殖民計画
「つまり、あの宇宙船に、こちらから最初の殖民のためのデータを与えることができる、って話だろう?」
学生の言葉に友人は大きく頷いた。
頷いて、目を細める。
ニヤリと皮肉な笑みが浮かんだ。
「何を考えているんだ? 受精卵の遺伝子に変更を加えて、例えば女しか生まれないようにさせよう、なんて与太を考えているんじゃないだろうな? よせよせ、そんなことできても、惑星に女が溢れる頃は、俺たち生きちゃいないぜ!」
混ぜっ返しに学生は手を振って否定する。
「そんなんじゃないよ! なあ、聞いてくれ。例えば昭和時代の極めて詳細なデータがあれば……例えば雑誌だとか、当時の報道とか、とにかく一切合財のデータが揃っていれば、殖民計画には充分なんだろう?」
友人は目を天井に向け、一瞬ふっと考え込む表情を作る。唇が突き出し「ふむ」と頷いた。
「そりゃあ、な! しかし、そんなデータの集積、どこにある? 用意できているのか」
学生は自分の研究が、指導教授によって拒否された経緯を話した。聞いているうち、友人の目が爛々と輝きだした。
「面白い! つまりは、当時の不良の生態とか、言葉遣いとか、どんなファッションだったのかとか、そんなのが揃っている訳だな?」
学生が同意すると、友人はカメラに向かって身を乗り出した。
「是非、恒星間宇宙船計画に、その資料を提出すべきだ! 俺に任せろ! 腕のいいハッカーを知っているから、お前のデータが、どんなことがあっても確実に採用されるよう、細工してくれる。面白い……〝ツッパリ〟〝ヤンキー〟の惑星ってわけだ!」
学生は自分のデータを友人宛に送信した。データを向こうのモニターで確認した友人は「くつくつ」と引き攣るような笑い声を上げた。
「こいつは楽しみだ。自分の目で結果を確認できないのが残念だよ……。いや、待て! 俺が理論を完成させ、ワープ航法を搭載した宇宙船を実現させたら、俺自身で乗り組んで、タイム・ジャンプで結果を見届けることができるかもしれん。うーむ、俄然ファイトが沸々と沸いてきたぞ!」
ぱしん、と友人は手を打ち合わせた。友人は悪魔のような笑みを浮かべたまま、夢中な目つきをして接続を切った。
映話が跡絶えると、学生は「あーあ!」と両腕を突き上げ、伸びをした。
これで自分の研究ファイルは片付いた。
それきり、学生は頭の中から自分の研究ファイルのことを追い出し、教授に指示された課題に全力を傾注した。
後のことは知らない。知りたくもない。