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会いたくなっちゃってる

20190902 更新1回目

         ※




 竜胆を駅まで送った後、俺は少し寄り道してから家に戻った。

 自宅に着いた頃には陽が落ち始めていた。


「ただいま」

「おかえりなさい~」


 居間の方から妹の声が聞こえてきた。

 部屋に戻る前に一度、天音の前に顔を出しておくか。

 俺は居間の扉を開いた。


「お兄ちゃん、デート楽しかったですか?」


 顔を合わせた瞬間の妹の第一声がこれだ。


「だからデートじゃない」


 ソファに座っている妹に淡々と伝えた。


「またまた~。

 どことなく今日のお兄ちゃんは機嫌が良さそうです。

 それが、彼女さんとイチャイチャしてきた証拠です!」


 ビシッ! と人差し指を俺に向ける。

 名探偵かお前は。


「残念だがその推理は外れだ。

 俺は部屋、戻るからな」


 本当は完全な的外れというわけではないが、これ以上あれやこれや聞かれても困る。

 俺は逃げ出すように部屋を――。


「お兄ちゃん」

「うん?」

「今度、彼女さん紹介してくださいね」

「……彼女じゃないが……そうだな。

 機会があればな」

「……――はい! 天音はとても楽しみにしています! お夕飯、できたら呼びますね!」


 天音の返事に間があったのは、俺の返答が意外だったからだろう。

 ただ、こんなことを言った俺自身が、自分の発言を驚いていた。




           ※




 部屋に戻ってベッドに倒れる。

 すると、身体の疲労感が一気に押し寄せてきた。

 気を抜くとこのまま眠ってしまいそうなくらいだ。


(……でもイヤな疲れじゃない)


 休日に誰かと出掛けるのなんて久しぶりだった。

 少し前までは……周りにはみんながいた。

 毎日が楽しかった。

 でももう、あの日が戻ってくることはない。


とおる――忘れないでね。

 何があっても、僕たちはずっと親友だから』


 親友だったあいつの顔が――少しずつ思い出せなくなっていく。

 いつか全部忘れられたなら、この胸の痛みは消えるのだろうか?


「はぁ……」


 過ぎたことなんて考えても仕方ない。

 あの時、どうするのが正解だったのか

 そんな無駄なことを考えては、傷付いて、後悔して……その結果が今だ。


(……俺が竜胆と……関係を持つ資格なんてあるのだろうか?)


 俺はまた……築いた関係を壊してしまうんじゃないか。

 そうなったら、彼女を傷付けることになるだけじゃ――。


「……うん?」


 スマホが震えた。

 多分、竜胆からのメールだろう。


『今、帰ってきたよ~。

 皆友くん、今日は本当にありがとう』


『無事に着いたなら良かった』


 返事をしたが、少し素っ気なかっただろうか?

 文章で連絡を取るのは楽だが、あまり好きではないかもしれない。

 感情や意図が伝わらないことがあるからだ。

 そんなことを考えていたら、


『今度デートする時は、皆友くんの家に行ってみたいな』


 ちょ!?

 うちの妹とシンクロしてるのか?

 なんでこのタイミングで似たようなことを言ってくるんだ。

 そんな動揺を抱えつつ、


『機会があればな』


 俺は無難な返信をしておく。


『それか、うちの実家に来てくれてもいいよ?

 両親が皆友くんに会ってみたいって言ってるから』


 はあああっ!? ご、ご両親!?


『俺のこと伝えてるのか!?』


『うん。

 危ないところを助けてもらったって』


 なんだ。

 その話か……。

 大切な娘を助けてくれた恩人にお礼だけでも……といった感じだろう。


『気にしないでくれって伝えておいてくれ』


『でも、こうやって縁があったんだから……いつか遊びに来てよね』


『……それも、機会があればな』


『機会は作るものでしょ?

 まぁ、皆友くんの家に遊びに行くのはご家族の都合もあると思うから、直ぐには無理かもだけど、あたしの実家なら、いつ遊びに来てくれてもいいからね。

 パパもママも歓迎してくれると思うから』


 娘が男を家に連れてきたら、父親としては複雑な気持ちを抱くと思うが……。

 何より俺が緊張するので、やはり自宅デートなるものは勘弁願いたい。

 ――コンコン。

 部屋の扉がノックされた。


「お兄ちゃ~ん、ご飯だよ~」


 ドア越しからなので、くぐもった声が聞こえる。


「わかった。直ぐに行く」

「は~い」


 ベッドから身体を起こす。


『夕食ができたみたいだ』


『そっか。

 行ってらっしゃい』


『ああ。

 竜胆、明日……学校でな』


『うん。

 早く、明日になればいいのにな。

 さっきまで一緒にいたのに……もう皆友くんに会いたくなっちゃってるよ』


 そのメッセージを読んで、胸の中が熱くなっていく。

 俺は食事の前なのに、胸焼けで空腹が満たされるような、不思議な感覚が広がっていた。

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