中編
彼女のコーヒー 中編です。文章が拙いとは思いますが読んでもらえると嬉しいです。感想を書いていただけると幸いです。
僕の横を走っていく看護婦さん、待合室の椅子に座って話す見た目50代のおばちゃんたち、車椅子に乗っているかなり年のいったおじいさん。
彼らを見ている僕の目にうつる現実自体信じられない。どこか夢のようで、それでいて、どこにでもありそうなこの風景。僕も昨日までこんな現実の片隅にいたなんて、遠い昔のことのようだ。
再びよみがえってくるあの朝の会話。彼女が僕に言ったあの言葉。
“ところで、アナタハダレデスカ”
彼女は僕にそう聞いた。耳を疑う。僕のまわりの空気が一瞬にして固まった気がした。
“え、今なんて?”
彼女がもう一度僕に聞く。
“あなたは誰ですか?”
ようやく言葉を理解する。
“僕のこと知らない?”
僕はそう聞き返した。
“しらない。”
と、彼女は答えた。
その四文字に困惑する。彼女の言葉はあっさりとしていた。僕の頭にあることがよぎる。そして僕はもう一度聞いていた。
“僕のこと本当に知らない?”
冗談だと言って欲しい。笑って、本気にしないの、と僕を笑って欲しい。そして彼女は答えた。
“しらない”
その時、僕の中で何かが
―――――崩れた。
あれから、看護婦さんが来て、医者を呼んで、事情をはなした。いや、本当に文章としてを話せたかどうかは怪しい。おそらくまともなことを喋っていなかったと思う。それでも医者はそのことを悟ってか、すぐに理解してくれたように見えた。
「薄野さん、2番のドアからお入りください。」
いわれたとおりに部屋へと入る。中には手術を担当してもらった、医者と看護婦さんが1人いた。
「どうぞ、座ってください。」
医者はそう言うと僕に向き直った。
「奥さんの症状は、記憶喪失によるものです。」
予想が、当たった。
「おそらく原因は事故の時に頭を打たれたときのものだと思われます。昨日の段階では目立った外傷は見当たらなかったので、詳しい検査はしていませんでしたので、ただ、今検査をしています。検査結果がでしだい、もう一度お呼びしますので、もう少しお待ちください。」
医者がそう言う間、僕は一言も喋れずにいた。昨日までは、普通でなんの変哲もない日々だった。それでいて、幸せに溢れていた。なのに、どうして彼女がこんな目に遭うのだろう。交通事故にあって、足が動かなくなるかもと宣告され、起きてみれば記憶を失っているなんて。
その後、僕はもう一度医者に呼ばれ、彼女の容態について聞かされた。脳に外傷はないが記憶はいつ戻るかは分からないということ。足の神経は無事でリハビリを続ければ元に戻るということ。そして、2、3日入院となるが、すぐに退院出来るということだった。これは本音を言えばもう少し待って欲しかった。とても2、3日では気持ちの整理は出来そうにはなかった。それでも僕は彼女に会いに行き続けた。初めは彼女も不思議がったが、話しているうちにそんな様子は消えていったようだった。僕も彼女と話していると楽しかった。彼女はやっぱりきれいで、見ているだけで心が洗われるようだった。でも彼女は僕のことは忘れていて、僕はただの会社員にすぎないのだ。そう思うとこのまま忘れられるほうが良いのかもしれない。でも彼女を失うのはいやだった。
そして、退院の日がやってきたのだった。




