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世界再編と犠牲の勇者譚  作者: 人生依存
或る魔法使いの物語 第8章 楔国編(後編)

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第92話:変化


「さぁ。今日の予定だが、特訓はケイタとポーラの予定だ。レオとカレンは街に必需品の買い出しに出かけてくれ」


「何を買ってくればいい?」


「家中を回ってそれを確認してから買い物に行くのが今日のお前の役割だろ……」


 呆れたように言うと、カローンナはシロに淹れてもらったコーヒーを口に含んだ。

 俺もシロにコーヒーを貰ったが、まぁ美味しい。

 いつもインスタントの不味いコーヒーばかりを飲んでいた身としてはどうやって淹れたのかが気になるところだ。


「お会計はいつも通りでいいの?」


「ああ。いつも通り月末請求で頼んでおいてくれ」


 ポーラとカレンの作った朝食を皆で囲んで食べた後、俺たちは皆、シロの淹れたコーヒーを飲みながら今日の予定を確認した。

 毎日のルーティーンみたいなものだ。


 毎朝6時に起きて屋敷中の掃除を2時間かけてやり、それからカレンとポーラが朝食作り、俺とレオが庭の掃除。

 朝食が出来上がり次第に広いリビングへ集まり、皆で揃ってそれを食べる。

 食べ終えたらシロの淹れたコーヒーを飲みながら、皆で一日の予定を確認する。

 そこからは人によって特訓だったり買い出しだったり、それぞれがやるべきことをやる。

 と、いうのが俺たちのここ最近ずっとの毎日のスケジュールだった。


 カローンナの部下3人が命を落とし、生屍体アンデッド山羊男バフォメット初代魔王オーディンとの激しい戦いがあったあのバベルの攻略から、もう4ヶ月近くが経つ。

 あの不明建造物から抜け出した日、俺はアビゲイル・キャンベルという金髪碧眼の女性に呼び出され、彼女と密会をした。

 その時、彼女が魔王軍幹部であるピース・ライアーと同一人物であることを知り、さらには、カローンナが9年前に革命未遂事件を引き起こしたという魔王ノクターンであることを知らされた。


 俺は信じられなくて、ピースと別れてすぐにカローンナの元へ確認に行ったのだが、カローンナは自分が魔王ノクターンであることを肯定した。

 そして、カローンナは俺に話を持ちかけた。

 以前にも持ちかけられたことのある話だったが、彼女が元勇者であり、元魔王であるとわかった今、その話は孕む意味が大きく変わった。

 カローンナは俺に聞いた。

 魔王軍に負けないための術を、自分の元で学ばないかと。

 自分の元で特訓して、強くならないかと。


 当然、俺はその場でカローンナの問いに答えることはしなかった。

 当たり前だ。だって、俺は魔法使い役でしかなく、仲間たちの勇者役リーダーではないのだから、仲間たちの今後を背負って勝手に決断などしていいはずがない。

 

 だから、俺は翌日にレオたち3人を集めて話をした。

 1月23日。今からおよそ7ヶ月後、に魔王軍は再編の為に人類に総攻撃を仕掛けるのだと。

 故に、それまでに俺たちは魔王の居城に乗り込み、魔王を倒すことで魔王軍の総攻撃を止める必要があるのだと。

 そのためにも、手段を選ばずにすぐにでも強くならなければいけないのだと。

 

 ポーラとカレンは俺の話をすんなりと受け入れてくれて、楔国ここに残ってカローンナに鍛えてもらおうと言ってくれた。

 だが、レオは頑固だった。

 俺はカローンナを未だ信用していない。

 俺は自分だけで強くなれる。

 俺が強くなればお前たちが強くなる必要はない。

 そう言い張った。


 だから俺はレオに餌を与えた。


「カローンナは元聖剣保持者だ。きっと、疑似聖剣の使い方を教えてくれるはずだぞ」


 根拠の所在が不明な話だったが、レオは少しだけ悩んだ後、渋々といった様子で頷いた。


「なら、俺が疑剣ギケンを思うように使えるようになるまでだ。それまでなら、アイツの元で特訓してもいい」


 とまぁ、そんな感じの流れで俺たちはカローンナに教えを請うこととなった。

 だから、バベル攻略から4ヶ月近く経つ今も、俺たちは未だに楔国トリガーで生活をしている。


「買い出し組はまぁ、買い出しが終わって買ってきたものを片付けたら後は好きにしたらいい。レオにはもう教えることはすべて教えてあるから、後は慣れだな。ただ、街の外には何があっても出るなよ?」


「……わかってる」


「カレンはそうだな。手が空いたら私が手合わせをしてやる」


「ありがとうございます」


 静かに感謝を述べるカレンと違い、レオはコーヒーカップに手も伸ばさずに悔しそうに歯噛みする。

 その理由は、疑似聖剣だった。


 バベル攻略以来、レオは一度として疑似聖剣を使えていない。

 どうやら疑似聖剣には使用の為の詠唱というものが必要らしく、詠唱を行うとロックが外れて疑似聖剣が使えるようになるらしい。

 ただ、詠唱を行えば誰でも疑似聖剣が使えるようになるわけではないようで、例えばレオの疑似聖剣の場合は元となった聖剣のエクスカリバーのせいもあり、何かに対する明確な強い願いがなければ使うことはできないという。

 レオ自身は強い意志を持って疑似聖剣の詠唱を行っているらしいが、疑似聖剣はそんなレオの意志をあざ笑うように全くと言っていいほど起動しない。


 カローンナ曰く、エクスカリバーの疑似聖剣を使うには強い願いが第一に必要で、第二に力を使うイメージが必要らしい。

 つまり、何かを強く願い、それを叶える強烈なイメージを持つことができれば疑似聖剣を使うことができるらしい。

 だが、レオはこのイメージの部分で苦戦しているようで、全くもって疑似聖剣を思うように使えずにいる。

 レオの疑似聖剣のイメージはバベルで見た光の奔流そのもので、あの時の情景を思い浮かべれば容易に疑似聖剣を扱えそうな物なのだが、上手くいかない。


 まるでそっぽを向いているように、疑似聖剣はレオに反応をしてくれない。

 そんなレオにとっての進展のない時期が、4ヶ月近くも続いている。

 レオが足踏みを続けるその間にも、カレンはどんどん強くなって行き、俺もポーラも以前と比べ物にならないほどには戦えるようになっている。


 周りが成長する中での自分だけの足踏み。

 きっと、今までそんな体験はしたことがなかったのだろう。

 だからレオは焦っていて、その焦りが原因となってまた足踏みをしてしまう。


 俺はそのレオの気持ちが痛いほどわかる。

 周りの奴らが成長する中、自分だけ成長できない状況の辛さがよくわかる。

 わかるからこそ、レオを慰めてやりたいと思うが、下手に慰めれば傷ついてしまうのがレオだ。

 だから、そっとしておくことしか俺にはできない。


「よし。じゃあ今日も1日頑張れよ!」


 パンッと、1つ大きくカローンナが手を叩く。

 その音を合図に、俺たちは席を立った。


 食器をキッチンにまで運び、レオとカレンに洗い物を頼んでポーラと2人で戦闘訓練の準備をしに自室へと向かう。


「レオさん。辛そうですね」


 足元を眺めながら、ポーラが心配な様子でポツリと言った。


「どうにかしてやりたいけど、俺たちにはどうにもできない」


「そう……ですよね」


「だからせめて、魔王軍との戦いでアイツの足を引っ張らないよう、俺たちは今のうちにできるだけ強くなっとかないと」


「そう……ですよね」


 納得したように、けれどどこかやりきれないと言った様子で、ポーラは頷く。

 その頷きに俺は頷きを重ねた。


 部屋の前で手を振り合って別れると、俺はすぐに着替えた。

 上下のスパッツに上から短パンを穿き、仕上げにローブを羽織ったいつものスタイルだ。

 腰には支給品の短剣をくくりつけ、背にはレオに貰った支給品の長剣を背負う。

 いつもならここに爆弾やら火炎瓶やらが入った荷物鞄リュックサックを背負って準備完了って所だが、今日はカローンナに稽古をつけてもらう日だ。

 さすがに爆弾や火炎瓶なんて危険物は使えない。

 だから、腰と背にそれぞれ異なる長さの剣をくくりつけて俺の準備は終わりだった。


「あ、ケイタくん」


 ちょうどポーラも準備が終わった所のようで、部屋から出た所でポーラと鉢合わせした。

 そのまま、俺たちは肩を並べて屋敷の外へと向かう。

 

「もうすっかり秋ですね」


 手入れされた背丈の低い草花の実っていない木々を見て、ポーラは感慨深くいう。

 きっと、それだけの間この場所で過ごしてきたという、その実感の意味も込めているのだろう。


「裏庭の銀杏イチョウの木も綺麗な黄色になってたしな」


「そこは金って言うんですよ。その方が綺麗じゃないですか」


「確かに」


 くだらない会話をしていると、遅れてカローンナが屋敷から出てきた。

 別段動きやすいというわけではない、タイトなパンツに真っ白なシャツを身につけたいつも通りの服装だ。

 手には厚い刃の厳つい大剣を持っている。


「お前たち、私より先に外に出てくるなんてやる気満々じゃないか」


 感心感心と言葉を零し、カローンナは嬉しそうに笑う。


「で、今日はどっちから殺る?」


 俺とポーラは顔を見合わせ、頷いた。


「俺からだ」


「私からで」


 2人の声が重なる。


「なら2人まとめてかかってこい」


 大剣を抜き取り、鞘を放り投げてカローンナは不敵に笑った。

 次の瞬間、カローンナの姿が目の前から消えて10メートルほど距離を置いた場所にその姿が現れる。

 もうすっかり見慣れた、ウィークのやつによく似た瞬間移動だ。


「じゃあ……始めだ!」


 ドスの効いたカローンナの声を合図に俺は背の長剣を抜き構え、ポーラは腕の革製収納袋ホルスターから短剣を2本抜き取り、左右の手に握り低く構えた。

 俺たちが戦闘準備に入ったのを確認し、カローンナの雰囲気がガラリと変わった。

 少しでも気を抜けば隙を突いて殺しにかかってきそうな、そんな雰囲気だ。


 殺気全開のカローンナがいつ襲ってきてもいいようにと構えていると、再びカローンナの姿が消えた。

 そう思った瞬間にはポーラの目の前にその姿があり、大剣を大ぶりで振りかぶっていた。


「させるか!」


 カローンナがその場所に現れると予測していたポーラは身をクラウチングスタートのようにさらに低くし、同じようにカローンナの現れる場所を予測していた俺が、少し前までポーラの頭があった場所を目掛けて思い切り横薙ぎで両刃の長剣を振るった。


 俺の振るった剣はまっすぐにカローンナの腹へと迫って行き、そのままカローンナの胴を真っ二つに……することはなかった。

 遠慮なく剣を振り抜いた腕にカローンナを斬った感覚は伝って来ず、代わりに俺の背後で空気が僅かに動く音がした。

 カローンナが瞬間移動をした証拠だ。


 ただ、俺は焦らない。

 もう慣れた。

 

 すぐに地面を蹴り、前方に飛んで前転で受け身を取る。

 そんな俺の下を潜るようにポーラが一歩を振り向きながら踏み出し、2本の短剣をカローンナの首にめがけて突きつけた。


 再び、空を切るような重い音が僅かに鳴り、カローンナは姿を消す。

 今度は受け身を取って立ち上がった俺のすぐ前に姿を現した。

 俺は、それまでもを読んでいた。

 立ち上がりざまに左手で腰の短剣を抜き取り、逆手のまま振り抜く。


 またまた空を切る音がなり、距離を置いた場所にカローンナが姿を表す。


「本当、聖剣の力ってのは厄介だな」


「力の残滓だがな」


 カローンナの姿が消え、目の前に現れた。

 すぐに短剣を仕舞い、振り下ろされた大剣を長剣で受け止める。


 この数ヶ月でカローンナの瞬間移動に俺はかなり反応できるようになった。

 カローンナはかつて聖剣フラガラッハを保持していたとの話だったが、彼女の瞬間移動はフラガラッハの力だそうだ。

 その能力は空間を操るだなんて言われているが、実際の所は指定空間の圧縮と拡張。

 カローンナは、その力を使って瞬間移動をしていた。

 

 目の前の空間を圧縮し、背後の空間を拡張する。

 その連続で、擬似的に瞬間移動をして見せていた。

 だからカローンナの瞬間移動は直線上の瞬間移動しかできない。

 背後に回る際は横方向、縦方向、再び横方向といった具合に何段階にも瞬間移動を重ねる必要が有る。


 ウィークの瞬間移動がカローンナの瞬間移動と似ているのは、きっとそういうことなのだろう。

 カローンナが失ったという聖剣フラガラッハを、ウィークが持っているということなのだろう。

 あいつが山羊男バフォメットを殴った時に真四角に殴った部分が抉られたのもそれで説明がつく。

 あの時、ウィークに殴られた空間は圧縮されたのだ。

 だから不自然な形で抉られた。

 きっとそういうことだ。


「ほらほら。そんなものなのか? そんなんじゃあ魔王軍に殺されるだけだぞ?」


 目を見開き、がなるように言いながらカローンナは大剣を振るう手により一層の力を込める。

 だが、耐えられないほどじゃあなかった。


「ケイタくん! 避けて!」


 ポーラの声が飛んできて、俺は手に力を込めるのをやめ、そのまま振り下ろされるカローンナの腕をくぐって背後に回った。

 すると、つい一瞬前まで俺のいた位置に、ポーラの短剣が飛んでくる。


 カローンナはそれを避けるために横方向へと瞬間移動をした。

 俺の頭上を、ポーラの投げた短剣が通り過ぎる。

 その間に、ポーラは新たに短剣を革製収納袋ホルスターから抜き取って瞬間移動をしたカローンナの方向へと投擲した。


 カローンナはそれを避け、ポーラの目の前へと瞬間移動する。

 前までのポーラならすぐ前に現れたカローンナに怯み、尻もちをついていたはずだが、ポーラはもう前までのポーラじゃない。


 ポーラは目の前にカローンナが現れたのを確認し、腕から伸びる細い鉄製伸縮紐ワイヤーを思い切り引っ張った。

 すると、その先にくくりつけられた短剣たちが進路を変えてポーラの元へと戻って来る。


 舞い戻ってきた短剣たちから逃れるためにカローンナはしゃがむが、ポーラはワイヤーを振り回し、短剣の進路を変える。


「いい動きだ」


 カローンナは嬉しそうに言うと、すぐ目の前の空間を小さく圧縮し、ワイヤーを断ち切った。

 操り手を失った短剣たちが宙を舞う。

 その中、カローンナは力強く地面を踏みしめて、ポーラの華奢な体に容赦なく大剣の腹を叩きつけた。


「ポーラ!」


 吹っ飛び、植木に叩きつけられるポーラに声をかける。


「気をとられるなアホ」


 それ自体が隙だった。

 ポーラに声をかけた俺の背後にカローンナは姿を現し、俺の背を思い切り蹴飛ばした。

 蹴り自体はさほど力が強くなかったが、背後の空間が拡張され続け、俺はあっさりと吹っ飛んでしまい、ポーラにのしかかるように植木へと突っ込んでしまう。


 その際に、俺とポーラは互いのデコ同士を強く打ちつけ、2人揃って仲良く気絶した。


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