1-33
はるばる遠国からやってきた小娘に取り入るなんて赤子の手をひねるよりも簡単。遠くの街で価値の低いものでも、こちらの土地では希少性が上がる。それにブランド力と身に着けていたものの箔が付く。とどめに曰くつきになってくれたものだからその価値はもう測り知れない。高騰に次ぐ高騰、もっと言うとやはり直接のお召し物の方がありがたがられる。
セーラは完全にこの闇市を牛耳っていた。高笑いをしてどこかへフラフラと行ってしまった。
「…く、くゥゥ!!」
彼女の去った後に壁や床やいろんなところを殴りかかる。しかし、ミーティアはすり抜けてしまうので、その硬く握られた拳は手ごたえも何もなくただただ空を切るだけであった。
本当に信頼していたのだ。愛想がよく、体も丈夫で、自分の不安な王宮での生活を支えてくれる良き理解者だと信じていた。怒れるあまりセーラに取り付いてみようともした、だが結局それもダメで、ただただ優越感による笑顔を見せつけられただけであった。首を絞めるようなそぶりもしたし、相手に害をなそうと近くで暴れまわったが、セーラにも微塵も見えていなかった。
ミーティアはろうそくを見つめる。ゆらゆらと揺れるか細い炎。
(これぐらい倒れてよ…!)
ミーティアは燭台に手を伸ばす。
だがその動きもむなしく、ミーティアの腕は台座をすり抜けた。
苦い思いを強くかみしめてミーティアはそのままふわりと会場の方へ戻っていった。締め切った部屋に風が吹いたような気がした。だがそれも、きっと思い過ごしだろう。自分の無力さだけが残った。
「では、515!515以上は出ませんので89番の方が落札です!」
「…いよォし!」
並みいるコレクターたちを蹴散らして、コスモが本日4個目の落札をする。一品一品に全力投球をしているので周りの他の商人たちも若干引き気味だったのには気づかなかった。あっという間に袋が一つ二つと空になっていくが、そんなことはもはやどうでもいい。
(ミーティア様の名誉のために…!)
ランランと目を輝かせ、安全剃刀を手に入れた。普通の剃刀が銀貨10~20枚で買えるのでギャリオン金貨515枚は法外な値段である。
(今のは危なかった…ムダ毛処理用の剃刀なんてそんな価値ないと思ったら、まさか500出す奴がいるなんて。とんでもないヘンタイがいたもんだわ)
全力で落札している彼女こそそれに近い存在に見られているのだが、それにも気づいてはいない。
「それにしても…ロンさんはどこ行ったんだろう?」
戦利品をきれいにまとめて自分用の金庫に預けて次の出品を待つ。普通の商人であれば、荷物の保管と運ぶ役の者を連れてきているのだがこれは極秘のマーケットの上、コスモの店は人を雇う余裕がない。一人で安全を確保しなくてはいけなかった。コスモの金庫は中に鉄板の仕切りが入っており一つ一つの品物を傷つけることなく分けてしまうことができる。丁寧に緩衝材を入れてその上に優しく、愛おしむように置くのだ。さらに、オークションが白熱しているうちに第三者に盗まれないようにすぐそばに置いておきたいコスモが考え付いたのが、このキャスターである。金庫の足元、下辺に二つ。鉄の軸が金庫の下部を貫いて両輪に渡されている。運ぶ際は少し傾けて歩くのと一緒に転がせばいいという寸法である。お陰でコスモの真横には鉄の四角い箱が常にあった。
本当ならこの重い金庫の持ち運びを手伝ってもらいたかったのだが、先ほどからロンの姿が見えない。今まさに復讐の最中かもわからないのでこれから捜して邪魔をすることは避けたいところだ。
「私は私のできることやらなくちゃね」
「コスモ、あなたは私に協力してくれてるんだよね…」
鉄の箱に腰を掛けたミーティアの誰にも聞こえないつぶやき。




