第68話 戦い、終わって……
(うーん、この状況も慣れてきたなぁ……)
目が覚ます。
いつも見慣れた天井。
痛みと同時に、上手く動かない体。
そして……
「…………」
横から放たれる、凄まじい殺気。
「……おはよう。」
「はい」
なんとか体を動かし、言われる前に直ちに正座。
今回もまた、色々と無茶をした。
しかも、私の大怪我の最大の原因は、精霊の矢……つまりは、私がグリムを守るという勝手な行動をしたせい。
今までの、しなければならない行動ではなく、自主的に行動した結果、いつも以上に心配させたということ、そりゃ怒る。
それにしても、本当にこの動作にも慣れてきた。
今の私なら、どんな怪我を負っていても、レムリアさんの前ならば正座できる気がする。
「あら、相変わらず殊勝な心掛けね」
レムリアさんも、相変わらず素敵なゴミを見る目ですね。
本来の自分の顔とは思えないぐらい、怖すぎて漏らしそうです。
「貴女は一週間ほど寝ていた。幽鎧帝ともうひとりの魔王候補の攻撃は退けた。学校は騎士団による調査のために閉鎖中で、来週には再開予定。簡単に纏めると、現状はこんな感じね」
「な、なるほど……」
さすがレムリアさん、現状の把握としては100点満点だ。
なのだけど……正直、聞きたいことが山ほどある。
「……他にも聞きたいことがあるなら、あっちの子に聞きなさい。私は忙しいの」
そう言いながら、私に後ろを見るように促す。
「………」
そこには、泣きそうなグリムが立っていた。
「う……ううぅ…………」
……訂正。
もう我慢できなくなったのか、泣き出しちゃったグリムが立っていた。
「え、えーと……おっ、おっす、グリム! 元気だっ……ごふっっ!!」
私の姿を見て、タックル……いや、抱きついてくるグリム。
しかも、そこから強烈はベアハッグ……いや、抱きしめてくる。
「あ、あの、グリム……? グリムさーん……? 抱きついてくれるのは嬉しいんだけど、私、結構な重症でして……」
「う……うぅ……うぅ……!」
「あ、あの、だからね……? 私、結構、ううん、大分ヤバいっていうか、ちょっと天国見えるっていうか……」
すぐに、レムリアさんの方を向く。
助けて、貴重な悪役令嬢ファンが減りますよ、貴女の体の一大事でもありますよ、あなたの友達……はおこがましいけど、仲間ぐらいまでにはなった女のピンチですよ。
本当に、色んな感情を込めて目線を送る。
「……ふっ」
……わー、なんて冷たい目。
そして、『無茶ばかりする貴女にはいい薬よ。そこで地獄を味わって反省することね』という感情が読み取れる。
この理解力。
ふたりの関係は、仲間よりランクアップして、相棒を名乗れるぐらいにはなってるかもしれない。
「さて……私は忙しいの。出かけるから、あとは任せたわ」
「承知しました」
そこに現れる、我が屋敷きっての癒しメイドにして、友達のラズリー。
うーん、いつ見ても癒される笑顔……なんて、言ってる場合ではない!
『エマージェンシー! 生命の危機です!』
精いっぱいの思いを込めた目線を、ラズリーに送る。
「…………」
だが、ラズリーはニコニコしたままだ。
(タスケテ……タスケテ……!)
今度は頑張ってジェスチャーを送る。
ラズリー!
私の思いをを受け取って……!
「……ふふっ♪」
……うん、私の思い、受取人不在。
ていうか、そのラズリーの素敵な笑顔で理解した。
ラズリーも、滅茶苦茶怒ってる。
ラズリーみたいな天使がそんなに怒るなんて、きっと隣の鬼悪役令嬢の影響だ。
だって、私がラズリーにやったことは、プリンをねだったり、注意されても大怪我して帰ってきたり、おやつのプリンを内緒でちょっとずつ大きくしてもらったり、あとまた大怪我して帰ってきたり……うん、これは天使のラズリーも怒って当然案件かもしれない。
(……まあ、いいか)
私は全ての運命を受け入れ、グリムのされるがままとなる。
(とにかく、グリムを救えたし、帰って来れたってことは、勇者一行からも逃げられたってことだよね)
今回の騒動で、思いっきり魔王組が暴れたことになってるだろうけど、みんなの顔は隠れてたはず。
私は生身だったけど、姿が変わる魔王モードだったから、学校に出没する魔王モードの私、マオのせいってことになってるだろう。
学校でマオが痴女扱いされていることは誠に遺憾だが、今回は『マオという存在』に感謝だ。
(幽鎧帝のこととか、気になることはいくつかあるけど、どうせ後でレムリアさんから説明があるだろうな……)
レムリアさんが、このあたりのことを現状に含まず伝えてきたってことは、今はまだ伝える段階じゃないってことだろう。
たぶん、グリムに聞いたら出てくる答え以上のものを、現在進行形で対応しているんだろうな。
(とりあえず今は……)
なんとか手を動かし、グリムの頭を撫でる。
仲間や友達の元に、生きて戻れた喜びを嚙みしめながら。




