第17話「地獄の花園」
「さぁ、着いたわね」
スミルナを発って早くも四日が経過した。
幾度の戦闘を乗り越えて遂に到達したのは、古城レモンステまでの関門がひとつーー地獄の花園だ。
その名の通り混沌とした風景が一面に広がっている…………なんてことはなく、本当に美しい色彩豊かな花々が見渡す限りに咲き乱れていた。
「これは、すごいわね」
「はい! こんな綺麗な光景、見たことないです!」
「花園ってやつを訪れたことはなかったけど、こういうのを言うんだ」
「いやいや、これは流石に度が過ぎてると思うけど」
「何度来ても圧巻ですね。昔から変わらない」
「……オルタ先生?」
「いえ、なんでもありません」
「……そうですか?」
美樹もハルも初めての光景に驚きと興奮が隠せていない。
美樹は開いた口が塞がらなくなっているし、ハルはそれに加えて目を輝かせている。
興奮こそしないが驚いているのは私も例外ではない。都会に住んでいた私は花畑や田園にすら身を駆り出したことがなく、ゲームで描写されることのあるこのような光景を見ることはないと思っていたからだ。
そのような私たちとは裏腹に、オルタ先生は見慣れているかのように落ち着いていた。というか、なぜかこの光景を懐かしんでいるような、そんな遠い目をしているように見えた。
まぁ本人がなんでもないって言ってるからどうでもいいや。
そんなことよりーー
「ねぇ百合音」
「どーしたの?」
「この花園、綺麗なのは間違いないんだけど、なんかおかしくない?」
「うん。私も思った。花園とはいえ、木がなさすぎる」
「だよね。流石に見える範囲で低木の一本すらないのは違和感しかないよね」
「初めて見たのに違和感ってのもおかしな話だけどね」
「それはそう」
最後は二人ともクスッと笑ったが、ここが不穏な雰囲気を漂わせているのは間違いない。
標高的には樹木が存在していてもおかしくないはずだ。
それに近辺の草原に木がまったくないわけではない。数は少ないが、どこにいても全方位見渡せば何本か木が見えていた。それなのにこの花園にたどり着いた途端、樹木がなくなってしまった。
「はっきりとはわからないけど、慎重に進もうか」
「そうしよう。この異常な光景の原因がわからないからね」
避けようにも、この花園を迂回するということは攻略を半月長引かせるということを意味する。
それほどにこの花園は横に大きく広がっている。
突っ切れば一週間、迂回すれば半月かかるというなら、迂回するという選択肢はない。
いざ覚悟を決めて足を踏み出そうとした瞬間、私はある違和感を覚えた。
『よく考えてみればおかしな話じゃない? 地図を見た限りでは、花園の幅は長さの十倍程度だった。明らかにおかしい。花園を通るか否かでの突破に係るかかる日数の比が。普通は迂回した方が突っ切った場合の移動距離に対して相対的に長くなっている。しかし、ここはそうでもない。時間あたりの移動距離は迂回した場合の方が圧倒的に長くなっている。何か、仕掛けがあるに違いない』
そう考えた時にはもう花園に一歩踏み出していて、隙間なく咲いている花々を踏みしめた。
ーー刹那、爽やかな風に揺られ一切の統率感もなかった花々が、一挙にこちらを向いた。
「…………こわ」
「ひいっ!」
「なんなんですか、これ?」
「んー、やっぱり不気味ですね」
この私ですらも不気味だと思うほどの異常な光景だ。
普段は快活でありながらホラー耐性はマイナス値の美樹は悲鳴をあげ、ハルは嫌悪感を剥き出しにして疑問を思ったまま口にして、オルタ先生はやっぱり懐かしげだった。
「オルタ先生、これ一体なんです?」
「あらアリスさん、気になります?」
「当たり前です。あまりにも異常ですよ」
「そうですよね。どうしましょう。話せば長くなるんですよ、この花園については」
「それでもいいです」
オルタ先生がお茶を濁そうとするので、私は少し威圧的に迫った。
先生は物怖じせず、変わらない懐かしげな視線を周囲に向けながら私に忠告した。
「あなたがいいなら私は別に構いませんけど、こんなことしてる場合じゃないのではなくて?」
「……どういう意味です?」
「今は私に噛み付いている場合ではないと言っているのです。もっと周りを見なさいな?」
「なにをい……って…………?」
苛立ちを露わにしながらも、先生の言った通り周囲を見回すと、私だけに注目した幾千の花の中で疎に柱頭が光り始めるものがあった。
「一体なにが起きてるの⁈」
そのあまりの不気味さに、私は声を荒らげた。恐怖と焦燥で脈が速まり、視線が右往左往し、冷や汗が滲んだ。
状況を掴めないまま軽くパニックに陥っている私を嘲笑うように、その光は輝きを増していく。
当事者ではないハルと美樹はパニックにはならずとも不安そうにしながらも取るべき行動がわからず硬直しているといった様子だった。
柱頭の光はいよいよ目を細めなければ直視できないほどにまで強くなり、私は目元を腕で覆った。そろそろ光が臨界点を迎える点あろうタイミングで、黙ってことが進むのを傍観していたオルタ先生が口を開いた。
「ここに来る前から、こうなることは予想できていました。あなたがいなければ、私たちはここを三日以内に抜けられたことでしょう。しかしあなたがいなければ、魔王の討伐は叶わないでしょう。本当に私はあなたにどのような感情を向けるべきか、判断しかねるのですよ」
「…………なにが言いたい?」
「天使が赦すは真なる良心。天使が拒むは影なる悪心。過度に理解する天使は、己を労わりそよ権能を永遠の栄華とともにかの大群に与えた。天使の権を得たかの存在は、光に目を閉ざし影を焦がす。与えられた権能の名は『審美眼ージャッジメントー』」
オルタ先生が隣で大事なことを呟いている気がするが、花どもが眩しすぎてそれどころではない。確かに聞き取れたのは『ジャッジメント』という言葉のみ。
それが何を指すのか推測を始めるより先に、場が動いた。
「汝が主の命において審判の執行が許されよう。闇を照らし、表裏を隔てる壁を削りたまえ。『闇照らす破滅の光ーサマエル・アプラウチ』」
「あっ…………」
幾千の花の柱頭から放たれた光線が、私の脳を貫いた。
全方位から貫通された脳は、麻痺した。
視界がぼやけ、意識が朦朧としてきた。
倒れていく……という感覚はないが視界が傾いていくことから私は今倒れているということはかろうじて理解できた。
ただし、理解できたというだけで受け身を取ろうにも身体が動かず、痛みを感じることはないが明らかに痛みを伴う姿勢で倒れ込んだ。
その後は視界が急激に狭まり始め、駆け寄ってくる二つの影を視認しながら、私の視界は暗転した。
「少し……お話をしよう」
目を覚ますと、宇宙のような狭いとも広いともわからない漆黒の空間の中でひとりの女と対峙していた。
その女は、私の姿をしていた。
あけましておめでとうございます
失踪したと思いました?
APEXと駆け落ちしてました。すみません笑
実は正月に投稿しようとしてたんですけど、この内容は違うなと思って一度消してそのまま4ヶ月が経ちました
まぁどんまいです(何様)
今度は1ヶ月以内に出せるように頑張りますが多分出ません(頑張れよ)
まぁ首を長くして待っててください
んじゃまた




