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腐女子の私は異世界で何故だか百合百合しています  作者: 街田和馬
第2章「醜悪」
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第16話「おでかけー」

 私たちがスミルナを発って、早くも10時間が経過した。

 今回の道中も、私はハルとずっと手を繋いでいた。力を貯めるためだ。

 昼休憩の時間以外は基本的に歩き続け、周りの状況がほとんど視認できないほど暗くなってから歩みを止めた。

 危険だとはわかっていたが、少しでも早く前に進んでおきたかったのだ。


 幸いにも魔物はほとんど現れることがなかったし、出てくるにしても雑魚ばかりだった。

 私は魔王戦に向けて力を貯めておかなければならないので、その相手は美樹とオルタ先生に頼んだ。

 後方から彼女たちの戦う様子を観察していたが、二人ともやはり強かった。

 美樹は猛々しく、蔦を振り回し荊で貫いた。

 オルタ先生は神々しく、不浄の光で魔を焦がし尽くした。

 そんな二人を私は羨ましく思ったりそうでなかったりしながら傍観していた。


 日没の近づいた頃の戦闘では、なかば作業と化した魔物退治の観戦が退屈になってしまって、私は道草を食っていた。


「もう出発して8時間ほど経つのに、一切動きのキレが落ちてない。すごいですね」

「そうねー。もぐもぐ」

「あんな風にアリスさんも戦えたらいいのに……って、何やってるんですか?!」

「んー? なに

「って、草食べてるだけなのだけど」

「そうですか。……って草?!」

「どーしたのー、そんな大声あげて」


 ハルは、地べたにあぐらをかいてそこら辺の草をちぎって食べる私を見て絶叫した。


「なっ、ななな、なんでそんな?!」

「いやなに。この草ね、前に食べた時美味しかった記憶があったものだからついね」

「アリスさんはついそこら辺の草を食べてしまうような人だったんですか?!」


 私がちゃんとわかるように説明するも、ハルの動揺は止まることを知らない。

 まったく、何がハルをそうさせるのか。私には理解できない。


「別に何もおかしいことはしてないでしょう? 戦いを見るのが退屈になった。そういえばお腹が空いてきた。目の前に美味しい草がある。これを食べないという選択肢があるのかしら?」

「えぇ……」


 ハルはいよいよ動揺を通り越して唖然としていた。というか、若干引かれているようにも感じる。

 でも、そんなことはどうだっていい。

 私はその戦いが終わるまで草を貪り続けるのだった。



  ○●○●○



 午後8時、私たちは開けた野原のど真ん中で焚き火を囲んで食事をしていた。

 今晩のメニューは、人喰いウサギのスープだ。道中飛び掛かってきた人喰いウサギを切り刻んで私が摘んだ野草の数々と共に鍋にぶち込み、煮詰めたものだ。

 ウサギの肉はクセが強い味だったが、スープはあっさりしていて飲みやすく、肉も野草を巻いて食べれば多少マイルドになってそこそこにはなった。


 私はゆっくり冷ましながらスープを飲んでいるハルに近づいて話しかけた。


「今日一日歩いたわけだけど、体の調子はどう? 全快ではないでしょうに、無理をさせてしまってごめんなさい」

「全然大丈夫ですよ! 峠は越えましたし、重いものはアリスさんが持ってくれていたので、この程度苦じゃないです。無理もしてませんよ」

「そう。ならよかった」


  ハルの状態を確認できた私は立って、ちょうど食べ終わった美樹の元へ向かった。


「美樹美樹ー」

「なーに、どしたの?」



  ▼▽▼▽▼



 アリスさんは、私の健康状態を聞くとすぐにミキさんの所に行ってしまった。

 まったく、私のことを心配しているのか心配してないのやら。ミキさんと再開してからのアリスさんは、なんか私に冷たい気がする。


「うーん……」

「どうかしましたか?」

「ひゃっ!」


 私が考え込みかけたとき、オルタ先生が話しかけてきた。

 足音ひとつ立てずに近づいてきたからまったく気づかなかったから、驚いて短く悲鳴をあげてしまった。


「別に…………なんでもないです」

「ごめんなさい。急に話しかけたのは悪かったですね。でもまさかこんなに驚くとは思わなかったから、少し面白かったですよ」

「……もう。オルタ先生はいつもそうです。しっかりしてるように見せて、たまにお茶目な本性出してくるんですから」

「うふふ。そっか……そうですね」


 私の言葉に対して、オルタ先生が含みのありそうな反応をしたが少し気にかかった。


「それにしてもハルさん、厄介な方に目をつけられましたね。初めて会った時から少し思うところはありましたが、ここまで深刻となると……」

「……それってどういう?」

「これからも関わり続けていたら、そのうちわかりますよ。きっと今も心の奥底では気づいているのでしょう。それは案外近いうちに確証に変わると思いますよ」

「…………」

「きっとこれはハルさんのお母様も対処のしようがなさそうですね」

「なんでそこで母の話になるんですか?」

「……それは、本人が話してほしくないでしょうから内緒です」

「…………?」


 オルタ先生は、意味ありげな言葉を連ねながら一切合切その真意には触れようとしない。

 今の私にはよくわからなかった。

 いつか、この言葉の意味がわかるようになるのだろうか。

 知りたいーーそう思う反面、これを知ってしまったら何かが壊れてしまう気がして得体の知れない不安感が私の心をわずかに侵したのだった。



  △▲△▲△



「体が重い……」


 翌日、出発して三時間ほど歩いたところで、私は徐につぶやいた。

 直後に私の顔を覗き込んできたハルの表情には、疑問が表れていた。


「珍しいこともあるんですね。風邪ですか?」

「いやいや、そんなことないわよ。ただ、しばらく重い荷物背負って歩いてただけだったから体が鈍ってしまっているみたい」

「そういうことですか」


 思えば、シュピネーとの死闘、そして力の十分でない状態でのキマタとの戦闘という立て続けの激戦以来、ひとつたりとも戦闘をしていなかった。

 雑魚すら相手をしていない。

 むしろ、出会うのが雑魚ばかりだからこそ私の出る幕がないのだ。


 それに気づいてしまった私が願うのは、これに尽きる。


 ーー強い魔物、現れないかなぁ。


 そう心中で呟いた直後、前方から轟音が響いた。


「なっ、何が?」


 隣のハルは声を上げ、動揺が繋いでいる手からも伝わってくる。

 しかし、私は確信した。

 強敵が、来た。


「急に地中からでかい蛇みたいなやつが飛び出してきたんだ。二人でちょっと攻撃入れてみたけど、これが頑丈で一筋縄じゃいかなそう」

「……そう。そっかそっかそっか」

「…………アリスさん?」


 美樹が丁寧に状況と相手の情報を簡潔に伝えてくれた。

 自身の肉眼でも視認した。

 確かに蛇だ。しかも岩のようにゴツゴツとした鱗に身を包み、大きな黄色い目でこちらを凝視し、仕掛けどきを窺っている。


 自分でも徐々に口角が吊り上がっていくのがわかった。

 久々の高揚感。

 溜めに溜めた力を解き放つことの解放感への期待。

 自分では歯止めの効かないこの気持ちが、間もなく暴走する。


「…………フヒッ」


 背中に負った重荷をその場にゆっくりと置き、リュックの紐から腕を抜いて、そして地面を蹴った。

 砕けた地面を蹴り上げて私は矢の如く目にも止まらぬ速度で蛇の首元に跳び、そのまま拳を叩き込んだ。


「アハっ」


 久方ぶりの力を振るう感覚に快楽を覚える一方、蛇は全くダメージを負っている様子はない。


「んー?」


 拳が蛇の首元にめり込んでいる間に体を曲げて首元に足を添え、蹴って一度距離を取った。

 改めて敵の全容を観察。

 どうやらあの鱗は全身に張り巡らされていて、どこに攻撃を入れても大したダメージは期待できなさそうだ。

 物理的側面の大きい美樹の魔法でも、同じくダメージは期待できないだろう。

 オルタ先生はというと、お得意の聖属性の魔法を使っているがあまり効いていないようだ。魔物であるとはいえ仮にも蛇の態を持っている存在だから少し神格が高い可能性があり、それゆえ聖属性の魔法が上手く作用しないのかもしれない。


「こりゃ、私がどうにかするしかないよね」


 腹を決めるのは早かった。

 外からの攻撃はほぼ無意味。

 ならば、内側からならあるいは。


 思い立ったが吉日、私は蛇に背を向けて後方支援をしている美樹に抱きついた。


「ちょいちょいちょい、うぇっ?! 百合音?!」

「アリスさん?!」


 美樹とハルの驚きの声が同時に届いた。


「美樹! 魔王全部倒したら結婚しよう!」

「へっ、ふぇ?」

「は?」


 私の唐突の告白に、美樹はいつもの溌剌さは見る影もなくなりハルは何故か怒ってるみたいな低い声を出した。

 ハルに関してはなんかよくわからんが、ちゃんと力が増したのは感じた。


「んじゃ……よいしょっと!」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 私は美樹を抱きしめたまま、蛇の方に向かって跳んだ。

 来るべきときまで美樹を離してはいけないが、あまり締めすぎるとエグい音と共に美樹の腰があらぬ方向に曲がってしまう。

 だから、高まっていく力に合わせて上手く抱きしめる力も調節する。


「オルタせんせー! 美樹のこと受け止めてくださいねー!」

「え、えぇ。わかりました……」


 オルタ先生はまったくわかってなさそうだが、とりあえず返事は返ってきた。多分、何があっても受け止めてくれるだろう。


「……さっきの」

「ん?」

「さっきの……別にガチだなんて勘違いしてないから。どうせ能力の発動のためだなんて最初からわかってたから!」

「うん。…………ぶふっ」

「なによ!」

「いゃ〜、別に〜」

「腹立つ。…………まぁいいや。それで、作戦は?」

「簡単なお仕事だよ。私がもうすぐ美樹を投げ飛ばすから、タイミング見計らって種子をぽいところに放ってくれればおーけー」

「ちょっと待って、何もわからなーー」

「れっつごー!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」


 美樹が何か言いかけていたが、私は構わず美樹を上にぶん投げた。

 私は蛇に向かって跳んだ勢いに一切抵抗せず、そのまま蛇の顔面に飛びついた。蛇は必死に私を落とそうと首を激しく振るが、左手の指を下顎に、右手の指を上顎に全力をもって食い込ませ、両足を下顎に置いて固定した。

 私はそのまま蛇の口を開いていく。

 蛇も必死の抵抗を見せるが、わずかにこちらの力の方が上なため、ゆっくりと口が開いていく。


 美樹はもうすぐ落ちてくる。ここが正念場だ。


 力を一層込めて、さらに口を開いていく。

 やがて蛇は抵抗する体力を失ったのか、ある瞬間を境にガバッと口が大きく開いた。


「いまっ!」

「グレート・シーズ!」


 私の合図に合わせて、美樹が蛇の口の中に種子を二つ投げ入れた。

 私はそれが奥まで入り込んだことを確認して顎から手を抜き、顔面を蹴って蛇から距離を取る。

 そしてーー


「やったれ!」

「ブルーム!」


 美樹が短く詠唱し、刹那ーー蛇の体がボコッボコッと膨れ上がった。やがて体中の穴や鱗の隙間から植物の蔦や茎、花がはみ出してきて、そして蛇は鮮血を散らしながら破裂した。

 外からがダメなら内側からとは、こういう時の基本戦法だ。これでもダメだったら少し考えものだったが、なんとかなって安心した。

 何より、久々の戦闘は楽しかった。


 私は何事もなく着地し、美樹は私の指示通りに動いてくれたオルタ先生に受け止められた。

 すぐ美樹のもとに駆け寄り、拳を突き出した。


「やっぱわかってんじゃん」

「あったりまえじゃん」


 美樹は笑いながら私の拳に拳をコツンと合わせた。

 やっぱりこういう協力関係も悪くないな。

 そう思った私は、とても清々しい気分だった。

 美樹も嬉しそうだし、オルタ先生も私たちの仲睦まじさを見て楽しそうだ。




 ただひとり、ハルだけは不満そうに口を尖らせ拳を握っていたことに、誰一人として気づくことはなかった。

今回は(割と)早めに更新できましたね笑


次回もお楽しみに。ちゃんと来月には出します。


あと個人的な報告ですが、昨日19歳を迎えました。


まだお酒が飲めません。

画面の中のアサヒィスーパードゥラァァァイに手を伸ばしています。

もう一年、その手が届くことはありませんがね笑

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