第九節 捜査一日目 ⑥特別展
俺は、お嬢様に美術館で憲兵さんやメルドさんに聞いたことを報告して、借りてきたファイルなんかを渡した。
ついでに、展示されていたはずの場所は、入館できずに諦めたことも伝える。
「明日、もう一回行ってみまぁす。」
「そんなに、混んでいたのか?」
「すごい長蛇の列でしたよ。いつもあんなに混んでないはずなのに、何かあったんですかね?」
「ヴァロワから購入した絵画が、なくなったな。」
あ。
「みんな、それを見に来てるんですかね?絵はないのに?」
「そんなものだ。」
まぁ、王子殿下と婚約者が見つけたっていうのも、インパクトあるし?
「えー、じゃあ、明日も混んでますかねぇ。」
お嬢様は俺が渡したファイルをペラペラめくって確認していた。
「しばらくは、混むかもしれんな。」
「えーーー。」
「ふむ。」
ファイルを確認していたお嬢様が、
「閉館時の出入りは、場所が制限されているようだな。南門のみに。それに、正面ではなく、関係者用の出入り口からのみ入館が可能なようだ。」
と言った。
「それが、何ですか?」
「憲兵の話によると、少なくとも金曜には絵はあった。ということは、先週末、土曜か日曜に盗まれた可能性が高いだろう。そして、休館日の日曜の方が犯行日の可能性が高い。見てみろ。」
お嬢様はそう言って、確認していたファイルのあるページを示した。
憲兵さんが貸してくれた入館者を記録ファイルだ。
えーっと…先週の日曜日に、入退館者の記録があるな。
『ベルナール・モンフェラン』
「この人、誰ですかね?」
スタッフの一覧はメルドさんが館長に許可を取ってくれて、メモさせてくれたけど、そんな名前いなかったし、憲兵さんかな?
「おそらく、サンティアゴ大聖堂の関係者だろう。」
お嬢様は、別のファイルを見ながら答えた。
「なんで、わかるんですか?」
お嬢様は、見ていたファイルをコツコツ指で叩いて示した。
美術品の搬出入の記録がされているファイルだ。
えーっと…
『中世のモザイク画:サンティアゴ大聖堂より』
日付は、日曜日だ!
他にも、サンティアゴ大聖堂から日曜日に搬入されたものが記録されてる。
「ってことは、日曜日にサンティアゴ大聖堂から美術品の搬入があったから、そのために来たのがこの『ベルナール・モンフェラン』って人だと。」
「そうだろう。」
俺の言葉に、お嬢様はにやりと笑って答えた。
うーん。よくできましたじゃないか、俺。
「特別展用の展示品だろう。日曜に搬入して、月曜に展示を開始とは。バタバタしていたわけだ。」
確かに。スケジュールもうちょっとどうにかならなかったのかな。
というか…
「まさか、サンティアゴ大聖堂が怪しいと思って、今日わざわざ行ったなんてこと…」
「あるわけないだろう。そうだったら、むしろ行っていない。」
お嬢様は嫌そうにそう言った。
まぁ、そうだよな。巻き込まれた時も、嫌そうにしてたし。
「そう言えば、センシティブなんで本人には聞かなかったんですけど、メルドさんって、旧教の方なんですかね?」
「まぁ、そうだろうな。」
じゃなきゃ、サンティアゴ大聖堂にいないか。
「ということで、この『ベルナール・モンフェラン』に話を聞く必要があるが…」
お嬢様は考えるように言葉を切った。
どうしたんだろ?
「俺、明日聞いてきますよ?」
相変わらずお嬢様は考えるように、俺の方を見ている。
「私も行こう。」
「え!」
「なんだ?」
「なんだって…自分から捜査に足を運ぶなんて、珍しいじゃないですか!」
明日は雨だな。
お嬢様は俺の方を少し睨んで言った。
「まぁ、たまにはな。」




