第11節「光よ、道を照らせ」
王宮の広間に、四人が立っていた。
天井の光の結晶が静かに輝いている。側近たちが両脇に控え、その奥に——セレナヴァンテリア女王がいた。
フローシャンテリアが一歩前に出る。母の前に跪いた。銀色の髪が床に流れる。
「母上。行ってまいります」
声が震えている。でも顔を上げた瞳には、迷いがなかった。
女王は娘を見下ろしていた。その瞳が微かに揺れる。唇が薄く震えた。
——けれど、涙は見せなかった。
「行きなさい、我が娘よ」
静かな声だった。広間に響く。
「世界を救うために」
そして——ほんの少しだけ声が小さくなった。
「必ず\...\...戻ってきなさい」
フローシャンテリアが唇を噛んだ。泣きそうな顔を必死にこらえている。
「はい。必ず戻ります——お母様」
最後の二文字だけ、王女ではなく、娘の声だった。
女王がゆっくりと玉座を降りた。側近たちが驚いた顔をする。王が玉座を降りるのは——よほどのことだ。
フローシャンテリアの前に立つ。そっと娘の頬に手を添えた。
母と娘の目が合う。数秒。言葉はない。でもそこには——言葉よりも深いものが流れていた。
『\...\...俺の母さんも、こうやって送り出してくれたのかな』
清美の顔が浮かんだ。あの人は泣かなかった。息子が異世界に行くと知った時も、ただ「行ってらっしゃい」と笑っていた。
強い人だ。目の前の女王と——同じくらい。
ゼファーが静かに頭を下げた。クランの長としての、最上位の礼だ。
「王女殿下は必ずお守りいたします」
女王が頷く。その視線がカイトに移った。鋭い眼光。値踏みするような目。
「\...\...娘を頼みます」
「はい」
短く答えた。余計な言葉はいらない。守る。それだけだ。
フローシャンテリアが立ち上がった。足首に手を伸ばす。
銀色の鎖——希望のアンクレット。
女王から譲り受けたゲートの鍵。痣の上に装着すると、金と白のグラデーションが淡く発光した。
「転移の言葉は伝えたわ」
女王が言う。フローシャンテリアは深く頷いた。
四人が輪になる。フローシャンテリアが中心に立ち、杖を構えた。目を閉じる。
——深呼吸。
「光よ、道を照らせ」
アンクレットが輝いた。足元から光が広がる。温かい光。柔らかくて、どこか懐かしい。体がふわりと浮く感覚。
その瞬間——カイトは空を見上げた。
王都の空が、一瞬だけ灰色に濁った。
世界樹の葉が、はらりと一枚落ちる。緑だったはずの葉が——灰色に変わっていた。
『——急がないと』
時間がない。この世界にも、終焉の影が忍び寄っている。
光が四人を包み込んだ。女王の姿が遠ざかる。側近たちの顔が消えていく。広間の天井が——光に溶けた。
——そして。
目を開けると、そこは森だった。
見知らぬ森。木々が高くそびえている。空気が違う。精霊界の甘い香りはない。土と苔の匂い。湿った風。薄暗い木漏れ日が地面に斑模様を描いている。
足元の落ち葉を見る。
一部が灰色に変色していた。
『——ここでも、か』
精霊界で見た異変と同じだ。終焉の影響は、すべての世界に及んでいる。
古代魔法界。マリンのいる世界。五人目の末裔を探す旅が——始まる。
「\...\...無事に着いたみたいね」
エリカが周囲を見回す。めがねの奥の目が、すでに情報を集め始めている。
と、エリカがフローシャンテリアの方を向いた。
「ところでフロー。お願いがあるんだけど」




