第15話:第二次革命未遂事件(6)
穏やかな街並みから抜け出して再び襲撃があった場所に戻ったが、相変わらず、襲撃を受けた街並みは炎に包まれていた。
むしろ、時間が経ったことで燃える範囲が広がり、より一層熱を増したように感じる。
「急がないと」
往復の道を走り続けたことですでにかなり疲れていたが、今は疲れているからと立ち止まっている暇ではない。
空を飛ぶ竜種の姿が先ほどよりもハッキリと見えるようになっているからだ。
横腹が痛むが、そんなことはどうでもいい。
一刻も早くレオとカレンの元に行き、加勢してゴブリンとの戦闘を終わらせなければ−
元いた場所、ゴブリンと遭遇した場所に到着すると、二人の姿はその場に無かった。ついでに言えばゴブリンもだ。
ゴブリンを倒し終えて移動したのか?
炎に包まれ、ゴブリンに襲われた人々の死体が転がる街並み。そこからは、人の気というものが完全に消え去っていた。
多分、この場に倒れている人たちがこのあたりの住人全てというわけでは無いだろう。
もしそうなら、生き延びた人たちは既に逃げ切っている事になる。
「よかった…」
いや、よくない。早くレオとカレンと合流してこの場所から離れないと。
レオによる瓦礫の投擲で殺されたゴブリンが転がっている方向へ歩き進めると、所々で防具を身につけたゴブリンが息絶えていて、その近くには剣やら棍棒やらの武器が転がっていた。
……薄っすらとだけど、剣同士がぶつかるような金属音が聞こえる。
ゴブリンが使っていたものと思われる剣を一本拾い、音の聞こえる方へと歩いていく。
剣戟の音が大きくなるにつれ、人の声が聞こえてきた。「うらぁ!」とか「ハッ!」とか、その程度のものではあったが、それらの声がレオやカレンのものであることは容易に分かった。
剣を握る手に力を込め、突き当たりで民家の門を曲がる。
「死ね!」
丁度、レオが吠えながらラスト一体のゴブリンの首を刎ねたところだった。
「死ね!死ね!死ね!」
胴からずり落ちたゴブリンの首をレオは執拗に滅多刺しにする。
何かゴブリンに対して強い恨みでもあるのか、それとも単純な嫌悪感なのか。レオの行動に疑問を持ったが、レオに近づくにつれてその表情が歓喜の笑みに染まっている事に気がついた。
その様子を、カレンも少し離れた位置から複雑な表情で見ている。
「お前、何してんだよ」
ゴブリンは確かに魔物で、魔物は人類の共通敵だ。けど、レオによる仕打ちはあまりにも惨たらしくて気分がいいものでは無かった。
だからレオを止める意味合いでも俺はレオに話しかけた。
「…見てわかるだろ」
レオはその顔から笑みを消し、イラついた様子で言った。
「見てわからねぇから聞いてんだよ」
「ゴブリンを殺してんだよ」
「そこまでやる必要は無いだろ」
「なんだお前、こいつらの仲間か?」
「は?なんでそうなるんだ!」
「否定しないのか」
「否定するに決まってるだろ」
「なら邪魔すんな」
既にグチャグチャになっているゴブリンの頭をなおも攻撃しようと、レオが剣を振り上げる。
よく見ると、レオの持つ剣は門出の儀の衣装として用意された金色の剣ではなく、レオが元々持っていた特徴の無い長剣だった。
さらに言えば、レオは身につけていた衣装の鎧を脱ぎ捨てていて、防具など全くつけていない状態だ。
いや、レオの剣や服装なんて今はどうでもいい。それよりも−
「お前らここから離れるぞ!」
焦りからか、言葉が少し走り気味になり、不足する。
しまったな、説明が無さすぎてこいつらを動かすに至らないぞ。
「このままじゃ危ない」
そう言いながら俺は街の外側を、竜種が飛んできていた方角を指差す。
いくら脳筋二人組とはいえ、竜種の姿を見れば今いる場所がどれだけ危険かわかるだろう。
竜種の危険度は国王直々の座学で教えられているからな。
「何も無いじゃない」
不思議そうにカレンが言う。
何も無い?そんなわけが無いだろ。俺は確かに竜種の姿を見たんだ。
あんな巨体が突然姿を消すはずが無い。
絶対にカレンが見落としただけだ。
自分が指差す方を見る。
「あ、あれ?」
その先に、竜種の姿は見えなくなっていた。
確かに、少し前までは確かに姿があったのに、空を飛んでいた竜種は忽然とその姿を消していた。
慌てて周りを見回す。
もしかしたら飛行進路が変わっただけかもしれないと思ったからだ。
けど、
「……居ない」
周りを見回したところで、空のどこにも竜種の姿は無かった。
「お前、マジで何がしたいんだよ」
レオが半ギレになり、俺へ詰め寄って胸ぐらを掴んでくる。
その際、胸部に力強くレオの拳が当たり、普通に痛い。
「何がしたいって、俺はお前たちを助けに来たんだ」
胸ぐらを掴まれ、少し持ち上げられていることで首が閉まり、苦しかった。けど、苦しいながらも俺はなんとか言った。お前を邪魔しに来たのではなく、お前たちを助けに来たのだと。
俺の苦しさをこらえながらの言葉をレオは鼻で笑った。
「助ける?お前が俺たちをか?笑わせんなよ」
……突然、レオの表情が怒りに染まった。
鋭い眼光は俺を射殺しそうなほどで、到底、仲間に向けるべきものでは無かった。
「俺よりも弱いくせに守るとかほざくんじゃねぇ」
レオの声は怒りのあまり震えている。
あー。なるほど。そういうことか。
こいつが何で怒っているのか分かった。ものすごく単純だ。
レオは別にゴブリンを痛めつけるのを邪魔されたから怒っているわけでは無い。こいつはただ、自分が守るべき対象だと認識していた相手に守ると言われ、見下されているような気持ちになったから怒っているのだ。
どうして俺にそんなことがわかるかって?それこそ単純で簡単な話だろ。
ついさっき、俺がポーラにイラついた理由も似たようなものだからだ。
「その…ごめんな」
さっさと謝ってしまい、この場を収めるのが得策だろうと思った。
けど、俺に謝られたレオは頬をひくつかせてさらに激昂した。
「お前が!俺よりも弱いお前が!俺を!見下すな!」
………は?
「別に見下してねぇだろ」
「いいや、見下してるね。お前は俺を「二人とも!」」
レオの言葉を遮るように、カレンの焦るような声が聞こえた。
「邪魔すんなよカレン」
「邪魔じゃ無いわ。レオ、すぐにケイタを離して」
「何でだよ」
「何でって…あなた、見えていないの?」
信じられないと言った様子で、カレンは視線をわざとらしく動かす。
俺はレオに胸ぐらを掴まれたまま、レオは俺の胸ぐらを掴んだまま。カレンを倣って彼女が視線を向けた方向を見る。
「…何だよそれ」
思わず、声が溢れた。
「ちょうどいい。イラついてたんだ」
犬歯をチラつかせ、レオが獰猛に笑う。
ついでに俺の胸ぐらを掴む手を解いた。
「…どうする?」
カレンが確認するようにレオに聞く。
目の前に、絶望が広がっていた。
「剣20、弓40、徒手40、防具のみ1、盾30。ゴブリン計131匹」
目測でレオが総数を数える。その声の調子はどこか弾んでいる。
「どうするかは決まってる。討伐だ」
迎撃ではなく、討伐だとレオは言った。




