玩具
「はーい、お待たせ」
新政権発足に向けてのあれやこれやを、クラリス親子に任せた私は、他の部屋とは少し距離の離れたとある一室に来ていた。
この場には、クラリス親子はもちろん、ヒマリも誰も近付かないようにキツく言ってある。
室内にいるのは、私と他の隊員達。
それから、教皇親子だけだ。
縛られたまま床に跪かせている二人は、もちろんまだ話せないし、動くことだって出来ない。
能力は解除してないからね。
あ、広場にいた民衆は解除して解散させたよ。
クラリス親子と近しい人達、要するに反教皇派の人達がその辺はやってくれた。
「貴方達には色々と聞きたいことがあるんだよねぇ。
ん?いや、そうでもないかな?」
クラリスを助け出し、クラリスの父親である枢機卿が教皇に取って代わる決意をしてくれている今、よくよく考えてみると、今更こいつらから聞き出したい情報なんてほとんどない。
まぁ、そんなのどうでもいいか。
「よし、とりあえず『話していいよ』」
「…………何が目的だ」
言葉が発せられることに気が付いた教皇は、私の目的を。
「き、貴様ら!俺が誰かわかっているのか!?」
そして、ルシウスは典型的な小悪党の台詞を発する。
「目的?そんなの決まってる。
ヒマリに頼まれて、クラリスを助けに来たんだよ」
「聖女に頼まれただと?」
「そうだよ。
そのために、ヒマリは一人きりでイシュレア王国まで来たんだから」
「……貴様がイシュレア王国に現れたという『流れ人』か。
同類を頼ったという訳だな」
そう語る教皇の声からは、ヒマリに対するなんの感情も感じられない。
予想はしてたけど、結局はヒマリのことを都合のいい道具としか見てなかったんだろうね。
「それで?あの小娘を助けるためだけにこんなにことをして、ただで済むと思っているのか?」
にやりと笑う教皇。
要は、このままだと神聖王国とイシュレア王国の戦争になるぞって言いたいんだよね?
「済むよ?
だってあんたらはもう終わりだから。
このまま罪人として表舞台からは消えてもらう」
「愚かなことを……。何の罪で我々を裁くと?
証拠などありもしないのにか?」
馬鹿にしたように見てくる教皇。
きっと色んな悪事は働いているんだろうけど、絶対に証拠は残していない自信があるんだろうね。
だからこそ、私はより一層馬鹿にしたような笑みを教皇に見せてあげるんだ。
「そんなもの必要?
そんなの後からどうにでもなるのは、あんたが一番良く知ってるでしょ?」
「…………」
私の言葉に、教皇の顔色が悪くなる。
証拠の捏造なんて、自分達が散々やって来たでしょうに何を言ってるんだかって感じだよね。
それに、どうしても証拠が必要だって言うなら、別に捕えてある教皇の側近達に口を割らせるだけだし。
「お、俺は教皇の息子だぞ!?
この神聖王国の次期教皇だ!!
それを、こんなことをして許されると思ってるのか!?」
未だに状況がわかっていないのか、バカ息子……じゃないや。ルシウスが喚き立てる。
教皇はさすがに状況がわかって来たみたいだけどね。
「だから、許されるんだって。
あんたは、もうただの罪人なんだから」
そう、こいつらはもはや教皇でもなんでもない、ただの罪人だ。
つまり、私の玩具に過ぎない。




