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「ロン!ロォン!どこ行ってたの?!」
現れるなりいきなりミーティアが、今まで姿の見えなかったロンに向けて怒鳴る。そばには萎れた花のように肩を落とすコスモがいた。
「あいつ!あいつが出てきた!」
凄まじい剣幕で指を壇上へ突き刺す。そこには歯を見せて会場に笑顔を振りまく恰幅の良いセーラの堂々たる姿があった。
「行くわよ!ロンあいつをぶっ飛ばしてやらなくちゃ!」
「ええっ待ってください!まだもう少し…」
コスモはロンの独り言に気づいてはっと顔を上げ近くを見渡す。
「ロンさん……おかえり……………今、ミーティア様はここに?」
「はい、この鉄の箱の上に座ってますよ」
それを聞くとコスモは見えていないだろうに、その箱へ頭を下げた。
「ごめんなさい!私の…力不足で…約束が守れなくて」
「いいの」コスモの一部始終を見ていたミーティアは彼女の頭を撫でる。手にはなんの感触もない、もちろんコスモの頭も特に違和感はない。
だがゆっくり撫で続けた。
「すごかったよ。コスモ。だから大丈夫、大丈夫だから。」
聞こえぬ言葉で、見えぬ指先でミーティアは彼女を慰める。
ロンはハッとした。
ミーティアの骨ばった手や顔が少しふっくらとして見えた。見間違えかとぱちくりと目を動かしたら、彼女の姿はまたいつものような辛そうなもの映った。
「ロン!わかってるよね!?」
威勢を取り戻したミーティアは、金庫から飛び降りる。(重力の影響は受けていないのだが)
拳を握りロンの胸板にピタリとつけた。
「行くよ!」
「ミーティア様、ですからもう少し…」
ロンには何か予定かあるのかこの期に及んで行動を渋る。及び腰なロンの様子に業を煮やしたミーティアは叫ぶ。
「いま、あいつを止めてコスモを助けるの!」
個人的な恨みは、他者の悔しさによって強さを増していた。
「助けるってどう…」
言いかけたときには意識は遠くへと旅立ち、ミーティアが体の操縦を受け持つ。くねくねするような"カマムーブ"ではなく、床にめり込むほど強い足踏みであの"雄牛"に近づいていく。
人垣をかき分けて近づいてくる男がいるのに壇上のセーラは気づかなかった。だから――
「え、ではいよいよまず一品目!」
ドォン!
銅鑼のような音とともに男が飛び乗ってくる。急な来訪者を訝しむセーラ。埃が舞い、会場に静寂が訪れる。
「ええと、お客様?」
セーラは持ち前の度胸ですぐさま愛想笑いを作り出し目の端で周りのものに合図を送る。
しばらく男は微動だにしなかった。
「…?」
会場の誰かが口を開きかけたとき、
「セーラ!」
地鳴りのような声で男は怒鳴った。




