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小鳥遊カナンは見ていた。

20190901 17時更新 本日2回目

       ※




 デートの終わりを告げて、俺は駅まで竜胆を送って行く。

 最悪、またあの不良共と出くわす可能性もあるから……念の為の用心だ。

 それに、竜胆がデートだと思ってくれているなら、駅くらいまで送ってくのがマナーだろう。


「もう少しで駅まで着いちゃうね……」


 竜胆は名残惜しそうに口を開く。

 どちらが最初に意識したのかはわからないが、二人の歩く速度が少しずつ遅くなっていくのを感じていた。


「……服、買ってこれなかったの残念だったな。

 折角、皆友くんが選んでくれたのに……」


 俺が服を渡した時、竜胆は本当に嬉しそうだった。

 心から幸せそうに笑ってくれていた。


「また一緒に、あのお店に行ってくれる?」

「それは……」

「ダメ?」

「……ダメというわけじゃないが、あの不良たちと遭遇する可能性を考えたら避けるべきだとは思う」


 そんな偶然、何度も重なるわけがない。

 だが、軽率な行動を取ることで竜胆が危険な目に合わせたくなかった。


「……あたしのこと、本当に心配してくれてるんだ」

「当たり前だろ」

「それはどうして?」

「ど、どうしてって……」


 見つめられて俺は竜胆から目を逸らす。

 今日は随分と攻めてくる。

 もしかしたらこれは、竜胆なりのちょっとした意地悪だろうか?

 俺が求められて答えをはぐらかしたことへの。


「言ってくれたら、あたし……絶対受け入れるよ?」

「なっ――!?」


 優しくてとても甘い言葉、かたくなな俺の心を解いていく。


「約束するから。

 だから、皆友くんの想い……聞かせてほしいの」


 竜胆は攻め手を止めない。

 ここぞとばかりに俺を畳み掛けてくる。


「あたしはキミにとって――特別、かな?」


 熱を帯びる瞳。

 震える声音。

 竜胆の緊張が伝わってきた。

 俺はそんな彼女にどんな言葉を伝えられるだろうか?

 真剣に考えを巡らせる。


「……少なくとも、こうして俺と話す同級生は、お前しかいないだろ」

「だから、特別?」

「三年間できる限り……傍にいるなんて約束する相手が、特別じゃないと思うか?」


 自分にできる精一杯を伝えて、俺は先に歩き出した。

 少し遅れて竜胆も足を進め隣に並ぶ。


「……欲しかった答えとは違うけど、今はそれで納得しとく。

 でも、大切な言葉……いつか、ちゃんと聞かせてね」


 少し不満そうではあったけど、竜胆にとっても及第点のようだ。

 欲しかった答え。

 大切な言葉。

 二人の関係を進める為に言わなければならない一言。

 今後、俺がその言葉を口にすることはできないかもしれない。

 だからせめて、その言葉以外の形で、彼女を喜ばせる為に何かしてあげたいと、俺は心からそう思った。


「……竜胆」

「どしたん?」

「……選んだ服……後で俺が買っておくから」

「え? プレゼントしてくれるってこと?」

「いや色々と選んだのに何も買わないんじゃ、お店にも悪いからな」


 歩調が自然に速まる。

 照れ隠しするみたいに。

 そんな俺の隣まで竜胆は並んで、服の裾をぎゅっと掴んだ。


「すっごく嬉しい……お礼、いっぱいするから。

 皆友くんのしてほしいこと、全部……いいよ?」

「――っ……」


 お礼――と聞いただけで、胸が震えた。

 それは期待、なのだと思う。


「ちょっとだけなら、エッチなのでも、いいから」

「お、おまえっ――」


 耳元でこっそりと言われる。

 頭がクラッとしてしまって、冷静な思考が奪われていく。

 ぼんやりとした思考のまま俺は駅まで向かい、なんとか竜胆を改札まで送り届けたのだった。




         ※




 駅を降りて小鳥遊カナンは映画館に向かっていた。

 友達と過ごすわけじゃない。

 たった一人、のんびりと自由に過ごす休日も、彼女は嫌いではなかった。


「あれ?」


 それは駅の近くの通り道。


「竜胆……?」


 カナンは反対側の通路を歩く、竜胆凛華の姿を見つけた。


(……それにあれって、同じクラスの男の子?)


 少し離れた位置だったけど、おそらく間違いない。


(……凛華とあの男の子って、やっぱり付き合ってるの?)


 二人は隠しているつもりだったのかもしれないけど、休み時間に視線を交わしていたり、授業中にイチャイチャしたり……カナンは二人が付き合っているのではないか? と思っていた。

 勿論、それを確認するつもりもない。

 カナンは竜胆から話してくれるのを待っていた。


「ぁ――」


 様子を窺っていると、二人はまた歩き出した。

 恋をする女の子の顔で、竜胆凛華は男の子を見つめていた。

 はたから見ていても胸焼けするくらい甘い。

 それこそ『友人』であるカナンが『嫉妬』してしまうほどに。


「はぁ……」


 カナンの口から溜息が漏れた。

 それは友人の――恋という強い感情を秘めた竜胆があまりにも綺麗だったからだ。

 私には向けられることのない激しい熱情。

 特別な感情を向けられているあの男の子が、カナンは羨ましかった。

 いつか自分も、そんな感情を向けられる『男の子』に出会えるのだろうか?

 カナンはそんなことを考えながら、映画館に向かって歩き出す。


(……これは、見なかったことにしよう)


 もし二人の関係が公になれば、クラスでちょっとした騒ぎが起こるだろう。

 小鳥遊カナンはこっそりと、二人の中を見守ろうと思うのだった。

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