第67話 光の中の闇
「なに……してるの……?」
目の前に広がる光景を見て、私は声を出す。
勇者の放った、凄まじい光の塊。
流れてくる幽鎧帝の記憶から、これに飲み込まれたら確実に消滅する。
だからこそ、私は望んだのだ。
この光に飲み込まれ、全てを終わらせることを。
「……ねエ……ナニヲシテイるの……?」
私の中にも入り込んでいる幽鎧帝も、私と共に声を出す。
目の前の光景に。
ありえない光景に。
「ねえ……ねえ…………!」
私は声をかける。かけ続ける。
巨大な光を受け止め、私を、私たちを守ろうとしている闇に。
「……聞いてたんでしょ! 私は、あなたを裏切ってる! 最初から! あなたを騙しいた!」
自分でも驚くほどの大声で、私は感情を吐き出す。
だが、それでも私の声に、何も反応しない。
「……っっ! 最初に会ったときから、殺そうとした! それぐらいは分かってたはず!」
私を無視するレムリアに、長年忘れていた感情が蘇る。
何があっても、しょうがない、自分が悪いと思い、自分にはそれをする資格がないと、使われなくなった自分の感情。
「……聞こえてるなら、返事ぐらいしろ! レムリアぁ!」
『怒り』という感情が。
「……出会ったとき、魔王候補のくせに弱いって思った! 最後の幽鎧帝の攻撃、手加減してなかったら、あなたは死んでいた!」
怒りによって、自分の口調が昔に戻っているのを感じる。
自分の様な出来損ないの声を聞かせたくない……嫌われたくないと思って、極力喋らないようになる前の口調。
親に甘え、ヴラドおじいちゃんから魔法を学び、メイドとも仲良くしようと話していたころに。
「あんなに簡単に祭壇に誘導されて! 魔王の武具にも、力にも翻弄されて! 魔王の力に乗っ取られて! 本当に弱い!」
怒りによって、自分のたがが外れるのを感じる。
自分の本音が、感情そのものが解き放たれ、外へと放たれる。
「唐揚げは美味しかった! それだけは認める! 今すぐ、魔王なんか辞めて、店でも開いてろ! ぽっと出の魔王候補に手も足も出ない、最弱魔王候補が……」
「うるさぁ~~い!!!!!!」
だが私の感情は、それ以上に感情にかき消される。
「黙って聞いてれば……ええ、そうですよ! 全部グリムの言う通り! 何も言い返せません! 最弱魔王候補でごめんなさいね!」
そしてレムリアは、私と同じように吐き出し続ける。
「ちなみに、魔王の力に乗っ取られたなんて、今、初めて知ったから! なんか後ろから声がするって思ったけど、あれ、魔王の力そのものだったんだね! 勉強になりました、ありがとうございます!」
怒りながら感謝という、いかにもレムリアらしい感情を。
「グリムが最初、本気で殺しに来てたのも確かに分かってたよ! だから警戒して、距離置こうと思った! でも、出来なかったんだよ!」
「な、なんで……」
「そんなの……そんなの……!」
なんとか言葉を絞り出す私に、容赦なく言葉を叩きつけてくる……
「……友達になりたい! そう思ったからに決まってるでしょ!!」
……私が欲しかった、一番の言葉を。
「嘘だったのかもしれない、信用させるためだったかもしれない……でも! 慕ってくれてるのを感じた! 唐揚げ美味しそうに食べてくれた! ふたりで話して! クラスメイトとして一緒に過ごして、楽しかった! 楽しかったの!」
迫りくる光よりも輝く、黒くて暖かい『光』が、私を照らすのを感じる。
「いいよもう、一方通行で! グリムは私の友達なの! 私が勝手にそう思ってるだけだから!」
「だ、だからって、こんなことする理由には……」
「あ~もう! 本当にイライラする! だったら聞けぇ!」
そしてその光は……
「友達守るのは、当たり前なんだよ馬鹿ぁ~!!!!」
私の闇を、容赦なく消し去っていった。
「あ~もう! 恥ずかしいし! 精霊の矢、滅茶苦茶痛いし! もう全部にイライラしてきた!」
右手を掲げるレムリア。
その瞬間、辺りが、空気が騒めく。
「魔王の力! ていうか、魔王! さっきまで、私の体貸してあげたんだから、賃貸料払え!」
右手に形成されていく『黒』。
闇そのものとしか表現できないそれを……
「今ある魔王の力、全部かき集めて、私によこせぇぇええ~~~!!!!」
レムリアは、拳と共に、目の前の光に放った。
深淵ともいえる黒。
極光ともいえる白。
ふたつがぶつかり、辺りから『色』が消失し、世界が止まる。
そして……
――グギィィィイイインン!
この世のものとは思えない、歪で、凄まじい轟音が鳴り響いた。




