そして、それは断罪の幕開け。
「クラリス様……!」
その姿を見たヒマリの口からは悲痛な声が。
広場からはざわめきが広まる。
処刑台の上に連れてこられたクラリスは、ボロ布と呼んで差し支えないような囚人服を着せられ、元は美しかったであろう赤い髪はボサボサで艶も何もない。
見るも無惨なその姿は、とてもではないがこの国で最も高貴な身分の女性であったとは思えない。
処刑を待つ身とは言え、普通なら最低限の身なりは整えられるし、クラリスのように高貴な身分なら囚われている間もそれなりの待遇は受けられるはず。
それなのに、今の姿からはとてもそういう風には見えない。
つまりは、そう言う扱いを受けていたということだ。
それに何よりだ。
処刑台の隅に控えている覆面を被った処刑人の手に握られているもの。
あれは斧だ。
それも、恐らくは斬れ味が最悪な部類のやつ。
あんな斧じゃ、一撃で綺麗に首が落ちるとは思えない。
中々良い趣味をしてらっしゃるようだ。
「なんてことを……」
先程までは悲しみに歪んでいたヒマリの顔には、今ははっきりと怒りが浮かんでいる。
大切な人の無惨な姿を見せ付けられ、悲しみが怒りに変わる。
うん、きっとそれが普通の感情なんだろう。
でも、私は違った。
処刑台の最前列に立ち、クラリスの罪状とやらを声高に読み上げる若い男。
そして、その後方に設けられた高台の上でそれを見下ろしている初老の男。
距離が離れているから、その表情なんて見える訳がないんだけど、何故か私にはわかった。
その口元が醜い笑みに歪んでいるのが。
きっとあの若い男が教皇の息子ルシウス。
そして、後方にいる初老の男が教皇だ。
無惨なクラリスの姿。
そして醜い笑みを浮かべるルシウスと教皇。
それをじっと見詰める私の胸に湧き上がる感情は怒りではない。
あの醜い笑みが。
自分達の絶対的な優位と勝利を確信しているだろう余裕たっぷりの姿が。
きっとこれから、恐怖と絶望に歪む。
そんな未来を想像するだけで、自然と口角が上がり、普段は全く変化しない自分の表情が変わっていくのがわかる。
あぁ、想像するだけで楽しみで、楽しくて仕方ない。
私の心に湧き上がる感情。
それは歓喜。
「サキさん……?
え?笑ってる?」
私の様子に気が付いたヒマリが訝しむように問い掛けて来るけど、歓喜に支配された私は取りつくろうこともない。
初めて見るだろう私の歪んだ笑顔に驚愕の表情を浮かべるヒマリに、フードを取り、鬘も脱ぎ捨てるように指示を出しながら、自らもそのようにする。
あらわになった私達の黒髪に、近くにいた民衆がざわついている。
ヒマリの顔を知っていたのか「聖女様!?」と驚いている声も聞こえる。
「始めるよ」
徐々に広がるざわめきの中、私の静かな声が不思議なほどよく響く。
さぁ、聖女様の。
そして、魔女による断罪ショーの幕開けだ。




