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第四節 捜査一日目 ①大聖堂と神の思し召し


翌日。

新聞には大々的に、絵画盗難事件が載っていた。


「まさか、一面とはな。」


お嬢様は、お行儀悪く朝食を食べながら新聞を読んでいた。


「お行儀悪いですよ。」


俺がお嬢様をたしなめると、お嬢様は新聞を丁寧に折りたたんで、視線も向けずにこちらに差し出してきた。


全く、もう。


新聞を受け取り、空いたカップにお茶を注ぐ。


「まさか、事件が公開されるとは思わなかったですね。またリークされちゃったんですかねぇ。」

「大方そうだろう。しかも、不愉快なことに、私と王子が事件の発見者だと、誇張して書かれている。迷惑な話だ。」


新しいお茶をお嬢様はずずーっとすすった。


機嫌悪いなー。

シェフに何を用意してもらおうかなー。

最近はビスケットがお気に入りだし、ビスケットにチョコレートかなぁ。


「今日は、サンティアゴ大聖堂に行くぞ。」

「え?出かけるんです?そんなに機嫌悪そうなのに…」


俺の言葉にお嬢様は少しムッとした後、

「ちょっと見たいものがあってな。それに、帰りにバターケーキを買って帰る。」

「見たいものって、何です?」


お嬢様は俺の質問に、今度はお茶をきれいな所作で音を立てずに飲んでから応えた。


「昨日、美術館の特別展の説明があっただろう。あれを聞いて、建築様式を見に行きたくなってな。これまで、旧教の教会に行く機会もなかったし。見学したい。」


はぁ、なるほど。

お嬢様の知的好奇心には感心する。


「まぁ、確かに…うちは一応新教国教会ですもんねぇ。」


「私は、無信心者だが。」


いや、そんなセンシティブで政治問題になること、涼しい顔で宣言しないでいただきたいんですが。


「お嬢様、家だからいいですけど…外ではそんなこと言っちゃだめですよ。」

「そんなことは、わかっている。」


そんなこんなで。


俺たちは、王都の中心部にある国内旧教の中心、サンティアゴ大聖堂にやって来ました。

ブラックモア侯爵家は、お嬢様はこんなだし、旦那様もあんまり熱心な方ではないので、おたくの宗教は?って聞かれたら新教国教徒です、と答えるくらいで、週末の教会にも行かない。

なので、こうして教会に来るのは久しぶりだ。

言うて、俺は教会って苦手なんだけど…。

灰白色の石で組まれた外壁は、威圧感がすごくて、苦手意識を刺激する。


「お前はここで待っていればいい。」


入り口前の広場にある、石造りの階段の前で、お嬢様に言われた。


「え?何でです?」

「苦手だろう。」


気を使っていただいている…


「大丈夫ですよ。別に、好きではないですけど、俺も興味はありますし。」


お嬢様は俺をジーっと見た後、

「そうか。」

と短く応えて、階段を上り始めた。

俺はそれに続く。


中に入ると、外側からの威圧的な雰囲気とは一変して、高く伸びる天井が、何とも言えない解放感を感じさせた。

幾重にも重なる石のアーチを描く柱は規則正しく並んでいて、身廊の奥へと視線を導いている。

縦に、ただひたすら高い。

圧迫感はないけど、静寂に包まれた空間に自然と背筋が伸びる感じだ。

中央の通路を挟んで、簡素な木製の椅子が整然と並んでいる。

何人か椅子に座っている人が目に入った。祈りをささげている人や、ただぼーっと座っている人。

人はまばらだけど、今は説教の時間ではないから、まぁこんなもんなのかな。

椅子には無駄な装飾はなく、質素で使われ続けてきた痕跡だけが残っていた。

高窓のステンドグラスは、赤と青を基調にしていて、聖人が描かれているようだ。

祭壇は身廊の奥にあって、椅子と同じように木製の質素なものだった。


お嬢様は、中央で一度お辞儀をした後、右側の回廊からゆっくりと聖堂の中を回っていく。

俺はそれについて行く。

回廊には様々な聖人の絵や、関連する聖遺物なんかが置かれている。


左側の回廊にまわると、ぴたっとお嬢様がある地点で立ち止まった。

お嬢様の立ち止まった場所の床は、他とは違う大きめの石が埋め込まれていて、そこには、『聖アデリア碑』と書かれていた。


お嬢様の視線が床から上に上がっていくのを、一緒になぞるように視線を向ける。


そこにはステンドグラスがあって、女性が子供を抱きながら、泣いているような、そんなシーンが描かれていた。


お嬢様はしばらく無言で、そのステンドグラスを眺めていた。


「はぁーーーーーーー。」


すごいため息。


「はぁぁぁぁーーーーーーー。」


え?何?どうしたんですかって言って欲しいのか?な?


お嬢様もなんかすごい視線で、音の発生源を睨んでいる。

俺は、恐る恐るお嬢様の視線の先を見た。


すると、赤茶色のもじゃもじゃの頭が、椅子に座って突っ伏してた。

なんか、見たことあるもじゃもじゃだな…


お嬢様は一度こちらをちらっと見た後、出口の方に視線を映して

――行くぞ。

と言うように移動し始めたんだけど…


「はぁーーーー。どうしたらいんでしょう。神よ――」


と、もじゃもじゃが盛大に言い始めた。


なんか、巻き込まれそうな感じ?

お嬢様はあきらめたのか、無表情になっていた。


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