少しでも皆が過ごしやすい楽園を造りたい。その為に沢山の力が必要だ。だからストラの力も貸して欲しい」
「……お役に立つのでしょうか、こんな自分でも」
不安げに問うストラに与人は混じりけの無い笑みを返す。
「当然。その頭に詰め込んでいる戦略が役に立つ事だってあるさ」
「……それが活躍しなかったら?」
「魔法だって使えるし知恵もある。少なくとも俺よりは役に立つさ」
「……人間としての生き方が分からない自分でもでしょうか?」
「人間の生き方なんて誰も知らないさ。大切なのはきっと躓いてでも歩く事じゃないか?」
「……分かりました」
そう言うとストラは静かに臣下の礼を取る。
その所作は美しく一瞬、与人が見惚れる程であった。
「この先に何が待ち受けていようと持てる知恵と魔力、全てを使い与人様の望みを叶えるとここに誓います。末永く自分をお使い下さい」
「ああ。改めてよろしくストラ」
そう笑う与人にストラは美しい笑みを返すのであった。
今回はここまでとなります。
ストラという名を得て、本格的に彼女は仲間になりました。
これからの彼女の活躍にご期待ください。
そして次回でも……?
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