第八節 捜査一日目 ⑤侯爵令嬢の秘密
「お嬢様、『げーむ』って知ってますか?」
ブラックモア侯爵家に戻って早速。
俺はお嬢様の疑惑を確認することにした。
お嬢様ってば、ケンウッド公爵令嬢と似てるところはあるんだよ。
急に知らない人のこと話始めたり、変な言葉しゃべったり…
怪しい。
「ゲーム?チェスなどの盤面遊戯などをそう呼ぶだろう。」
確かに、そうだわ。
何で知らない言葉だと思ったんだろ?
では、なくて…
「ケンウッド公爵令嬢の話、前にもしてるじゃないですか。なんか何とかラビリンス的な感じのゲームがどうので、シナリオがどうのって話するって。」
「あぁ、言ってたな。」
「それ、お嬢様も知ってるんじゃないかって…」
俺の言葉に、何か読んでいたお嬢様はいぶかし気な顔を向けた。
……
沈黙が、怖いんだけど。
「なぜ?」
お嬢様は心底わからないと言った感じだ。
え?ほんとに知らないの?
「なんか、今日ケンウッド公爵令嬢が『モナ・リザ』って絵の話したんですよ。前世では見たことないーとか、『微笑む女』のこと『モナ・リザ』って呼んだり…」
お嬢様は、顎に手を当てて少し考えるようなしぐさで
「ふむ。」
と小さく頷いた。
「それに、今日、大聖堂の『聖アデリア碑』のところを気にしてたじゃないですか。ケンウッド公爵令嬢の話だと、そのなんとかってゲームの主人公は『アデリア』って名前ならしいんですよ!だから、」
「私もそのゲームとやらを知っているんじゃないか、と?」
うっ…。
お嬢様の瞳は窓からの陽光を浴びて、緑色に鋭く光って見えた。
「残念だが、私は知らんな。」
「じゃあ…」
「『聖アデリア碑』の前で足をとめたのは、前に旧教の経典を読んだ際に、聖アデリアに関する説話が印象に残っていたからだ。それに、あそこに碑が残っているのも、不思議なものだと思ってな。」
確かに、前に王宮で起こった事件の時に、旧教の経典を読んでましたね。
「『モナ・リザ』は…」
「『モナ・リザ』は?」
「そう言う名の絵が存在すると言うだけだ。」
お嬢様はきっぱりそう言った。
「え?じゃあ、『微笑む女』の他に、似たような別の名前の絵があるんですか?」
「知らん。」
えー?
「そもそも、そのケンウッド公爵令嬢が『モナ・リザ』と『微笑む女』を混同しているだけだろう。私には、同じ絵には見えない。似てはいるが、作者も異なる、別の絵だ。」
そう言った後、お嬢様は窓の方を見てぽつりと言った。
「だが…、彼女とは同じような夢を共有しているのかもしれんな。同じようなだけで、全く別物のようではあるが。」
外はオレンジ色に変わってきている。お嬢様の瞳は、キャラメルのような琥珀色に瞬いていた。
それ以上、俺はこの話を続けることができなくなって
「ところで、何読んでるんですか?」
話題を変えた。
「オスカーからの手紙だ。」
「オスカーって…」
「ケンウッド公爵子息だ。今、大陸で過ごしている。元気でやっているようだな。」
「え?って言うか、何で?文通してるんですか?」
「そうだが?」
そうなの?
「やっぱり、一緒に誘拐されてたのが、友情を生んだとかですか?」
「なんだ、それは。」
お嬢様は呆れたようにそう言うと、読んでいた手紙を丁寧に机にしまった。
「それで、美術館はどうだったんだ?」




