イシュレア王国王室近衛騎士団特別部隊長 サキ・ヤマムラ
「その処刑、しばし待たれよ」
広場全体に響き渡る私の声。
普通に声を出すだけならとてもそんなことは出来ないけど、今はアレクの魔法で声を拡散してもらっている。
魔法ってのは本当に便利だよね。
その声に、広場にいる全ての人々の視線がこちらへと向く。
そして、私達の黒髪に気が付いた人々が驚愕の声を上げている。
遠く離れているのに、教皇やルシウスが驚いているのが手に取るようにわかって、せっかく一度は引っ込めた笑みがまた浮かびそうになるのを何とか堪える。
普段は全く仕事をしない分、私の表情筋は絶好調のようだ。
明らかに動揺しているのがわかる教皇達に比べ、今なお処刑台に立ったままのクラリスは全く動かない。
この場に連れてこられた時からずっと冷静なままだ。
それが気丈に振る舞っているからなのか、それとも全てに絶望して何もかも諦めてしまっているからなのかはわからないけど。
充分に人々の注目を集めたのを確認したところで、私はまだ身に付けたままのローブを脱ぎ捨てる。
ローブの下から現れたのは、純白に黒い襟章の付いた制服。
もちろん、近衛の制服だ。
実はこのために持って来てたんだよね。
当然、他の隊員達も同様だ。
「私はイシュレア王国、王室近衛騎士団特別部隊長サキ・ヤマムラ。
こちらにおわす、ライオネア神聖王国聖女、ヒマリ・サカシタ殿の要請により馳せ参じた」
私の言葉に、民衆に更なるざわめきが広まる。
そりゃそうだ。
行方不明になっていた聖女が突然、それも他国の近衛騎士と一緒に現れたんだもん。
『隊長、聖騎士団がそちらへ向かっております。ご注意ください』
マークの声に視線を巡らすと、処刑台の上で何やら喚き散らかしているルシウスと、民衆を押し退けながらこちらへと向かってくる聖騎士の姿が見える。
「どうか、誰も『動かずにその場で静かに』聖女殿のお言葉に耳を傾けて頂きたい」
明確な意思を持って発せられた私の言葉に、私の視界に入る全ての人々。
つまりは、この広場にいる民衆はもちろん、教皇やルシウス、こちらへと向かっていた聖騎士までもが動きを止める。
『お見事です。この広場に動いている者はおりません』
再び聞こえて来たマークの言葉に無言で頷くと、ヒギンスに視線だけをちらりと向ける。
私の視線を受けたヒギンスは、他の隊員を連れて静かにその場を離れる。
もちろん、教皇達の身柄を抑えるためだ。
あ、カレンは行かないのね。
この場でも私の護衛をするつもりか。
まぁ、いいけど。
そんな私の内心の呆れに気付いているのかいないのか、目が合ったカレンは二カーッと笑顔を見せる。
やれやれだよ。
「さ、ヒマリ。出番だよ。クラリスを助けよう」
気を取り直した私の言葉に頷き、一歩前に進み出るヒマリ。
その肩は、緊張から小さく震えている。
「大丈夫、大丈夫だから」
安心させるように言い聞かせながら、そっと震える肩に手を乗せる。
その私の手に自分の手を重ねると、ヒマリは大きく一つ、息を吐いてから口を開いた。




