↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の恋  作者: 伊勢
PR
1/4

前編


元々短編予定が長くなってしまいました…

完結済ですので、最後まで楽しんで貰えたら嬉しいです!

よろしくお願いします。




ガタンッ!!


稲穂色のフワフワとした髪、薄ら雀斑の散る顔。

ヒョロリと高く細い体は、意外にも男性らしくしっかりと筋肉が着いていた。

大好きな人の、大好きな身体。

今まで指1本触れることのなかった彼を、私は今押し倒している。


驚きに目を見開いているであろう彼の顔を、私は見ることが出来なかった。

何より、彼の瞳を隠す長い前髪が今は醜い私の姿を隠してくれている。

愛おしい彼の顔を常に隠していた髪を忌まわしく感じていたのが嘘のように私は感謝していた。


だって、今の自分を見て欲しくなかったから...。


頬はこけ、ドス黒い隈で覆われた瞳は血走っている。酷い飢餓感を耐える為に掻き毟った喉を隠した服は今も血が止まらず真っ赤に染まっている。

口からはヨダレが吹き出し、荒い呼吸が抑えられない。


グルルルっ...


己の口から、獣の唸り声が聞こえた気がした。


こんな、こんな化け物に成り果てた姿を見られたくない。

こんな、こんな醜い姿を知られたくない。


それでも抑えられない衝動に、遂に彼を押し倒してしまった。逃げられないように、全体重をかけて彼の胸元に乗り上げる。

少し上げた視線の先で彼の喉が、かすかに震えるのが見えた。


何を言われるだろう?

いや、分かりきっている。


きっと彼は、大好きなこの人は...

唯一無二の、私の番はこう言うのだろう。




ーーー醜いバケモノ(魔女)め、と。




◆◇


“魔女”


世間一般に知られる魔女とは、一言で言えば

物語で語られる「悪役」だった。


物語に綴られる魔女達は、どの本にもこの世のものとは思えない程美しい美貌を持った邪悪で醜悪な人喰いの化物として描かれている。

その美しい姿で人を惑わし騙しては、人を喰べてしまうとても恐ろしい、人ではないナニカ。

そこに勇敢な騎士や勇者やらが現れては打ち倒される絶対悪として存在する。


いい魔女なんて、存在しない。

どんなに美しくて、優しくてもそれは善良に見せかけて人を襲う化け物だから。


だから、魔女を信用してはならない。

魔女と会ったら直ぐに逃げないといけない。

もし、捕まってしまったら…


魔女に魅入られた人間は、二度と逃げられない。

例え、死んだとしてもその魂は永遠に囚われてしまうから。

逃げるすべを失った亡者たちを魔女はそれは美しく嗤って、その血肉を、その魂を喰らいつくす。


魔女は、この世の害悪。

魔女は、この世の厄災。


絶対的『悪』。

それが、魔女であるーー。



なんて…


散々、悪しきものとして語られる魔女だが...

実際は人里離れた深い森の中で薬草を煎じては細々と生活する薬師のような、半ば世捨て人のような存在だったりする。


なぜ知ってるか?

それは私が俗に言う“魔女”の末裔であるからだ。



◇◆◇


物心着いた時には森の中、母と二人で暮らしていた。父はいない。いや、正確にはいるらしいが私には見えない存在だった。


私と母は魔女だ。


と言っても、世間様の言う悪い魔女ではない。

そもそもそんな魔女、本当にいるとは思えない。

何より!生まれてこの方、人間なんて私は喰べたことは無い。

母が食べているところを見たこともない。

人を見て美味しそうだとか、そんな事を思ったこともない。それもあって、自分自身魔女という存在には懐疑的であった。


魔女は薬草に精通している。


それは今に始まったことではなく、代々人から離れ森の中で自然と共に生き、その中でも特に薬草と触れ合ってきたからだ。

時にその知識を持って人を助けることもあったらしいが...それが世間様にどう映ったのかは、まぁ今の魔女に対する評価を見れば推して知るべしと言ったところか。

普段人から離れて暮らしてる怪しい人間が森からフラリと現れては誰も知らない知識を披露し怪しい薬を売りさばいてゆくのだ。

そりゃ、怪しいってものよ。

ただ、その知識と力を持って魔女は時に人を助けることもあった。


...まぁ、私から言わせると新しい薬草の検証の為の人体実験のような気がしなくもない..

新しい薬なんかを作った時は特に検証をしたいと思うのが我々魔女、と言うよりかは研究者の性というもの。


理由はどうあれ、その事で人を救うこともあり当時は魔女ではなく“聖女”なんて呼ばれたこともあったらしい。

しかし、そんな得体の知れない人間に人はずっと感謝していられないらしい。

時に妬まれ恨まれ言われのない罪を着せられ襲われて殺されかけて。

魔女はその知識と力を持って反撃し...やり過ぎて、うっかり国を滅ぼしちゃったりしたらしい。

おかげで、聖女なんて言葉は廃れて魔女なんて言葉の方が定着してしまったとか。


因みに、その時の魔女は『傾国の美女』だの『稀代の悪女』だの呼ばれていたらしい。

当時を知る魔女(ご先祖様)の手記によると、その国が滅びたのは国のお偉いさんがうちの御先祖さんに勝手に惚れて勝手に色々やらかして自爆しただけだと書かれていた。

あとは当時の愚痴がたっくさん!!


まぁ、とにかく過去から現在にわたって魔女の評判は悪い。

“聖女”と呼ばれた時期もあった位には人を助けていたこともあったというのに、悪評だけが残ってしまい今では魔女と言うだけで人々は嫌悪し嫌煙する。


しかし、その実“魔女”なんてものはちょっと人里離れた森の中で暮らしてるだけの変わった薬師一族ってだけでそれ以外はただの人間と同じ。

飯食わにゃ腹減って死ぬし、歳もとる。

昔の人にはどう見えたのか知らないが、別に魔法なんて摩訶不思議なものも持ち合わせてない。

あとは、まぁ..特筆する所をあげるとするならば、女系&美形一族ってところだろうか?


私の母は美人だ。


魔女と言われて想像できる程には、妖艶で不思議な魅力を持つナイスバディな美女である。

かくいう私も自慢ではないが、美人だ。

母譲りの薔薇色の瞳、艶やかな月の色の髪。

胸は...まぁまだ無いけど、日焼け知らずの白い肌にスラリとした体型。

こんな田舎の森の奥で暮らしてるとは思えない程の美人親子である。


偶に薬草を卸しに近くの村へ行けば、老いも若きも、女も男も大抵の人間は母に目を奪われる。

そりゃこんな美人滅多に居ない。

それもド田舎の小さな村となれば尚更。

そんな誰からもモテそうな母だが、“魔女”と言うだけで忌避されている。それは私も。

そもそも、辺境の排他的な村の中では余所者を嫌うのは仕方がない。長年隣人として過ごしてきたとはいえ、結局“魔女”という得体の知れない存在に村の人々は忌避感を覚えるらしい。


だから村人と話した事はあまりない。

勿論、友達なんてものも存在しない。

それは別にいい。魔女なんて言葉に踊らされて大好きな母を邪険に扱う奴らなんてこちらから願い下げである。

だから、今の生活は別に寂しいと思ったことは無い。私にとって大好きな母と二人だけの世界は酷く穏やかで心地よい。それが例え、外の世界を知らないだけだとしても...。


ただ...時々少しだけ、ほんの少しだけ。


村で見る、『親子』という物にほんの少しだけ焦がれるものがあった。

母が居て、父がいて、子がいる。

和気藹々とした雰囲気の彼等はとても幸せそうで、彼等のような形ある『父』のいない私にはその存在がどう言ったものなのか想像もできない。


私には母がいる。

大好きな母と2人なら私は幸せなのだ。

けれど、少しだけ。本当に少しだけ...

父という存在に、彼らのような『親子』の形を羨む自分が居るのだった。


◇


私には、父がいない。

所謂母子家庭というものだった。

ただ、普通のそれとは違うのは...やはり、私たちが魔女という存在だからだろうか?


村や本で見た『父』というものは、大抵が女とは違う『男』であり、男とは女と違い大きくて力も強くて、何より女とは全く体の作りの違うものだった。

初めて村に行って『男』というものを見た時、私はその違いに酷く驚いた。

本の中で語られる男とはこんなにも大きくて、髭がモジャモジャで声が大きくて筋肉で盛り上がった体なんてしていなかったから。


何より、私の中の『父』という存在は目に見えて触れられる存在ではなかった。


私は物心ついた時から母と二人で暮らしている。

けれど、そう思っているのは私だけらしい。

母には『父』が見えている。

私には見えない。

母は虚空を見つめては私に向けるのとは違う愛おしげな瞳をその場所に向けるのだ。

まるで、本当にそこに誰かがいるかのように...

母は何も無い空間に手を伸ばしては、嬉しそうにそこにいるナニカに向かって話しかけているのだ。


母は言う。

父はココにいると。

私達は『3人』家族なのだと。


幼い時の私には、もはやそれが当たり前だった。

目に見えて触れられる存在、それは『母』だけで『父』という存在は見えもしなければ触れもできない不思議なナニカだった。

それが村へ行ってみれば『父』とは、私たちと同じ人間で形あるものだと知ったのだ。


初めは酷く混乱した。

自分たちとはあまりにも違う『男』という存在が。『父』という存在が恐ろしかった。


あれが世間一般的に言う『父』というもので、

あれが世間一般的に言う『親子』なのだとしたら...母は本当に一体ナニと会話をしているのだろうか?と。


私達の家には『父』の部屋がある。

母の隣の部屋で、ベットもカーテンも棚ある。

服もあれば、父が好きだという小物もある。

なのに、その存在だけがいつまでたっても私の目には捉えることが出来ない。


母は不思議がる私に、父はここにいるのだと嬉しそうな顔で笑うだけ。

ずっとずっと私達の傍に居るのだと。愛おしげに、しかし何処か悲しげに母は笑っていた。

それが一体どういう事なのか?

その時の私には分からなかった。

母の悲しそうな声も、顔も。

それがどう言う意味なのかすら、理解できなかった。否、理解しようとすらしていなかった。


それはきっと、私の世界はあまりにも狭く...何も知らない。知ろうともしない無知で馬鹿な幼子に過ぎなかったからだ。


◇


穏やかで、けれど少し奇妙な私の生活は母の体調と共に少しずつ崩れていった。

元々、昔から体の弱かった母は私が成長すると共にどんどん衰弱してゆき、かつての美貌は見る影もなく骨と皮だけになり、最近では全くベットから起き上がることも出来なくなっていた。

魔女特有の病なのかと、家にあるありとあらゆる文献をひっくりかえして読み漁った。

しかし、ついぞ母の体調が良くなることはなく...

母は死期を悟り始めると、私に森を出て外の世界を知れと諭し始めた。

自分の事はもういいから、自分の幸せを探しにゆけと何時になく母は真剣に語るのだ。


魔女は、愛を知らなければ生きられない。

魔女は、恋をしなければ生きられない。

魔女は...そういう存在だから、と。


自分は魔女として愛おしいあの人に出会った。

そして、あの人を愛して恋を知って貴女が生まれたのよ。あなた達に出会えて本当に幸せだった。

だから...あの人が本当に居なくなる前に共に逝きたいとだという。

かつての自分のように、歴代の魔女たちのようにこんな森の奥深くに何時までも籠っていないで外の世界を知り、そして愛おしい人を見つけて恋をして...貴女らしく暮らしなさい。と


魔女とは、そういうものだからと。


私にはその言葉の意味がよく分からなかった。

魔女とは、ちょっと変わった引きこもりの薬師一族じゃないのだろうか?

恋を、愛を知ったところでなんだと言うのか?


ただ...その時の母は酷く悲しそうに笑っていた。

そうしなければ、私達は生きられないんだよと。

とても、苦しそうに...


だから、だからこそ。

恋をした時、愛を知った時...

どうか後悔のない選択をしなさい。


そして、どうかーー...



そう言って、母は静かに息を引き取った。

それは、酷く晴れた冬の日だった。


◇


母が亡くなった後、私は母の遺言通り1人ひっそりと森を出た。母のいないあの家は酷く静かで、酷く寒くて凍え死んでしまいそうだったから。

まるで、胸にぽっかりと空いた穴にビュウビュウと風が吹いているようだった。

この場所には、この穴を埋めてくれる存在はもう居ない。なら、探しに行かなければと...


不思議な焦燥感に駆られて、私は外へ飛び出した。外の世界を旅しようと思った。

かつて、母がそうしたように。

正直、恋も愛もよく分からないけれど...

魔女ということは隠して外の広い世界を回ってみようと思った。そして、その中でこの穴を埋めてくれるナニカを見つけてみようと思った。


森を出る、その時。

私はふと後ろを振り返った。


そして、誰もいない家に向かって私は初めて声をかけた。


「...いってきます」


もはや誰もいないその場所に、虚空に消えてゆく言葉にふと、母のことを思い出した。

私には見えない『父』に語りかける母の気持ちが少しだけ、分かった気がした。



◆◇



旅に出て、どれほどの月日が経ったろう?


私は様々な国を回っていた。

時折、戦やちょっとした事件に巻き込まれそうになる危険な場面もあったが概ね穏やかな旅が続いていた。


その旅の途中、なんと同族と会うこともあった。

魔女の一族は美形が多い、が...その人は野暮ったい田舎娘の格好をしていた。

ボサボサの髪を無造作に2つのおさげに結び、大きな丸眼鏡をかけ、ヨロヨロの着古した服に身を包んだ小柄な女性。

ちょっと、いや大分やり過ぎだろうその格好に若干引くが、本人は気にした様子もなく明るく高い声でこちらに話しかけてきた。

…否、私を見るなり瞳をこれでもかと開き嫌にキラキラとした瞳で私に詰め寄ってきた。


「おおっ??!嘘やろっ、めっずらしいなぁ!あんさん、あれや!うちと同じ魔女やろ!っかー!こんな所で同族に会うとはなぁ!名前は?歳は?!おばちゃんと酒でも飲んで語ろうやぁ!な?!うちの奢りや!こんな所で会ったのもなんや縁を感じるしな?な?な!ええやろ!な!さぁさぁ!行くでいくでー!!」


怒涛の勢いで話しかけられ、あれよあれよと言ううちに私は彼女に連れられ近くの居酒屋へと連れさられる事になるのだった。


まさか、母以外の魔女と会うなんて...

しかも、魔女がいるとされる森から遠いこんな街中で。


それにしても...


ちらりと、隣へ視線を向けるとニコニコと大ジョッキ片手に笑う一見そこら辺に居そうな格好をした小柄な娘。

既に何杯も浴びるように酒を飲んでいる彼女は、そのあまりの飲みっぷりに挑戦してくる者が絶えず、勇よく挑んでくる男共を次々と酔い潰していっていた。

次々に挑んでは潰れてゆく男達。死屍累々なその場所で、彼女だけが酷く上機嫌に笑っている。


「おぅおぅ、情けない奴らやなぁ!もっとウチと戦いたいやつはおらんのかぁ?!あははは!!」


「次は俺だ!」「いや俺だ!!」「いやいや!」


「あははっ!纏めてかかってこいやぁ!」


そのあまりの酒豪っぷりを横目に、私はチビチビと酒を飲んでいた。


森を出てからというもの、どうも当初私が思っていたように“魔女”というのはただの引きこもりな薬師一族では無いということが分かっていた。

とはいえ、物語のように魔法なんて摩訶不思議な力を自在に使うなんて事は出来ないし、人を食べたいとは思ったこともない。


が、魔女とはその場にいるだけで人を惑わす存在だということは理解した。

惑わす、と言っても自分の意のままに人を操るとかそういうことでは無い。

なんというか...“魔女”はその場にいるだけで人々に少し高揚とした気分を与えるらしい。

どんなにその美貌を隠し変装しようと、気配をたとうと、そこに魔女がいるだけで人々の視線は集まり次第に意識が朦朧となり気分が高揚し不思議と小さな諍いが増えてゆく。

その力は微々たるものだろうが、長くその場に留まれば確実に人々の争いは増え、やがては大きな戦にすら発展してゆく。


...魔女は、その場にいるだけで災いを招く厄災だ。


だからこそ、魔女は無用な争いを生まない為に人里離れた森の奥でひっそりと暮らしていたのだ。


村の人間が、魔女を嫌悪しながらも目を奪われてしまうのも。

しかしながら、決して目を合わせず、また無闇矢鱈に接触してこようとしないのも。

排他的な村と言うだけでなく、それは彼らなりの自己防衛だったのだと理解した。

それを全く知らなかった私は、そのことに気付くまでに戦争に巻き込まれるわ盗賊に襲われそうになるわ散々な目にあった。

ある程度、それは制御できるものだと最近になってようやく判明したが...


はぁ…

何故母はこのことを教えてくれなかったのかとため息が漏れる。大方、のんぶりした性格の母の事だ。忘れていたとでも言うのだろう。

自分から外の世界へ行けと言っておきながら…

本当に、困った母だ。


それはそれとして、彼女だ。

己を魔女だという彼女に、不思議と不快感はない。ましてや、彼女が正真正銘、己と同じ“魔女”ということもしっかりと理解していた。


どこがどう普通の人間と違うのかと言われても上手く説明はできないが…

一目で彼女が自分と同じ『魔女』だと分かる程には違うと理解させられた。なんというか、雰囲気?まとう空気が他と違う、感じだろうか。

何はともかく、ただの引きこもりで変わり者の薬師一族かと思っていたが…

やはり魔女という存在は人とは少し違うものなのだと思い知った瞬間だった。




挑戦してくる者がついに居なくなったらしい。

依然、平然とした顔で酒を煽る彼女は漸くこちらへ戻ってきた。


「あははは!どいつもこいつも挑んでくる割に弱くてしゃーないわ。あ、ウチが強すぎるだけか?あっははははは!!んで、んで!アンタはなんでここにおるん?ん?おばちゃんに話してみ!な!」


嫌に馴れ馴れしく、そして不思議なイントネーションの言葉を使う彼女はグイグイと遠慮の欠片もなく私に詰め寄ってくる。

余りの勢いに若干気圧されるも、その遠慮のない態度に気付いた時には酒の力もあってか、今までの経緯をあらかた彼女に話してしまっていた。


「ほーん?なんやあんさんまだまだお子ちゃまやないか。よく一人で旅なんてなぁ...まぁ、カカさんが亡なったんやったらしゃーないか」


「子供って...貴女だってそんなに歳変わらなそうなのに」


「あははははっ!!うちは魔女やで?見た目通りの年齢なわけないやんか!うちは特になぁ...そんじょそこらの人間、いや魔女より長生きやでぇ?なんやったらばば様って呼んでもええよ?アッハッハッハ!」


「確かに魔女ってなんか若作りだけど...そんなに?」


「あん?そんなことも知らんのかい...あぁ、そうか。あんさんまだ恋も知らんベビちゃんか」


「恋って...急に何」


「いやぁ?道理でなぁ...魔女ってやつはなぁ、恋をせな生きられへん哀れで可哀想な生き物やから」


「何それ」


「...まぁ、あんさんもいつか恋をしたら分かるやろ。そん時は...ま、後悔せん選択をしぃや」


彼女は、それまでのおちゃらけた雰囲気を一切しまって恐ろしいほどに真剣な顔で告げた。


そういえば...かつて、母もそんなことを言っていたなとぼんやりと思い出す。

彼女は、首を傾げる私を見て酷く悲しげに目を細めると何も言わずに私の頭を撫でた。

その優しい手つきと、何よりその時の顔が、いつかの母と重なる。


彼女は言う。


恋をしなければ、愛を知らねば魔女は生きられない。だからこそ、その時が訪れたとき...

後悔のない選択をしろ、と。


恋も愛も、魔女が何なのかもまだ分からない。

私は、魔女は...一体何なのだろう?


酔いの回った頭で考えても答えは出ない。

唯一、その答えを知るであろう彼女は寂しげな顔で笑うだけで結局何も教えてはくれなかった。


その後。


同族の彼女と別れた後、私はまた1人で旅に出た。幾つもの山を超えて、海を越えて、国を巡った。

色々なものを見た。

色々なことを経験した。

それでも、その場に留まることはせず…

段々となにかの焦燥感に駆られながら、私は必死にナニカを探して求めて歩いた。


それが何なのか、自分で理解もせず。




ーーーそして、遂にその時は訪れた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。