神聖王国到着
翌日。先行して潜入していたフレバンとキースの手配もあり、私達は何の苦労もなく無事神聖王国に入国した。
聖女の失踪に、有力家門の令嬢の処刑という非常事態が起きているはずなのに、始めて足を踏み入れた神聖王国は至って平穏そのものに見える。
「聞いてはいたけど、本当に普段通りって雰囲気には見えるね」
まぁ、神聖王国の普段の様子はもちろん知らないんだけど。
「ええ。どうやら神殿の上層部が上手いこと国民を言いくるめてるみたいですね。
それでも、不安を感じてる民もいるはずなんですけど、表立って騒ぎ立てるようなことはないようです」
フレバンの言葉になるほどと思う。
変に騒ぎ立てて神殿側に目を付けられたくないっていう思いが強いのかな。
そう思いながら改めて街中を見渡すと、確かに人通りは多いし賑わってるようにもみえるけど、道行く人々の顔がどことなく暗く見える。
「ヒマリ。あんまりキョロキョロしないの。挙動不審過ぎるから」
「あ、すみません……」
身に付けた灰色のローブのフードを深く被りつつ、仕切りに辺りに視線を彷徨わせるヒマリを小声で注意する。
ちなみに、この灰色のローブは神殿への巡礼の旅をしている人が身に付けるものらしい。
フレバン達が予め調達して来てくれた鬘で髪色も誤魔化してはいるけど、それだけでは少し不安なんで念の為。
ローブに付いているフードも深く被って頭を隠している。
「さて、今夜はどこか宿に泊まるなりなんなりして明日以降に備えたいとこだけど。
フレバンとキースの泊まってるとこって、まだ空きある?」
クラリスの処刑は数日後に迫っている。
明日以降色々と動けるように、今夜は早く寝たいんだ。
なんせここ暫くは野宿だったし。
「たぶん大丈夫だと思いますよ。
あんまり綺麗なとこじゃないですけど、それで良いなら案内します」
「うん、私は大丈夫。ヒマリも良い?」
他の隊員達は屋根があるなら上等くらいの人達なので意見は聞かない。
ヒマリさえ問題がないなら、さっさと宿に入ってしまいたい。
目立ちたくないからね。
「あ、はい。あたしも大丈夫です」
「よし、それじゃあ案内よろしく」
そうして案内されたのは、木造の三階建ての建物。
一階が食堂になっていて、二階と三階が客室になっているこの世界ではよくあるタイプの宿だ。
幸いなことに部屋は余裕で空いていたので、四人部屋を新たに二部屋借りることが出来た。
私とヒマリ、カレンの女部屋に、ヒギンス、アレク、ジェイクの男部屋ね。




