終:魔女の独白
恋の飢えに苦しむ同胞の少女は、長い時を生きる太古の魔女に問う。
貴女も恋を、この歪で醜い恋をしたのかと。
貴女は…愛したのか、と。
この苦しみを味わったのならば、あなたはなぜ…そうも平然としていられるのかと。
魔女は、ケロりとした顔で答えた。
「え?うちは喰うたよ。やって、ウチは...」
魔女は、その先は答えず。
ただ、静かに笑った。
それは酷く、悲しげで
それは酷く、美しい笑みだった。
◆
うちか?うちは喰うたよ。
ごっつ好いた、唯一無二の愛しいあの人を。
あぁ、あの瞬間は忘れられへんなぁ。
あの人を抱きしめて、キスをして...あの人を腕の中で味わうのは何よりも幸福な時間やった。
何より、あの人の味はこの世のものとも思えぬ程に甘美な味やった。
あぁ、また...味わいたいもんやなぁ。
ん?辛くなかったのかって?
まぁ...でも、これがうちの選んだ道や。
これがうちの愛し方やねん。
うちは、魔女はこの愛し方しか知らん。
魔女は、この愛し方しかできんのや。
恋をして、愛を知ったならば...どんなに苦しくても、辛くても、愛すると決めたからにはその愛し方を貫き通すべきなんや。
…つっても、昔のうちもなあの子みたいに悩んだで。
どうして、うちらの愛し方はこうも歪なんだと。
でもな、うちは出逢ってしまったから...。
知ってしまったから...。
あの人の声を、温もりを。
何より...あの人の優しさを。
あの人を知れば知るほどに愛おしくて仕方が無くなった。愛せずにはいられなかったんや。
それがどれほど残酷で歪で醜い愛だとしても。
後悔はしてへん。
後悔なんかしちゃいけないんや。
うちはただ、自分の愛を貫いた。
それだけなんや。
あぁ...でも、またあの人に会いたいなぁ。
あの人に触れて、抱きしめて...
もう一度、あの人を...
今度は、あの人と...
普通の恋をしてみたいものやなぁ。
◆◇◆
番を取り込んだ魔女は次第に狂ってゆく。
番を得られない魔女もまた次第に狂ってゆく。
魔女は、愛を知らねば生きられない。
魔女は、恋をしなければ生きられない。
けれど、愛を知り恋をした魔女はそれ以上の苦しみを味わい衰弱死する。
求めても、求めなくても...魔女は狂い死ぬ運命にある。美しくも儚い存在である。
それでも、魔女は求めてしまうのだ。
自分の唯一を。
魂の伴侶を。
恋の味を知ったかつての魔女は、愛した人の血肉を貪り喰らった。
しかし、他の魔女がするように魂までも呑み込むことはしなかった。
生きて、また逢いたいと思ったから。
せめて、魂まで縛り付けることはしたくないと思ったから。
今はいない愛おしい唯一との再会を祈って。
太古の時代から生きる、魔女は今日も1人嗤う。
遂に、同胞も潰えた。
彼女は最初で最後の魔女。
妖艶で美しい魔女は嗤う。
己の番がまたこの世界に生まれるのを願って。
いつ訪れるともしれない時を待ち続けている。
もし、番に出会えたとしたなら...。
その時、彼女はまた恋をするだろう。
否。
彼女は今も恋をしている。
唯一、自分を受けいれてくれた愛おしいあの人を今も思い続けている。
だからこそ、また愛おしい唯一の番がこの世界に戻ってくるのを待っているのだ。
魔女は、嘲笑う。
滑稽な、己にか?
馬鹿な同胞にか?
かつての自分にか?
ーー恋をした魔女は、笑う。
この身がが朽ち果てるその時まで…
いつまでも、愛おしい人を待ち続けている。
最後までお読み頂きありがとうございました!




