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ロウソクの灯る倉庫スペースの中。陽気な鼻歌を歌いながら、みんなのマム、セーラがのしのしやってくる。ここに準備されているのは、彼女がかき集めた故ミーティアの衣装の一部。
「さァて、今日も親父どもに売りつけましょうかね」
ハタキで埃を払い、ほつれがないかチェックする。
「はァ、最高…」
セーラは塩枯れた声をうっとりと鳴らして、恋するようなため息をついた。
「まったく、さすがよね私の元ご主人様は」誰に話しかけるわけでもなくセーラはニコニコと微笑む。「私にこんな宝の山を残してくれたんだから」
古着など蚤の市でも開かなければまず売れることはないが、あのミーティアの着用済みの衣服となると別である。
今まで魔女の品物、と言って彼女の身の回りにあった日用品を売っていたが、それはただ単にオカルト的な人気があっただけで、まともな神経の持ち主は買っていかなかった。そこで切り替えた結果がミーティアのクローゼット漁り。大当たりである。オカルトマニアよりもさらに羽振りのいい好事家たちが高値で買い取ってくれる。
本人はもう故人だ誰にも咎められることはない。
「それに、あの子はいつも私にいろいろくれてたからね、生きてたらこれもくれてたでしょ」
勝手な解釈である。
城の誰も触りたがらないものを、神や霊など全く気にしないセーラが一手に引き取ったのだ。この倉庫スペースにひしめくミーティアの品々がそれを物語っている。
「でもセーラさん、なにか不吉な感じも…」
たまにそう言って忠告をする同僚などいたが、セーラはこれまでちっとも不安など感じていない。むしろ他の侍女たちがためらってくれるおかげで、「ミーティア様のご遺品ですから」と彼女を慕っていた風に振る舞いすべて貰い受けることができた。
国家の逆賊の品物など国はなんとも思っていないらしく簡単に許可も出た。順風満帆である。
「ふふふ」セーラは棚に置かれていた小さな銀の指輪を手に取った。
「いつか換金しようと思ってたけど、ここまで跳ね上がると笑いが止まらないわ」
それはミーティアが雨乞いの儀式に駆り出された日のことである。その日はカンカン照りで、儀式を行うのも一苦労であった。水を呼ぶためにミーティア自ら厚着をして山の神に祈っていたが、これがやはり体力的に相当堪えたらしく、祈祷が終わるとその場に倒れてしまった。神事なので皆が近づけない中、一緒に来ていたセーラが飛び出し、ミーティアを日陰へと連れて行ったのである。
ミーティアは感激して、自分が故郷から持ってきたこの銀の指輪を彼女に与えた。即物的だとも思ったが、やはりなにか形で自分を支えてくれる彼女に親愛を示したかった。セーラは大喜びでそれをいただく。
それからなかなか指にはめないので、ミーティアはどうしてか尋ねたこともあった。
「寵愛は密やかに、慎ましやかな方がいいのです。他のものに見せつけるなんて下品なことはミーティア様に仕えるものとして恥ずべき行為ですわ」
ミーティアはますます喜んだ。
だがその実、自分ではめてしまうと価値が下がることをセーラは知っていたのである。




