表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
使徒がドジすぎて、巻き込まれた高校生が、破壊神と交渉してきます  作者: 松本正樹
第5章「希望のアンクレット」
132/132

第11節「光よ、道を照らせ」


 王宮の広間に、四人が立っていた。


 天井の光の結晶が静かに輝いている。側近たちが両脇に控え、その奥に——セレナヴァンテリア女王がいた。


フローシャンテリアが一歩前に出る。母の前に跪いた。銀色の髪が床に流れる。


「母上。行ってまいります」


声が震えている。でも顔を上げた瞳には、迷いがなかった。


女王は娘を見下ろしていた。その瞳が微かに揺れる。唇が薄く震えた。


——けれど、涙は見せなかった。


「行きなさい、我が娘よ」


静かな声だった。広間に響く。


「世界を救うために」


そして——ほんの少しだけ声が小さくなった。


「必ず\...\...戻ってきなさい」


フローシャンテリアが唇を噛んだ。泣きそうな顔を必死にこらえている。


「はい。必ず戻ります——お母様」


最後の二文字だけ、王女ではなく、娘の声だった。


女王がゆっくりと玉座を降りた。側近たちが驚いた顔をする。王が玉座を降りるのは——よほどのことだ。


フローシャンテリアの前に立つ。そっと娘の頬に手を添えた。


母と娘の目が合う。数秒。言葉はない。でもそこには——言葉よりも深いものが流れていた。


『\...\...俺の母さんも、こうやって送り出してくれたのかな』


清美の顔が浮かんだ。あの人は泣かなかった。息子が異世界に行くと知った時も、ただ「行ってらっしゃい」と笑っていた。


強い人だ。目の前の女王と——同じくらい。


ゼファーが静かに頭を下げた。クランの長としての、最上位の礼だ。


「王女殿下は必ずお守りいたします」


女王が頷く。その視線がカイトに移った。鋭い眼光。値踏みするような目。


「\...\...娘を頼みます」


「はい」


短く答えた。余計な言葉はいらない。守る。それだけだ。


フローシャンテリアが立ち上がった。足首に手を伸ばす。


銀色の鎖——希望のアンクレット。


女王から譲り受けたゲートの鍵。痣の上に装着すると、金と白のグラデーションが淡く発光した。


「転移の言葉は伝えたわ」


女王が言う。フローシャンテリアは深く頷いた。


四人が輪になる。フローシャンテリアが中心に立ち、杖を構えた。目を閉じる。


——深呼吸。


「光よ、道を照らせ」


アンクレットが輝いた。足元から光が広がる。温かい光。柔らかくて、どこか懐かしい。体がふわりと浮く感覚。


その瞬間——カイトは空を見上げた。


王都の空が、一瞬だけ灰色に濁った。


世界樹の葉が、はらりと一枚落ちる。緑だったはずの葉が——灰色に変わっていた。


『——急がないと』


時間がない。この世界にも、終焉の影が忍び寄っている。


光が四人を包み込んだ。女王の姿が遠ざかる。側近たちの顔が消えていく。広間の天井が——光に溶けた。


——そして。


目を開けると、そこは森だった。


見知らぬ森。木々が高くそびえている。空気が違う。精霊界の甘い香りはない。土と苔の匂い。湿った風。薄暗い木漏れ日が地面に斑模様を描いている。


足元の落ち葉を見る。


一部が灰色に変色していた。


『——ここでも、か』


精霊界で見た異変と同じだ。終焉の影響は、すべての世界に及んでいる。


古代魔法界。マリンのいる世界。五人目の末裔を探す旅が——始まる。


「\...\...無事に着いたみたいね」


エリカが周囲を見回す。めがねの奥の目が、すでに情報を集め始めている。


と、エリカがフローシャンテリアの方を向いた。


「ところでフロー。お願いがあるんだけど」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ